最強の女騎士が妊娠出産を経験した話
太陽が昇るよりも早く、訓練場には既に一人の者が立っていた。
彼女の名はソフィア=レイヴン。
この王国において、最強の女騎士として知られる存在である。
銀色に輝く長き髪は背に流れ、漆黒の軍服を纏いしその姿は、凛として美しく、威厳に満ちていた。
胸元には、騎士団長としての勲章が輝きを放ち、その光は朝日の中でいっそう鋭く煌めいている。
剣が風を切る鋭い音、舞い上がる土埃、そして彼女の汗――
これら全てが、彼女の並外れた強さと、揺るぎなき意志を物語っているかのようであった。
幼き頃より、ソフィアはずば抜けた身体能力を持っていた。
六歳の時には、その生まれ持った天賦の才と努力、そして何よりも強き正義感が、彼女を騎士団へと導く夢となった。
十五の歳にして、夢を現実とし騎士団の一員となってからも、彼女の鍛錬の日々は終わることを知らなかった。
幾度となく戦場を駆け抜け、確かな成果を積み重ねてゆく。
人を斬ることも、国を護るためと信じれば、どれほどの苦難も耐えうるものだった。
十八歳、彼女はついに女騎士団長の座に就く。
そして二年の時が流れ、今や二十歳となったソフィアは、今日も訓練場に立っていた。
やがて訓練場は賑わいを増す。
剣と剣が激しくぶつかり合う音、怒号がこだまする。
剣士たちは皆、大切な家族を守るために己を磨くのであった。
だが、ソフィアには守るべき父や母はいなかった。
最も古い記憶は、幼き日の教会の牧師が優しく手を差し伸べてくれたこと。
その牧師の話によれば、彼女はかつて襲撃を受けた村の端で、泣き叫ぶことなくじっと耐えていたという。
それより後、孤児たちと共に教会で育ち、優しき牧師や仲間たちとの絆が彼女の心の支えとなった。
彼らこそ、ソフィアが命を懸けて守りたい存在である。
ゆえに、剣士としての鍛錬を決して怠ることはなかった。
「そこまでだ!!!」
ソフィアの鋭くも静かな声が響き、訓練場はたちまち静寂に包まれる。
息を切らした剣士たちの荒い呼吸だけが、その場に残された。
「本日の訓練はここまで。各自、記録をつけて解散せよ」
そう告げて、ソフィアは一歩も揺るがず、訓練場を後にした。
「ちっ……厳しいな、ソフィア騎士団長は」
「女のくせに偉そうに……」
嫉妬の言葉が、彼女の背中に刺さる。
女騎士は許される。だが女騎士団長は、許されぬのだ。
何度も繰り返されるその嫉妬の声を、彼女は決して振り返らずに、堂々と歩み続けた。
ソフィアが去った後の訓練場に、重苦しい沈黙が残る。
やがて、それを破ったのは、冷笑を含んだ声だった。
「……だが、騎士団長もあと一年の命だろ? 二十一になれば、剣を置くんだ。そうなりゃ、“女騎士団長”って称号も終わりだ」
「まったくだ。いつまでも女に団長面されたんじゃ、俺たち男剣士の面目が立たねえ。国民に笑われるのはごめんだ」
皮肉と妬みを混ぜたその声に、数人が小さく笑いかけた――その時だった。
「……お前たち、それで恥ずかしくないのか?」
静かでありながら、鋭く張り詰めた声が響く。
振り向けば、そこには副騎士団長カイン=ラドフォートが立っていた。
「ソフィア団長が騎士団に加わって以来、団全体の実力が飛躍的に向上したのは事実だ。お前たちも、その恩恵を受けたはずだろう。
だったら、あと一年――彼女がいる間に、学べることをすべて学び、己に刻め。それが誇りある騎士の道ではないのか?」
その言葉に、さきほどまで不満げに腰を下ろしていた剣士たちが、弾かれたように立ち上がった。
「はっ! 申し訳ありませんでした、副団長殿!」
カインは小さく鼻を鳴らし、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……その程度に動けるなら、まだまだ余力があるようだな。早く記録をつけ、鍛錬に励め。さもなくば、本当に女に一生追いつけんぞ?」
