第13話 始まりの旋律
ビルの屋上に、2つの人影ある。その片方は氷炎だ。
箱庭で1番高い場所。そこで氷炎と女は風に吹かれながら街を見下ろしている。
「彼とは接触出来たの?」
「まあね。なかなか活きが良かったよ」
「そう。強かった?」
「バケモノを寄せ付けないくらいね。虚幻にも勝ったそうだ」
「それは想像以上ね」
そこで会話を一旦止めて、2人は再び景色を、笑みを浮かべながら眺める。
「準備は整ったんだよな?」
氷炎が確認するように話し掛ける。
「もちろん」
「じゃあ、始めよう」
女の返答に、氷炎は満足そうな顔をして、そう告げた。
「まずは、あそこだ」
そう言って指を指す。指した場所は、康介達が通う学校の辺り。
女は深く頷くき、氷炎の手を取る。
「――行こう」
そう言って2人は、その場から去って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
康介が虚幻の襲撃を受けてから10日。
ケガはすっかり良くなり、学校にも通いだした。
ただ、折田と佐藤には何も話していない。いたずらに話すことで、巻き込んでしまわない為だ。
学校では、今まで通りに過ごし、帰ってからは康介、翔太、氷上の3人で鍛練を繰り返して日々。
そして3人は今、康介の家に集まっていた。
「2人に渡す物がある」
康介は言いながら、少し大きめの箱を前にだす。
「なんだ?」
「渡す物って?」
翔太と氷上は、不思議そうに首を傾げる。
「これだ」
箱を開けると、そこにあったのは、銃のような物と、鞘に納められた一振りの刀。
それを見た2人は当然驚く。康介はそんな2人に説明を始めた。
「これは特殊な武器だ。刀の方は能力を纏う事ができる。銃もそれに似たようなもので、弾丸は要らず、能力を打ち出す事ができる」
「康介君が、どうしてこんな物を?」
「まあ、いろいろあってな」
氷上の疑問に康介は言葉を濁す。
「護身用だと思って持っていてくれ」
「康介、いいのか?」
「ああ」
康介が頷くと、2人は武器を手に取る。翔太は刀を、氷上は銃を握りしめ、康介にお礼を言う。
「ありがとう」
「ありがとな!」
「気にするな。それがあれば、戦いの幅も広がるだろう。トロイに狙われてるかもしれないんだ、このくらいの準備はした方がいい」
康介の言葉に翔太と氷上は納得したように頷く。
「まあ、話しはこれだけだ。使い方は自分で確認しといてくれ」
康介がそう言うと、物騒な話しを止めて雑談が始まる。
「康介、今日泊まっていい?」
当然、翔太がそんな事を口にした。
「いや、帰れよ」
「いいじゃんか。友達だろ?」
「そんな都合のいい友達はいらない」
翔太は辛辣な言葉を投げ掛けられ、若干顔が引き攣らせ、渋々諦める。その表情は捨てられた子犬のようだ。
そんな翔太にため息をつきながら康介は言う。
「また今度な」
その言葉に翔太は、一気に表情を明るくし、返事をする。
「おう!」
「じゃあその時は、私も一緒ね」
「いや、流石にそれはマズイだろ」
氷上の発言に康介は眉をひそめながら言う。
確かに、年頃の男女が一緒に泊まるのはいろいろと問題があるだろう。
しかし氷上はそんな事気にした様子もない。
「別にいいじゃない」
そんな氷上に、康介は諦めたように肩を落とす。
「……もう好きにしてくれ」
「ええ、ありがとう」
康介の言葉に氷上はニッコリと笑う。
その後しばらくして、翔太と氷上は帰って行った。
翌日、康介達は学校で授業を受けていた。
教室は静まり返り、カツカツとチョークのぶつかる音と、皆がノートにペンを走らせる音だけが響く。
そんな中、康介はボーッと窓の外を眺めている。
いつもと変わらない穏やかな学校生活。
しかし、その日常は突然崩れ去った。
ドォォォン!
