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第11話 襲撃

 翌日の放課後、人がいなくなった教室で康介、翔太、氷上の3人は、佐藤に問い詰められていた。


「3人揃ってなんで昨日学校来なかったの!?」


「寝坊した!」


 いきり立つ佐藤に翔太が元気良く答える。


「揃って寝坊なんて凄い偶然だね?」


 佐藤に笑顔で言う。いや、口は笑っているが、目は笑っていない。

 そんな佐藤に、翔太と氷上が顔を引き攣らせながら答える。


「す、凄い偶然だな!」


「ええ、ホントよね」


 そのかたわら、康介と折田が話しをしだした。


「なんで佐藤はあんなに怒ってるんだ?」


「仲間外れにされたと思ってるんじゃない?2人が下手な嘘ついてるしね」


 折田が呆れたような仕草をしながら言う。


「寝坊か。確かに下手なんてもんじゃないな」


 当事者のはずの康介が、まるで関係ないかのように話している。


 そこに佐藤が声を掛けてくる。


「和田くん、なに無関係なふりしてるの?」


「事実、無関係だから。佐藤が帰る時に予定があるって言ったろ。それが長引いてたんだ」


「むぅ……」


 しれっと答える康介。佐藤はそれ以上康介に何も言えなくなってしまった。

 翔太と氷上は、そんな康介を『裏切り者』と言わんばかりの目つきで見るが、康介は気にとめた様子もなく口を開く。


「もう帰っていいか?」


 その発言に、翔太が驚いた顔をして呟く。


「『帰る』じゃなくて『帰っていいか?』……。珍しいな」


 確かに珍しい。康介なら問答無用で『帰る』と言うところだろう。


 すると佐藤が康介を引き止める。


「まだ帰っちゃダメだよ!これから皆でご飯食べに行くんだから!」


「え?なにそれ、初耳だよ?」


 佐藤の発言に折田が首を傾げて言う。翔太も氷上も同じような反応をしているところを見ると、皆知らなかったのだろう。


「だって今言ったんだもん!」


 佐藤は折田に、しゃあしゃあと答える。


「まぁ、私は良いわよ」


「さすが彩香!話しが分かる!皆も行くでしょ?」 氷上が答えると、それを皮切りに佐藤が残りの3人を誘いだす。


「俺も良いぜ」


「俺も行こうかな」


 翔太と俺もそう答える。それに満足そうな顔をしながら佐藤は康介に聞く。


「和田くんも行くよね!?」


 佐藤は目をキラキラさせながら康介を見ている。いや、他の3人もどこか期待しているような表情だ。


 その状況に康介の顔が引き攣らせ、黙り込む。『行かない』と言える雰囲気ではない。

 康介はきっと、こう思っているだろう。『勘弁してくれ』と。


 黙っていても状況は変わらない。康介は意を決したように口を開く。


「行けばいいんだろ、行けば」


 そう言う口調はどこか投げ遣りだ。

 しかしその言葉で4人は盛り上がった。『康介が陥落した』や『雨が降る』や『鉄仮面がとれた』など、いろいろ言っている。


 そんな4人に、康介がため息つきながら話し掛ける。


「行かないなら帰るぞ」


 すると4人は慌てて会話を止めて、佐藤が返事をする。


「待って待って、行くから帰らないで!」


 それに続くように氷上が言う。


「それじゃあ行こう!」


 それに翔太と折田は返事をして、4人は喜喜として移動を始める。康介はそれに渋々ついて行った。







