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第20話 廻り始める歯車2

 康介は一人の女と対峙していた。

 見た目は美人で茶髪ロングの優しそうなお姉さんと言った所だ。

 だが、その見た目とは不釣り合いな威圧感を放っていた。


「あんた誰だ?」


 とても友好的とは思えない女に、康介は身構える。


「そうね。氷炎からはキャサリンって呼ばれてるわよ?」


 よろしくね、とキャサリンと名乗った女は微笑む。

 その自己紹介に入っていた氷炎と言うキーワードに、康介は警戒し、反射的に距離をとる。


「お前……トロイか?」


「言わなくても解るんじゃない?」


「質問を変えよう。お前が氷炎のパートナーか?」


「良く知ってるわね。貴方は和田康介、で合ってる?」


 キャサリンが問い掛けるが、康介は目を細めただけで、質問には答えない。


「沈黙もまた解なり、ってね。少し遊んで貰うわよ?」


「出来れば遠慮したいが……」


 微笑むキャサリンとは対照的に、康介は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「こんな可憐な美人が誘ってるのに釣れないわね」


「……可憐な美人は嫌いじゃないが、危険な美人に関わりたくはないな」


「綺麗な華には棘があるものよ?」


「生憎と華を愛でる趣味はないんでね」


 だから、と続ける。


「逃げさせて貰う!」


 その言葉と同時に、康介は目眩ましに強い閃光を放つ雷球を生み出し、その場から飛びのく。


 そのまま離脱しようと走り出すが、キャサリンによってそれは阻まれた。


「甘いわね」


 辺りに水の膜が二人を包むように、ドーム状に展開される。


 閉じ込められた、康介はそう理解すると小さく舌打ちをした。


「これで逃げられないわよ? さあ、遊びましょ?」


 キャサリンは妖艶な笑みを浮かべ、自身の周りに無数の水球を生み出す。


「水の能力か、俺の雷とは相性が悪いぞ?」


 だからやめておけ、と康介は言うが、キャサリンは不敵に微笑む。


「それはどうかし、らっ!」


 水球から、鋭く尖った水が伸びる。


 康介はそれを横に跳んで避けると、お返しだ、と電撃を放った。


 だがその電撃はキャサリンに近づくにつれて細くなり、そして消えた。


 その光景に康介は眉を顰める。


「……何をした?」


「確かに水は電気を通すから相性が悪いと思われがちだけど、それは電気を拡散させるって事でもあるのよ?」


 赤子に諭すように話すキャサリンに、康介は苛立ちを感じたように表情を変えると、無数の雷球を作り出す。


 そして雷球から幾条もの電撃が放たれる。


 しかしキャサリンは、迫り来る電撃を前にクスッと笑った。


「無駄よ」


 微動だもしていないにも係わらず、またしても電撃は消えて行く。


 康介は必死に考える。キャサリンは水で防御している訳ではない、なのに何故電撃が悉く消されるのか。

 しかし答えは出ない。


 そんな康介の心情を悟ってか、キャサリンが口を開く。


「解せない、と言いたげね」


 そう言う表情は余裕に満ちている。


 否定できない康介は苦々しく顔を歪めた。


「顔に出やすいのね。良いわ、教えて上げる。

私の能力は、水掌握――いや、水分掌握とでも言うのかしらね」


「水分、掌握?」


 康介は聞き慣れない単語に困惑する。


「そう、総ての水分が私の武器。液体は勿論――水に準ずる気体だってね」


 その言葉に康介は、ハッとする。


「……つまり電撃の周りに、大量の空気中の水分を集めて電気を逃がしていた、と?」


「その通り。賢い子は好きよ?」


 キャサリンは康介の出した答えに、満足そうに頷く。


「……そうか。だったら、これならどうだ!」


 康介は総ての雷球を一つに纏めて巨大な雷球を作りだし、キャサリンに放つ。

 これなら電気を逃がし切る前にキャサリンに届く、と。


 それは多少の減衰はしたが、キャサリンの目前に迫る。

 が、水の膜によって簡単に防がれてしまう。


「言ったでしょ? 掌握だって。操るのと掌握するのは違うわ。水から不純物を取り除いて絶縁体にするのは訳無いし、大量の水を圧縮して作った大質量の膜なら、圧力で破られる事もそうそうないわ」


