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第14話 団結

「……助かった」


 1人の生徒が呟く。

 康介達の1団は校舎1階のロビーにいる。


 校舎の入口には、氷上によって分厚い氷が張られていて、バケモノの侵入を防いでいる。


 しかしそれもその場凌ぎ。バケモノ達は、激しく体当たりを繰り返して氷を破ろうとしている為、いつまで持つかわからない。


 だが、その仮初めの平穏に、皆は落ち着きを取り戻し始めていた。


「俺達、どうなるんだ?」


 誰がそう言った。


 なんとなく発せられた一言だろう。しかし、その言葉がきっかけとなり、辺りに絶望感が漂う。


 ――きっと助からない。


 皆が、そう思っているのだろう。


 そんな時、翔太が声を張り上げる。


「諦めんじゃねぇよ!死ぬと決まった訳じゃねぇだろ!」


 ロビーに声が響き渡る。


 その翔太の言葉に、数人は目の色を変えて拳を握りしめた。


「そうだ!戦おう!」


「脱出くらいなら出来るはずだしね」


「諦めるより先に、出来る事をしよう」


 その数人が口々に言う。


 それに触発されたように、他の生徒達も立ち上がる。


 しかし、半数は動かない。それどころか皆の決意を削ぐような事を口にする。


「あんなバケモノ相手に、何が出来るんだよ」


「そうだ。戦っても喰われるだけだ」


 何をやっても結果は変わらない。結局は死ぬのだ。そんな意味合いの言葉を並べている。


 そんな言葉に、他の生徒の決意は揺らぎだす。


 そして、そこに追い撃ちをかけるような出来事が起こった。


「康介君!もう持たないわ!」


 氷を張っていた氷上の、危機迫る声。


 そして聴こえてくる、氷が軋み、ひび割れていく音。


 それだけの事に、皆の決意はいとも容易く崩れ去った。


 ――ああ、結局何も出来ないのか、と。


 そんな絶望感漂う中で、冷静に、しかし闘志をその目に宿し、バケモノを見据える3人がいた。


 そう、康介、翔太、氷上だ。

 特に氷上はバケモノに1番近い所で、今にも壊れてしまいそうな氷を必死に補強し、支えつづけている。


 その氷上を指差しながら翔太が怒鳴る。


「お前ら!彩香があんなに頑張ってるんだぞ!

それを無駄にする気かよ!?」


 しかし、皆の反応は芳しくない。


 その反応に、翔太は舌打ちをすると氷上の下へ走っていく。

 そして――とうとう氷の壁か破られた。


 雪崩れ込んでくるバケモノ。

 上がる悲鳴。


 氷上と翔太は、慌てて康介がいる場所まで下がってくる。


「やるぞ」


 康介が、氷上と翔太にそう告げると、2人は頷く。


 康介は手を前に突き出す。


 迸る電撃。


 手前にいた数体のバケモノが感電し、焼け爛れて絶命していく。


 幸いにも前回のような、固い外皮を持つバケモノは少ない。 それらには、普通の攻撃でも充分に通用する。


「切り裂け!」


 翔太は、手刀を横薙ぎに振るう。


 放たれるは、風の刃――所謂、鎌鼬だ。


 それは容赦なくバケモノを切り刻む。



「貫け!クリスタルダガー!」


 氷上の周りに、氷の刃が10個ほど生み出され、一直線に突き進む。


 そして、バケモノに容易く突き刺さり打ち出していく。



 しかし、倒しても倒しても、その亡きがらを乗り越えバケモノは迫ってくる。


 が、倒す事は出来る。3人だけでも、少しの足止めが出来ているのだ。


 康介は叫ぶ。


「見ろ!このバケモノは不死身じゃない!倒せるんだ!