 着いた先はファミレス。皆はメニューを見ていた。


「なに食べる?」


 翔太が皆に問い掛ける。それに氷上が答える。


「私は和風パスタね、大盛りの」


 皆が急に静まり返る。大盛りの部分で驚いているのだ。


「あら?皆黙ってどうしたの?」


「な、なんでもないよ。私はハンバーグで」


 不思議そうな顔をしている氷上に、佐藤がそう返す。

 次に折田がメニューから目を離し、答える。


「俺はグラタン!」


「康介は何にするんだ?」


「……ショートケーキ」


 翔太の問い掛けに康介はそう答える。その瞬間、皆が目を見開いた。まるで、有り得ないもを見たかのように。

 理由は簡単。意外過ぎるからだ。康介にショートケーキ、どう考えても異色な組み合わせ。 そんな4人の心境を知らない康介は首を傾げる。


「どうした?」


「何でもないよ」


 折田が答える。その顔は少しニヤついていた。

 康介は怪訝な顔をするが、翔太の声によって遮られる。


「それじゃあ頼むか!」


 そう言うと翔太が店員を呼ぶと、それぞれが注文をして、最後にドリンクバーを5つ頼む。


「皆なに飲む?取って来るよ」


 翔太がそう言って立ち上がると、それぞれ飲みたい物を伝えだす。


「メロンソーダ!」


「あっ、俺もそれ!」


 佐藤と折田が言う。


「康介君はコーヒーでしょ?」


「ああ、氷上はオレンジジュースか?」


「ええ、もちろん」


 康介と氷上がそんな会話をする。


「え、どういうこと!?なんで2人は通じ合ってんの!?」


 翔太がその会話に驚き、口を挟む。

 それに康介と氷上は『しまった』というような反応を見せる。以前2人でファミレスに行ったことを、皆に言ってなかったのだ。


「なにやら怪しいな。まぁ飲みながらゆっくりと聞こうじゃないか」


 翔太はニヤリと笑うと飲み物を取りに行く。


 飲み物が全員に行き渡ると、翔太が口を開く。


「で、なにがあったんだ?」


 ニヤニヤしながら康介と氷上に問い掛ける。


「別になにもない」


「そんな訳ないよね?」


 康介が否定するも、折田に切って捨てられる。

 そして観念したように氷上がその時の事を話し出す。


 あの日の事を話し終わると、折田が口を開く。


「康介も意外と手が早いね」


 ニヤつきながら、からかうように言う。


「そうかもな。いくらチンピラとはいえ、問答無用で気絶させることはなかった」


「え……そうじゃなくて」


「なんだ?」


 会話が噛み合わない。その様子を見た佐藤が康介に話し掛ける。


「和田くん、わかってて言ってる?」


「ああ」


「わかって言ってたんだ!?」


 肯定した康介に折田が突っ込みを入れる。

 そこに翔太が口を開く。


「しっかし2人はデート済みだったとはびっくりだ!」


「え、ちょ……、デートじゃないわよ」


 氷上はそう言うと、照れてしまったのか恥ずかしそうに俯く。

 そんな氷上に追い討ちをかけるように翔太が言う。


「じゃあ逢瀬?」


「同じようなものじゃない」


「同衾?」


「なっ、なんでそうなるのよ!?」


 氷上の顔はみるみる赤に染まっていく。

 それを面白がって、翔太が更にからかおうとすると、タイミング良く料理が運ばれてきた。 氷上は翔太のからかいが遮られ、ホッとした表情をすると、ここぞとばかりに話題を変える。


