第21話 本当の力 1
康介は、呼吸をするのも忘れて廃区画で立ち尽くす。
そこは――火の海だった。
至る所に火がつき、付近の建物は瓦礫の山と化している。
その中に一人だけ立っている人物――氷炎がいた。
氷炎は康介に気づくと口を開く。
「ああ、遅かったね」
康介はそれには答えず、必死に氷上と翔太を目で探す。
そして見てしまった。
血を流し、地面に伏している友人の姿を。
「……折田? 佐藤?」
いるはずのない二人に目を見開く。二人は意識がないようで、返事はない。
視線を横にずらすと、そこには同様に伏している翔太の姿。辛うじて意識があるのか、小さくうめき声を上げている。
そこに弱々しい声が聞こえてきた。
「康……介、君……」
氷上の声だ。
康介は探し、そして見つけた。
そこは氷炎の程近く、氷上が仰向けに倒れ、顔だけを康介に向けている。
「――っ、氷上!!」
康介は駆け寄ろうとするが、それを妨げるように、氷炎が二人の間に割って入る。
「邪魔だ! 退けぇ!」
激昂したように康介は叫ぶ。 そんな様子を面白そうに氷炎は笑う。
「あの子がそんなに大事?」
倒れている氷上を見遣りながら問い掛ける。
「当たり前だ!」
「それは幼なじみに似てるから?」
「――っ!」
氷炎の言葉に、康介は声を詰まらせた。
「あの子は幼なじみの代用品って事か」
それに康介が反論するよりも早く――まあ結局、と氷炎は続ける。
「君はまた護れなかったね」
笑みを浮かべながら、そう口にした。
その言葉で、康介の中の何かが――キレた。
沸き上がる負の感情。
「あぁぁぁぁぁあ!」
康介は雄叫びを上げ、殺意の篭った目で氷炎を見遣る。
そして次の瞬間、氷炎の足元から鋭く尖った岩が突き出した。
「なっ!?」
康介が岩を操った――その事に氷炎は驚くが、咄嗟にそれを躱す。
そして反撃しようと康介を見た時、驚愕のあまり硬直した。
氷炎の視界に映ったのは、有り得ない光景。
炎、水、氷、雷、風がそれぞれ球体になっており、周りを飛び交うその数は数えきれない。
「くたばれ」
康介は腕を振るう。
それを合図に、総ての球体が放たれた。
迫る球体を躱す為に氷炎は飛び退こうとするが、それは囲うように地面から伸びてきた鋭い岩によって阻まれる。
そして様々な属性の球体は、その総てが氷炎に降り注いだ。
着弾点で、違う属性のエネルギーが混ざり合い爆発が起こる。
直撃した氷炎は無事では済まないだろう。
しかし康介は、更に追い撃ちをかける為に無情にも言葉を紡ぐ。
「ジャッジメント」
そして降り注ぐ極太の雷。
辺りに轟音が響き渡り、粉塵か舞い上がる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翔太は遠退く意識を必死に繋ぎ留め、体を起こす。
康介と氷炎は何かを話していて、翔太に気づく様子はない。
翔太は近くに伏している折田と佐藤に近づき、声をかける。
「おい! 大丈夫か!?」
その声に二人は、僅かに反応する。
「ぅ……」
折田はゆっくりと目を開けると、翔太は不安げに問い掛ける。
「翼、大丈夫か?」
「ぁ……うん。何とかね」
頭を抑えながら折田は答えた。
その隣では佐藤も意識を取り戻したようで、体を起こしていた。
「瑞葉も大丈夫か?」
「全身が痛いけどなんとか……」
一応大丈夫、と佐藤は頷く。
「彩香はどこだ……?」
翔太は辺りを見回す。と、すぐ後ろから声が聞こえた。
「皆……よかった、生きてたのね」
体を引きずりながらも、氷上は翔太達に近づいて来ていた。
その時、佐藤が驚きの声を上げる。
「皆……! あれ見て!」
指差す先には康介の姿。そして、その周りに飛び交う多種多様な属性の球体があった。
その光景に、佐藤以外の三人も驚き――いや、驚愕する。
雷の能力の筈の康介が違う能力を、しかも複数使用している有り得ない光景。
「あれ、……どういう事?」
折田が呟くも、誰もその問いに答えない。いや、四人全員が困惑している為、誰も答えられないのだ。
四人は呆けたように、その光景を見続ける。
そして、それを現実に引き戻すかのような爆発音――次いで雷による轟音が響いた。
その音で皆はハッと我に返り康介を目で探すが、立ち込める粉塵のせいで視界が悪く、見つける事が出来ない。
その粉塵の中、康介は疲労からか膝に手を置き、息を荒げていた。
「やったか……?」
呟きながら顔を上げる。倒したという確信からか、その表情から怒りの色は薄れていた。
「いや、それよりも――」
あいつらは、と康介は走りだす。
「大丈夫か!?」
四人を見つけると、康介は声を荒げながら駆け寄って行く。
「ええ、なんとか」
氷上が返事をすると、康介は皆の姿を確認し、安堵の表情を浮かべる。
「倒したんだよな?」
目を細め、粉塵の中を見遣りながら翔太が問い掛ける。
「ああ、アレを直撃して無事な訳がない」
深く頷きながら、康介は答えた。
と、そこに佐藤が興奮したように立ち上がる。
「そ、それより! さっきのは――」
何かを聞こうとしたが、途中で大きな笑い声が響き、質問は妨げられた。
聞こえ続ける狂ったような笑い声。
まさか、と康介は振り返る。
少しだけ晴れて薄くなった粉塵の中に浮かぶ一つの人影――間違いなくそれは氷炎だろう。その事に康介は唖然とする。
すると氷炎は笑いを止めて話し出した。
「これが本当の力か! 凄いじゃないか! 死ぬかと思ったよ!」
感嘆したような口ぶり。そして粉塵で表情はわからないが、声には嬉しさが混ざっているようにも感じる。
続けて、
「目的は果たしたし今日は引くとしよう」
と、満足そうな声を上げた。
「逃がすとでも?」
逃げようとする氷炎に、康介は言い放つ。
しかしそれを気にした様子もなく、氷炎は言う。
「ああ、この粉塵は調度いいね。使わせて貰うよ」
その言葉に、康介は何かに気づき、叫ぶ。
「皆! 伏せろ!」
直後、その場を爆炎が包みこんだ。
爆炎が晴れると、そこに氷炎の姿はなかった。
まんまと逃げられた事に、康介は小さく舌打ちをし、四人の方ぬ振り返る。
「この障壁……和田君が張ったの?」
康介達の周りには、障壁が張られていた。自分達を爆炎から護った障壁を見ながら、佐藤は問い掛ける。
「……ああ」
質問に、躊躇いつつも康介は答えた。
「さっき色んな球体は何? 今の障壁は? どういう事なの? 氷炎が言ってた本当の力って?」
佐藤は疑問を一気に捲し立てる。気になっているのは佐藤だけではなく皆の視線が康介に集中した。
康介はしばらく口を閉ざしていたが、やがて観念したようにため息を吐く。
「――魔法って知ってるか?」