だったら、諦める前に出来る事があるだろう!?戦えよ!生き残れる可能性はあるんだ!」


 そう言っている間も、電撃の手は緩めない。翔太と氷上も同様に攻撃を続けている。


 生徒達は、康介の言葉で、3人の勇敢さで、希望を見いだしたように動き出す。


 その内の1人が、雄叫びを上げながら康介達の下まで走り、炎を放つ。

 火力は足りないながらも、その炎は確かにバケモノにダメージを与えた。


 他の生徒達も、それに続くように攻撃を始め、多種多様な能力が飛び交う。


「氷上!氷の壁を!」


「わかったわ」


 康介の言葉に氷上は素早く反応し、氷の壁でバケモノと自分達を隔てる。


 それを確認した康介が皆に指示を飛ばす。


「一旦引くぞ!」


 皆はそれに従い、下がって行く。バケモノが氷の壁に阻まれている間に、2階に上がり教室に隠れる。


「氷上、ドアも凍らせてくれ」


 最後に教室に入った康介が、そう頼む。


「ええ、任せて」


 氷上はそう言いながら、ドアを氷で補強する。


 それが終わると、康介は皆を見回す。


「ざっと30人くらいか」


 呟く康介に、翔太が話し掛ける。


「なあ、この後どうする?」


「学校から脱出だな」


 康介は答えると、窓の外に視線を向ける。そして何かに気がついた。


「これは……結界か?」


「おいおい、マジかよ」


 翔太もそれを確認すると、苦々しい表情で呟く。


 外は、学校の敷地を覆うように、ドーム状の結界が張られていた。


「恐らく、バケモノを外に出さない為だな」


「康介君、これじゃ逃げれないわよ?」


 氷上の言葉に、康介は考え込む。しばらく難しい顔をして下を向いていたが、考えが纏まったように顔を上げる。


「この中に、転移の能力者はいるか?」


 康介が全員に問い掛ける。


 すると、1人の女子生徒が手を挙げた。その女子生徒に康介は話し掛ける。


「この人数の転移、出来るか?」


「たぶん。けど20メートル位を1回が限界だと思う」


 女子生徒は自信なさ気に答える。


「充分だ」


 その返答に康介は、満足そうに言う。


「康介、どういう事だ?20メートルじゃ意味ないだろ」


 そのやり取りを疑問に思ったのか、翔太が不思議そうに話し掛ける。


「それを今から説明するんだ。

皆、聞いてくれ!脱出する方法が1つだけある。」


 その言葉に、皆が歓喜したようにざわめき、視線が康介に集中する。


「作戦自体は簡単だ。まず、校舎から出る。その後バラバラにならないように一塊になり、外のバケモノ共を突破して、結界から20メートル以内に近づく。そして結界外に転移だ。

脱出するには、これしかない」


 その内容に皆が頷き、納得する。


「異論がないなら決まりだ。すぐに始めるぞ。まずは校舎から出ることだけど――氷上、ここから下まで滑り台みたいに出来るか?」


「ええ、大丈夫よ」


 氷上は答えると、全員が1度に滑れる位に大きな物を作り上げた。


「それじゃあ、攻撃手段がある者は外側、ない者は内側で集まってくれ」


 康介は指示をだすと、皆は素早くその通りに移動した。


「いいか、下に降りたらバケモノを倒しながら、結界に向けて進むんだ。殿は俺、翔太、氷上でやる。

それじゃあ――行くぞ!」


 康介の言葉と同時に、皆は気合いの入った声を上げ、滑り降りていく。


「氷上、翔太。生き残るぞ」


「おう!」


「ええ」


 そう短く話すと、3人も下に降りて行く。


 3人が下に着くと、先頭は既に戦い始めていた。

 皆が協力し合い、バケモノを打ち倒していく。


 しかし、とてつもない数に行く先を阻まれ、後ろからも校舎から出て来たバケモノが迫ってくる。


 その時、翔太が叫ぶ。


「皆は前だけ見て進め!後ろは俺達で守る!」


 心強い言葉。その言葉で皆の士気が跳ね上がる。

 男も女も関係なく声を荒げ、勢いを増していく。


 誰の能力なのか区別は出来ないが、炎がバケモノを焼き、水が押し流し、鋭く尖った岩が地面から突き出す。他にも様々な攻撃手段でバケモノを倒しながら進んでいく。


 しかし、どんなに善戦しようとも、犠牲者は出てしまう。


 1人、また1人と、バケモノに切り裂かれ、噛み砕かれ、無惨な姿へ変わっていく。


 見知った人間が目の前で死んでいく光景。

 むせ返るような血の匂い。

 体力と共に擦り減る精神。


 それでも皆は諦めない。瞳に強い光を灯し、前へ前へと進んていく。生き残る為に全力で戦い続ける。







 康介達もまた、必死に戦っていた。

 後ろから追ってくるバケモノをたった3人で迎撃する。


 走る稲妻。


 降り注く氷塊。


 吹き荒れる暴風。


 3種3様の攻撃が入り乱れる光景は、それはさながら嵐の縮図。


「もう少しだ!」


 康介が言う。


 結界までの距離はあと50メートルほど。

 目標地点まで30メートル。たったの30メートルだ。


 ようやく終わりの見えてきた戦いに、皆が最後の力を振り絞る。


 20メートル


 10メートル


 そして、遂に目標地点までたどり着く。


「転移するぞ!皆、離れるなよ!」


 康介が言うと、女子生徒が能力を発動させ、皆を淡い光が包んでいく。


 ――これで助かる


 皆がそう思い油断する。その隙に1体のバケモノが一気に距離を詰めて来ていた。


 氷上に1直線に迫っていく。


 慌てて氷上は迎撃しようとするが、間に合うタイミングではない。


 ――やられる。


 そう思った刹那、翔太が間に割って入ると、突風を起こしバケモノの勢いを削ぐ。

 が、完全に止める事は出来ずに2人は皆のいる所から弾き飛ばされた。


 康介は、とっさに2人の下へ駆け寄り、襲い掛かろうとしているバケモノを電撃で打ち倒す。


「戻るぞ!取り残される!」


 康介がそう叫ぶと氷上と翔太は、すぐに体勢を立て直し、急いで戻ろうとするが――その瞬間、転移は完了して皆は結界外に脱出した。

 そう、3人は取り残された。


「嘘、でしょ……」


「マジかよ……」


 氷上と翔太はその事に愕然とする。


「……悲観する暇はないみたいだ」


 康介はそう呟いた。

 氷上と翔太は、それで我に返り、周りを見渡す。


 そして気づく。


 康介達3人は200を超えるバケモノに囲まれていた。


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