「さ、早く食べましょ」


 その言葉で他の4人も食べ始める。翔太だけは氷上をからかおうとしたが、康介に睨まれて渋々食べ始めた。


 5人は会話もそこそこに、ご飯を食べている。


「氷上、それ食べきれるのか?」


 康介が大盛りのパスタに目をやりながら話し掛ける。すると氷上は、食べたがってると勘違いしたのか、パスタを守るようにしながら答える。


「あげないわよ」


「彩香って意外と大食いだね!」


 氷上の食いっぷりを見た佐藤が、笑いながら言う。


「そんなないわ。普通よ普通。康介君はケーキだけで足りるの?」


「そんなに腹減ってないからな」


 そんな取り止めのない話しを続けているうちに、皆食べ終わる。


「そろそろ解散するか!」


「ええ」


「そうだね」


 翔太がそう言うと、皆は満足したのか、頷くき返事をする。


 5人は、会計を済ませると店を出る。


 外に出ると、康介が辺りをキョロキョロと見渡しだした。それを不思議に思った氷上が話し掛ける。


「康介君、どうかしたの?」


「いや、何でもない。じゃあな」

「え、ええ。またね」


 康介は歩き出す。その後ろ姿を見ながら氷上は首を傾げていた。


 その後、残った4人も口々に別れ際に挨拶して、それぞれ帰路につく。


 皆、楽しめた事もあり、満足そうな表情を浮かべていた。

 しかし康介だけは違い、難しい表情をしている。厳密に言うと店を出た時に表情が変わったのだ。


 康介はしばらく歩くと、普段は入らない裏道に入る。

 そして少し進んだ所で急に立ち止まった。そこは暗く、人気もない。しかし康介は誰もいないはずのその場所で、誰かに話し掛けるように言う。


「そろそろ出て来いよ。いるんだろ?」


 すると、暗がりの中から1人の男が姿を現した。全身を黒い服で包んだ出で立ち。良く見なければわからないほど、闇と同化している。


「俺になんの用だ?店を出た時から、ずっと俺に視線を向けてたんだから、なにかあるんだろ?」


 康介は男に問い掛けた。しかし男はそれに答えず、康介に質問を投げかける。


「……和田康介か?」


「ああ、そうだ――くっ!?」


 答えた瞬間、康介を背後からの衝撃が襲った。それによって体制を崩し、片膝をついてしまう。


 すぐさま体制を立て直すと康介は何かを感じたように、即座に前へ転がるように跳ぶ。すると、一瞬前まで康介がいた所に、空気を裂く音と共に、ナイフが一線した。


 康介は男と距離をとり、問い掛ける。


「いきなりだな……。お前『トロイ』か?何が目的だ?」


「……答える義理はない」


 男はそれだけ言うと、康介に向かって走りだす。

 互いが間合いに入った瞬間、康介がカウンターのように拳を突き出す。 男はそれを避ける。


 否、避けたのではなく、煙のように消えた。


 その事に驚く暇もなく、横からナイフが襲い掛かった。

 康介はとっさに体を反らしてそれを躱すと、雷撃を放って反撃する。

 が、男は既にそこにはいなかった。


 そこにあったのは、辺りに広がる闇。暗く悪い視界と捕らえられない敵に康介は舌打ちをすると、雷を球状にして雷球を作り出し、それを自身の周りに浮かべて辺りを照らす。


 明るくなったそこに見えたのは、康介を取り囲むように展開している10人の男達の姿。


 その光景に康介は渋い表情をする。

 10対1、それは逃げる事すら容易じゃない。


 その男達は一斉にナイフを構え、康介に迫る。


 それを妨げる為、康介は雷球から雨のような雷撃を降らせる事で、全員に攻撃を仕掛けるが、男達はバックステップで距離を取り、それを避ける。


 その隙に康介は雷球の数を増やし、それを操作して男達を狙う。

 雷球の数は1人につき5個程、それが凄まじい速さで男達に迫る。


 直撃。


 確実に捕らえた。避けれるタイミングではない。


 しかし実際は、男達に雷球が当たることはなかった。

 すり抜けたのだ。雷球は男達をすり抜け、当たらなかった。


 その事に康介は驚愕し、目を見開く。


 瞬間、康介の背中に鋭い痛みが走る。


「がぁ!」


 振り返ると、そこには血の着いたナイフを手にした、11人目の男。その男が康介を切り付けたのだ。


 康介は痛みを堪え、その男に一条の雷撃を放つ。すると、今度は消える事も、すり抜ける事もなくその男を掠め、服に小さな焦げ目を作る。


「当たった……」


 康介は攻撃が当たった事に驚き、呟く。

 そしてハッとしたように男達に視界を向ける。


「そうか、幻術か」


「それがわかった所で何も変わらない」


 男達は、そう言うと康介に踊りかかる。


 攻め立てる11の斬撃。


 嵐のような猛攻。


 絶妙に虚実を組み合わせた乱舞。


 男達は激しく動き続けている為、実体と幻術が見分けられない。 必然的に康介はその全てを捌かなければならないが、そんなことは出来るはずもなく、少しずつ傷が増えていく。