「はいっ!!」
ソフィアは剣を置く時が刻一刻と近づいている――
この国では、女として生まれた者は、年頃になると必ず国の中心部に居を構え、そこで子を成し育てることを義務付けられている。
特に、ソフィアのように優れた遺伝子を持つ者には、国王の期待が絶大であった。
「あと一年……か」
二十一の歳を迎えると同時に、彼女は騎士団を離れ、伴侶を選び、子を成すことになる。
出産が国家のために必要なことは理解している。
しかし、まだ戦の最前線で剣を振るい続けたいという思いが、どうしても心の奥底から拭えなかったのだ。
「お疲れ様」
穏やかな声が、夕暮れの訓練場に響いた。
振り返ることなく応じた声は、やや低く、疲れの色を滲ませていた。
「ああ、カインか」
「どうだ、訓練の様子は」
「皆、真摯に取り組んでくれているよ。
一部には……私に納得していない者もいるようだがな。
だがそれでも、剣に向き合う姿勢だけは誠実だ。
私が口を挟むことなど、何もない。
あと一年、教えられる限りを教えるまでだ」
ソフィアの声には、どこか静かな決意があった。
その瞳は変わらずまっすぐに鍛錬場の先を見据えながらも、どこか遠くの未来を見ているようでもあった。
「……それでも、私は思ってしまうのだ。
やはり私は、剣士として生きていきたい。
この力で、守れる命がまだたくさんあると、そう思ってしまう」
彼女の呟きは風に溶けて、訓練場の石畳をさす夕陽と共に淡く染まっていく。
カインはその言葉を黙って聞きながら、ふと目を細めた。
二人は騎士団における同期であり、幾度となく戦場を共に駆け抜けた。
互いに背を預け、命を託し、時に競い合いながら鍛え合ってきた。
ソフィアにとって、己の弱音を素直に吐ける数少ない相手、それがカイン=ラドフォートであった。
「……まあ、言っても仕方のないことだがな」
どこか諦めの滲む苦笑を浮かべながら、ソフィアはわずかに肩を落とす。
その背にかかる重みを、カインは誰よりも知っていた。
彼女の強さも、誇りも、戦いの意味も――すべてを見てきた者だからこそ。
だからこそ、カインは言葉もなく、ただ寄り添うことしかできなかった。
沈黙の中、ソフィアがふと立ち止まり、真剣な眼差しをカインに向ける。
「……私が子を成すのであれば、相手はお前が良いと思っている」
その瞳には、揺るぎない意思が宿っていた。
その声には、恐れも、ためらいもなかった。
「お前には心を許せるし……何より、私とお前なら、国が望む強き遺伝子が得られるだろう」
どこまでも真っ直ぐで、どこまでも正しいその言葉に、カインの胸がほんの少し痛んだ。
ほんのわずかでも、恋の情を期待していた自分がいたことに気づいて。
だが、彼女の誇り高く美しい姿を思い返せば、それ以上を求めることなど、到底できなかった。
彼女が他の誰かと結ばれる未来を想像することすらできなかった。
「……ああ」
それだけを静かに返すカインに、ソフィアは軽く頷いた。
こうして、ソフィア=レイヴンは一年後、騎士団長としての任を終え、誰よりも凛として騎士団を去ることとなる。
だが、それは剣を置いたという意味ではなかった。
彼女の中で、騎士としての矜持は確かに息づいている。
子を産み、育て、いつの日かまた――剣を手に戻るつもりでいた。
その決意は、誰にも告げることなく、静かに胸の奥にしまわれたまま。
ソフィアの物語は、終わりではなく、新たな幕開けを迎えようとしていた。
カインとの祝言を挙げた後も、ソフィアはひとりの時間になると訓練に励んでいた。
剣を手にすることは叶わなくとも、鍛え上げた体を維持するためには動き続けるしかなかった。
そんな日々を過ごすうち、数ヶ月が過ぎた頃――
ソフィアの身体に、かすかな異変が訪れる。
ある朝、カインが訓練へと赴いた後、いつものように修練を始めようとしたが、どうにも身体が重く、動きが鈍い。