 キャサリンはクスクスと笑いながら話す。


 康介はそれに悔しそうに歯を食いしばる。

 貴方の雷は効かない、遠回しにそう言われた気がしていた。


「――っ! なんで自分の能力についてペラペラと話すんだ?」


 普通は隠す物だろう、と問い掛けると、それにキャサリンはニヤッと嫌らしい笑みを浮かべながら答える。


「私だけが貴方の能力を知ってるなんて、フェアじゃないじゃない? それに――このお喋りは、ただの時間稼ぎだから」


 どう言う事だ? 康介がそう問おうとした瞬間――


 ――激しい爆発音が響いた。


「なっ!?」


 康介は驚き、音のした方に振り返る。


 そして絶句した。


 黒煙を上げるその場所は、氷上と翔太がいる筈の廃区画。


「氷炎は派手にやってるみたいね。

貴方のお友達――無事かしら?」


 キャサリンが廃区画の方を見ながら言う。

 康介はその言葉に、最悪の状況を思い浮かべ、震えた声を絞り出す。


「まさか……」


「生きてると良いわね?」


 笑顔で言うキャサリン。しかしその優しい表情とは裏腹に、言った内容は酷く残酷だ。


「……さ…ぇ」


「あら、どうしたの?」


 俯き、小声で何かを呟く康介に、キャサリンは問い掛ける。

 瞬間、康介は勢い良く顔を上げ、叫んだ。


「許さねぇ!!」


 怒り狂ったように怒気――いや、殺気を放ち、それと共に凄まじい程の電気が康介から迸る。


「心地好い殺気ね。

じゃあ――始めましょう」


 キャサリンの周りに水が渦巻き出す。


 一瞬の膠着。


 そして二人は同時に攻撃を放つ。


 康介は極太の雷を。

 キャサリンは鉄砲水の如き水を。


 それらは中央でぶつかり合い、お互いを打ち消した。


「やるじゃない!」


 キャサリンは楽しそうに笑いながら鋭い水を康介目掛けて伸ばす。


 康介はそれを上に跳んで躱し、巨大な雷球を飛ばす。


 それは先程と同様に水の膜によって阻まれるが、康介はそのまま攻め続ける。


 その攻撃には戦略など何もない。ただがむしゃらに電撃や雷球を放っている。

 しかしその威力は先程とは比べ物にならない程強力だ。


 が、やはりと言うべきか、その総ては相殺、または打ち消されキャサリンには届かない。


「無駄と言ったでしょう」


 キャサリンは挑発するように話し掛けると、その言葉に康介は攻撃の手を止めた。


「あら、諦めたの?」


 心を逆なでするような問い掛け、それに康介は攻撃で答えた。


「ジャッジメント!」


 叫び声と同時に、雨のように降り注ぐ極太の雷。

 タイムラグなしで放たれたそれは以前よりも威力で劣るが、対個人が相手ならば十分過ぎる威力。


「くぅっ……!」


 キャサリンは突然の攻撃に、分厚い水の膜を張って防御する。


 轟く爆音。


 辺りに煙が立ち込める。


「――まだだ!」


 康介は怒りで我を忘れているように、煙の中に電撃を放ち続ける。


 一心不乱に何度も何度も。







 しばらくしてようやく攻撃の手を止めると、荒くなった呼吸を整えながら周りを見る。


 すると、康介を閉じ込めていた水の膜がなくなっていた。


 それに気づくやいなや、康介は廃区画に向けて走りだした。

「間に合ってくれ……!」


 悲痛な表情を浮かべ、全力で駆けて行く。







 康介が去った後、煙が晴れるとそこにはキャサリンが立っていた。


 所々、服が煤けているが、それだけでダメージは見られない。


「全く、とんでもない威力ね」


 服を叩きながら、呆れたように呟く。


「あの子相手で、氷炎は大丈夫かしら」


 キャサリンは、どこか心配そうな眼差しで廃区画の方を眺めていた。

キャサリン登場!

ちょっと前にビルの上に氷炎といた女性です。

ちなみにキャサリンは本名ではないですよ?

キャサリン、作者的には大好きなキャラかもしれない。



ってか……許さねぇ!って康介っぽくなかったかなぁ……

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