 反撃する暇などない。少しでも防御を疎かにすれば、即座にナイフが康介を貫くだろう。

 しかし、このままでは死を待つだけ。


「あぁぁぁぁぁ!」


 康介は雄叫びを上げながら、玉砕覚悟で雷撃を放つ。


 瞬く閃光。


 しかしそれは幻術を貫くだけで、男に当たらない。


 男は攻撃後の隙をつき、康介の背中を切り付ける。


「ぐっ!」


 康介は焼け付く痛みから、うめき声を上げ、後方に向けてがむしゃらに腕を振るう。


 男はそれを難無く躱し距離を取ると、康介は限界を迎えたように膝を折り、地面に手をつく。


「はぁっはぁっ――」


 肩で息をしながら男を見上げる。


「限界だな」


 男はそう言うと、康介を包囲するように広がり、近づいていく。


 康介に手が届く位置まで進むと、一斉にナイフ振り上げる。


「終わりだ」


「……どうだかな」


 康介は薄い笑みを浮かべる。


「死を目前に狂ったか?」


「俺はこの瞬間を待っていた」


 康介はそう言いながら上を見る。

 そこには、おびただしい数の雷球が浮いていた。

 その雷球は、即座に囲うように展開され、退路を塞ぐ。


「どれが本物かわからないが、とどめを刺す瞬間なら流石に俺の近くにいるだろ?」


「貴様、最初からこれを狙って……」


「ああ。途中から反撃に雷球を使わなかったのは、お前の意識から外す為だ。

さあ、終わりだ」


 康介が言った瞬間、全ての雷球から電撃が発せられる。


 一つ一つの雷撃が無数に枝分かれし、無造作に飛び交う。


 その場所一帯が電撃で埋め尽くされているような光景。


 逃げ場などあるはずもない。幻術もろとも巻き込んでいく。


「ぐっ、あぁぁぁぁぁ!」


 男は感電し、苦しそうに叫び声を上げる。


 電撃が収まると、男が俯せに倒れていた。


「さて、いろいろと答えて貰おうか。まずは、何故俺を狙った?」


 康介が見下しながら言う。口調こそ強気だが、表情には疲労の色が濃く浮かんでいる。


「くっ、う……」


 その問い掛けに男はうめき声を上げるだけ。痛みで答えられないのか、答える気がないのか判断は出来ない。


 康介は問い詰める為に近づいて行く。男の眼前まで進むと、胸倉を掴んで無理矢理起こさせて、口を開く。


「目的はなんだ?お前はトロイに関係あるのか?」


 しかし男は答えない。


「答えた方が――っ!?」


 康介は言い掛けた所で、何かに気がついたように振り返る。

 その視線の先にはまだ何も見えないが、強大なプレッシャーを感じた。そしてそれは徐々に近づいてくる。


「新手か!?くそっ」


 そう言うと、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 そして、倒れている男を一瞥し、慌ててその場を離れていく。






 康介は、家に帰ると倒れ込むようにソファーに見を投げ出した。

 いくら勝ったとはいえ、康介も満身創痍に加え、戦闘による疲労もある。


「くそっ。もう少しで聞き出せたのに」


 悔しそうに拳を固く握りしめる。


 突如感じた強大なプレッシャー。あれがなければ、何らかの手掛かりを掴む事が出来たはずだ。


 悔しがるのも束の間、康介は疲労と血を流した為に、気を失うように眠りに落ちた。





 康介が去った後、そこにはいまだ地面に横たわったままの男と、白いコートを着た男がいた。


「無様だな。『虚幻』よ」


 白いコートの男が見下しながら言う。


「油断しました。……申し訳ありません」


「油断したとはいえ、本来の力も出させずに敗れるとはな。お前を少し過大評価していたようだ」


「つ、次こそは仕留めてみせます」


 虚幻と呼ばれた男は、焦ったように言う。


「いや、次はないよ。使えない奴はいらない」


「まっ――」


 その瞬間、虚幻の体が潰れた。何かに上から押し潰されたかのように。


 地面に赤い染みが広がっていく。


 それを見届けた白いコートの男は、それから視線を外し、若干渋い表情を浮かべる。


「和田康介か。厄介だな」


 そう呟くと、その場から去って行った。

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