「剣がないだけで、こんなにも鈍るものなのか……」と考えていた矢先だった。
突然、胸の奥から強い吐き気が襲いかかり、ソフィアは慌ててトイレへと駆け込んだ。
頭はくらくらし、気分は優れない。
――“妊娠”――その二文字が脳裏をよぎった。
カインが戻ってきたら医者へ行こう。
そして明日、体調が戻れば、また鍛錬を始めればいい。
そう思いながら、ソフィアは静かにベッドへと潜り込んだ。
「ソフィア」
優しい声が聞こえ、顔を上げると、カインがそこに立っていた。
「あ、寝てたの――」と言いかけたところで、再び強い吐き気が襲い、ソフィアは言葉を飲み込みトイレへ駆け込む。
カインは慌てて後を追い、「医者へ行こう」と促した。
診察の結果はやはり妊娠だった。
帰宅後もすぐにベッドへ横になったソフィアは、また明日から元の生活が戻ることを信じて――。
翌朝、目を覚ましたソフィアはキッチンへ向かい、水を口にした。
「大丈夫か?」
「カイン……だめそうだ。まだ気分が悪くて、吐きそうなんだ」
厳しく自分の身体を鍛え管理してきた元騎士団長にとって、こうした身体の変化は受け入れがたい苦痛だった。
体内で新しい生命が芽吹いていることを、まるで身体が拒んでいるかのように感じられたのだ。
不安を吐露するソフィアを、カインは優しく抱きしめた。
すると、普段は決して見せない彼女の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
初めて見たその涙に、カインは言葉を失ったが、そっと耳元で囁いた。
「俺がいるから、大丈夫だ。」
「……うん」
震える声で頷き、さらに涙をこぼすソフィアだった。
それから数ヶ月が過ぎ、つわりも落ち着き、身体も動かせるようになった頃には、確かにお腹が膨らみ始めていた。
「また動きづらくなるな……」とため息をつきながらも、少しずつ変わりゆく自分の身体と新たな命に、心のどこかで芽生えた想いを感じていた。
ぽこぽことお腹の中で胎児が動き、確かな存在を主張し始めていたのだ。
新たな命をその身に宿しているという事実を、ようやく心から受け入れつつあったソフィアは、
出産のその日まで、鍛錬は一度休もうと決めていた。
日ごとに丸みを帯びていくこの身体も、
いつもより心が沈みがちな日々も、
すべてを自分の一部として受け止めていこうと思えたのだ。
――そして、いよいよその時が来た。
「男の子ですよ!」
医師の声と、生まれたばかりの赤子の泣き声が、静寂の張り詰めた部屋に満ちる。
その瞬間、ソフィアは深く息をつき、まるで自分の身体がようやく、自分だけのものに戻ったような、そんな解放感を覚えた。
ふと視線を向けると、傍らにいたカインが、泣きじゃくる我が子を見つめながら、こらえきれず涙を流していた。
彼はソフィアの視線に気づき、顔を歪めて、声にならぬほどの想いを絞り出すように呟いた。
「……ありがとう」
その言葉と、溢れ続ける涙を見て、ソフィアは思わず微笑みを浮かべた。
退院してからの日々は、初めての育児にてんやわんやだった。
だが二人で協力しながら、慣れないながらも穏やかな時間を紡いでいた。
ある昼下がり、騎士団長となったカインが鍛錬へと赴いている間。
赤子はソフィアの腕の中で、すやすやと眠っている。
窓辺の椅子に腰を下ろし、外を眺めていると、優しい風がカーテンを揺らして通り抜けた。
ふと赤子に目を落とせば、柔らかい髪が風にそよぎ、陽の光を受けて金糸のように輝いている。
「ふふ……かわいいな」
母となってからというもの、ソフィアの中からは止めどなく感情が湧き出すようになっていた。
目を離せば命が消えてしまうのではないかという恐れ。
自分の世話がこの子の命を支えているという責任。
もしこの子が命を落とすくらいなら、自分が代わりに死にたいとすら思うこともあった。
