第9話 開校記念日 3
「なんだお前は?あのバケモノと関係あるのか?」
康介は敵意を剥き出しにしながら問い掛ける。男からただならぬ雰囲気を感じ取ったのだ。 氷上はその雰囲気に当てられ、声も出せないでいる。
それに対し、男は茶化すように返す。
「怖いねぇ。にしても君、強いね。けどまだ甘いかな。アレ、まだ死んでないよ」
そう言ってバケモノを指差すと、火が着いて見る見るうちに灰へと変わっていく。
康介はその光景に驚きつつも、それを悟られないよう強気に言う。
「そんなことはどうだっていい。質問に答えろ」
男の雰囲気に呑まれそうになるのを堪えながら睨みつけた。
しかし男は意に介した様子もなく話し続ける。
「君の戦い振りを見てたんだけど、1つ腑に落ちないんだよねぇ。素手でアレの攻撃を受け止める身体能力がさ。
ああ、まさか……そう言うことか。君が報告にあった学生か」
質問には答えず、1人で納得したように頷くと再び口を開く。
「なんで君が箱庭にいるんだい?」
「……なんの話しだ?」
「なんだ、何も知らないんだね」
わからない、といった反応をする康介に、呆れたような素振りをした。そして今度はニヤリと笑みを浮かべる。
「そういえば、今度は護れたんだね」
それを聞いた瞬間、康介は男に雷撃を飛ばす。しかしそれは簡単に避けられてしまう。
避けられたことも気にせずに、康介は激昂したようにしたように叫ぶ。
「お前は何を知っている!答えろ!」
「さぁ?どうだろうね?
まぁ、最初の質問には答えてあげるよ。『トロイ』俺はそのメンバーだ。名前は、そうだね……『氷炎』と言えば伝わるよね?」
笑いながらそう言うと男は消えるように去って行った。
「くそっ、なんなんだ」
康介は毒づく。するとドサッ、という音が聞こえ、振り返ると氷上が倒れていた。
「あいつが消えて緊張の糸が切れたか……」
氷上はずっと緊張状態だったのが、あの男がいなくなったことで一気に緩み、精神的な疲労から気を失ったのだろう。
康介は苦苦しい表情で呟くと、気を失った氷上と翔太を抱え上げ、その場を跡にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
家に戻り、翔太の手当てをして2人を布団に寝かせた後、康介は難しい表情で考え込んでいた。
「あのバケモノ、タグが着いてたな」
タグが着いてるということは管理している者が、いや、管理している組織があるのだろう。 そして、あんなバケモノが自然に産まれるとは考え難く、人口的に造られた生物以外に有り得ない。
だとするとその組織は、実験を行える施設を保有し、資金、人材の両方が揃っているかなりの規模の組織だ。
「トロイが造ったものか?」
男が所属していると言った『トロイ』は、反政府のテロ組織で、今までに幾つもの政府関連施設を壊滅させている。規模も他の組織よりは大きく、日本最大の犯罪者集団だ。
それを考慮すると、康介の疑問は当然のこと。確証はないが信憑性は高い。
「俺が箱庭にいるのは、おかしいのか?」
あの男は『なぜ君が箱庭にいる?』と言っていた。康介が箱庭で暮らしていることに、何か不自然なことでもあるのだろうか。
能力者が箱庭にいるのは当たり前のことで、外にいる能力者は軍属か『トロイ』のような犯罪者だけ。何も不自然はないはずなのだ。
「あいつは俺の過去を知っていた……、あの時の襲撃はトロイの仕業か?」
『今度は護れたんだね』と言っていた。ということは、康介の過去を少なからず知っているのだろう。そうすると、何らかの形で関わっていた可能性が高い。『トロイ』の仕業と考えるのが普通だ。
幾つかの情報は手に入りはしたが、まだまだ話しは繋がらなく、憶測ばかりだ。考えていても答えは出ずに、時間ばかりが過ぎて行く。
「はぁ……」
康介は疲れた表情でため息をつくと、窓際に置いてある椅子に腰掛ける。
「いったい、何が起きているんだ」
今回のことは偶然なのか、それとも必然なのか。どんなことに巻き込まれたのか。トロイの目的は何か。考えだせばキリがない。
康介が思考を打ち切って、窓の外を眺めると、夜はすっかり更けてしまっていた。
そしてそのまま、ボーッとしたように動かなくなり、夜はだんだんと明けていった。
これで物語のプロローグの部分が終了です。
ここから先は盛り上がって行くように頑張ります!
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