と、激しい爆発音が響く。
それと共に聴こえてくる、建物の倒壊する音。
静かだった教室は、いや、学校全体がそれによりパニックに陥る。
ある者は悲鳴を上げ、ある者は窓から身を乗り出し辺りを見回す。
その時、1人の生徒が声を張り上げた。
「隣の建物が崩れてるぞ!」
その言葉に釣られ、皆がその光景を確認しようと殺到する。
隣の建物――それは政府管轄の施設だ。
それは確かに、見る影もなく崩れ去っていた。
「皆落ち着け!学校に被害はない!」
突然の事に浮足立っている生徒に、いち早く状況を把握した教師が檄を飛ばす。
そんな中、氷上と翔太は康介に駆け寄っていく。
「康介君!」
「康介!」
その表情はどちらも厳しいものだ。
「……トロイが動いたか」
駆け寄ってきた2人を前に、康介は呟く。
政府管轄の施設が潰された。それはやはり、反政府組織の――トロイの仕業だろう。
「やっぱりそうか」
翔太は舌打ちをして、地面を踏み締めた。
そんな翔太を宥めるように氷上が声を掛ける。
「翔太君、落ち着いて」
それに続いて康介も口を開く。
「学校に被害はないんだ。今は大人しくしてた方がいい。わざわざこっちから動くことはないんだ」
「そう、だな」
翔太は氷上と康介の言葉に、落ち着きを取り戻したように返事をする。
教室も次第に落ち着いて来ている。
それに伴い避難が始まっていた。いくら学校に被害がなくても、このあと何が起こるかわからない。その為の避難だ。
「慌てずに校舎から出るんだ!」
教師が生徒を先導する。
康介達もそれに従い教室をでる。その際に、翔太は自分の席から布に巻かれた棒状の物を手に取っていた。
廊下に出ると、他のクラスは既に避難を始めていたようで、生徒の数は少ない。
そのまま皆は外へと向かっていく。
と、その時。突然校庭の方から悲鳴が上がった。
そして、校舎から出た康介達の目に飛び込んできたものは、――バケモノだった。それも1匹じゃなく、多数。そのバケモノに生徒が襲われ、逃げ惑う光景。
阿鼻叫喚。そう形容するしかない。生徒達の悲鳴が、ある種のオーケストラのように響く。
「なによ……これ」
あまりの光景に、氷上が愕然とする。
いや、氷上だけではない。その周りの生徒もだ。皆、放心状態になっている。
バケモノが縦横無尽に駆け回り、威嚇し、襲い掛かる。
生徒達は散り散りになり、混乱の中で命を落としていく。
そしてその間にも、どこからか湧いて来たかのように、バケモノは数を増やしている。
だが、それでも次々と安全な所に、逃げ延びて行く生徒もいた。
この学校は、能力者しかいない。能力者なら、混乱に乗じて逃げる事も出来るだろう。
徐々に逃げ延び、襲われ、校庭から生徒が減っていく。
そんな中、康介達の1団は、まだ校舎の前にいた。校庭にいなかった為、襲われる事はなかったが、そのために逃げる事を忘れていた。
そして康介は気づく。
校庭の生徒が少なくなったらどうなるかを。その場所の獲物が減ったら、バケモノ達は新たな獲物を探すだろう。今だ放心状態の康介達の1団は、格好の餌となる。見つかれば一斉に襲い掛かって来るだろう。
康介は声を張り上げる。
「マズイ!孤立するぞ!」
その言葉に皆は、ハッと我に返るが――遅かった。
周りには既に、バケモノが囲うように集まって来ていた。
そして、一斉に遅い掛かって来る。
康介達に残された逃げ場は1つ。自分達の後ろにある校舎だ。
建物の中に入ってしまうと、逃げ場はなくなる。しかし選択肢はそれしかない。
皆は、我先にと校舎内に入っていく。
康介はそれを援護するように、雷撃をバケモノに飛ばしながら皆を追いかけ、校舎に入って行った。
バケモノ襲撃編、始まりました。
ここから話しが盛り上がって行く!……はずです。