プロローグ
「はぁっ、はぁっ」
月の光も届かない、深い森の中を少年は少女の手を引き、何かに追われるかの様に走っていた。
「頑張れ!もう少しだ!」
少年は疲労の色を浮かべる少女に励ますように声をかける。
「――うんっ」
少女は歯を食いしばり、少年の後ろを走り続ける。
どのくらい走り続けだろうか。森を抜け、小高い丘の上で2人は肩で息をしながら、佇んでいた。
「なんで……、どうしてこんなことに……」
酷く悲しそうな表情で少女が見つめる先には、真っ赤に燃え上がり、黒煙を上げる村がある。
「……皆は、無事なのかな?」
少年に問い掛ける。
「――っ、きっと、きっと大丈夫さ!」
押し寄せる感情を、ぐっと堪えながら、少女を不安にさせないように力強く答える。
だか、少年は知っていた。自分達を逃がす為に、皆が犠牲になったことを。
両親が2人を逃がした直後、村の皆が集まっている場所を中心に、大気を震わせるような轟音と共に、大きな爆発があったこと。
振り返った時に見てしまったのだ。
そして、それまで強くあった、皆の魔力の反応が消えるのを感じてしまった。
「行こう。もっと遠くに逃げるんだ」
泣き出したくなる感情を殺し、少女に言う。
少女が返事をしようと瞬間
「いたぞ!あそこだ!」
怒鳴り声と共に、複数の足音が聴こえてきた。
「――っ、こっちだ!早く!」
少年は少女の手を引き走り出す。
だが、所詮は子供。すぐに追い付かれ、囲まれる。
「ったく、手間取らせやがって」
追っ手の一人が口を開く。
「子供を手に掛けるのは気が引けるが、……死んでくれ」
その言葉を聴き、少年は焦りの表情を強くする。
しかし焦ったところで周りは完全に囲まれて、逃げ場はない。もうだめなのかと、死を覚悟したとき
「――、――――」
不意に少女の呟く様な声が聴こえた。
追っ手が反応するよりも早く、少年の足元に魔法陣の様な物が浮かび上がる。
「これはっ、ちょっと待て!何を!」
少年は焦りと共に声を荒げる。それは転移の魔法陣だったからだ。
「ごめんね。私の力じゃ、1人しか送れないから……」
少女はそう言って少年に手をかざす。
「早く殺せ!こいつ、転移するつもりだぞ!」
追っ手の1人が焦った様に怒鳴り、全員が2人に迫る。
だが、それよりも早く魔法陣が発動し、少年の周りが歪みだす。
「待てよ!お前はどうするんだよ!」
少年は声を荒げて少女に言う。
そう、1人しか送れない。少女は確かにそう言った。そして少女は少年を転移させようとしている。ならば少女はどうなるか……逃げれない。
少女は少年を逃がす為に犠牲になろうとしてるのだ。
「ごめんね。こうする意外に思い付かなくて。
私は、ずっと傍にいるから……、だから――生きて」
今にも泣きそうな表情で、それでも微笑みながら少女は言う。
「なんで……、なんで俺を……」
少年は涙を流しながら少女に言う。少年としては自分ではなく、少女に生きて欲しかったのだ。
そして
「大好きだよ」
少女が笑顔で言う。
「――っ」
少年が何かを言うよりも早く、視界が別の場所に変わり、そのまま意識を失った。
はじめまして。
これが処女作です。
なので感想、ご指摘、お待ちしてます!
それでは拙い文章ですが、よろしくお願いします。