だが同時に、この子のためにも長く生きたいと願う自分がいた。
カインにそっくりな子の顔を見れば、自然と彼のことも愛おしく思えた。
「早く帰ってこないかな……」
そんな風に思う日もある。子供の小さな成長を、誰より先に彼に話したい。
――私たちの子供は、かけがえのない存在だ。
元騎士団長と副団長の子。きっと国王陛下も、この子の未来に大きな期待を寄せていることだろう。
けれど、いずれこの子が成長し、戦場に立たねばならない未来を思うと、胸が張り裂けそうになる。
今はまだ、腕の中に収まる小さな命。
けれど十年も経てば、その才能はきっと開花する。
こんなにも大切な存在が、誰かに傷つけられるかもしれない。
そう思った瞬間、ソフィアの中にふとした思いが芽生えた。
――この子だけじゃない。
誰かにとって、大切な人は、誰のそばにもいる。
みんなが、ほんの少しずつでもお互いを大事に想えば、
世界は、きっと変えられるのではないだろうか――と。
あれほど戦場に戻り、騎士として生き抜こうと誓った自分が、まるで他人のように思えた。
この小さな命を残して、再び剣を手に戦場を駆ける――そんな日々には、もう戻れない。
「いつ会えなくなるかわからない」という覚悟を、いまのソフィアは持てなかった。
愛情に満ちた新たな感情が、かつては揺るぎなかった信念すら、大きく覆していた。
そして、時は巡る。
この国には、年に一度――その年に生まれた赤子たちを、国王陛下にお披露目する祝宴がある。
王城の広間には、絹と香の薫る華やかな設えがなされ、誇らしげな母たちが赤子を胸に抱いて集っていた。
壇上に立つ王は、朗々と声を響かせた。
「今年もまた、多くの赤子がこの国にもたらされた。
この子らは、愛情深き手によって育まれ、健やかに成長し、
やがてこの国を支える礎となろう。
さあ、我にその幼き命の顔を見せよ!」
王の御声とともに、母たちは一人ずつ赤子を抱いて進み出た。
王は優しく赤子の頬に手を添え、母に言葉を贈り、また次の者を迎え入れていく。
その流れに続き、ソフィアもまた赤子を胸に進み出た。
王は赤子の顔をじっと見つめ、そして微笑んだ。
「ほう、なんと力強く、生命に満ちた子だ……」
次に王は、母の顔を見上げる。
「……ソフィアか。父はカインであろうな?」
そう言うと王はすっと立ち上がり、民衆に向かって高らかに声を張り上げた。
「ここに立つは、かつて唯一の女騎士団長としてその名を馳せたソフィア=ラドフォード!
そして父は、現騎士団長たるカイン=ラドフォード!
この赤子もまた、偉大なる血を受け継ぎ、やがて強き剣士とならん!」
王の言葉に、会場からは大きな拍手と歓声が湧き上がった。
だが――その場の空気を切り裂くように、ソフィアが声を張り上げた。
「――どうか、少しだけ、私の言葉に耳を傾けてはいただけぬか!」
ざわめきが凍りつき、場が静寂に包まれる。
「私はソフィア=ラドフォード。
女でありながら騎士団長となり、多くの戦に身を投じてきた。
そしてこの子を――この愛しき命を、夫カインとの間に授かり、
その成長を支え、いずれは騎士として再び剣を手に取るつもりであった。」
彼女は一度、腕の中の子に視線を落とす。
それから、強く、しかし穏やかに続けた。
「だが……妻となり、母となり、私は知ったのだ。
この小さな命が、どれほどかけがえのないものかを。
将来、この子が戦場に立つ姿を思うと、胸が締めつけられる。
愛おしくて、怖くて、たまらない。」
「私は、この子に願っている。
誰かに必要とされ、誰かを大切に思い、そして、誰かを愛せる者に育ってほしいと。
そのために命を磨くならば、剣よりも、言葉と慈しみをもって――
この国に、新たな価値を築けるような未来を、この子のために、そして皆のために――」
ソフィアの声は、静かに、そして確かに王城の天井へと吸い上げられていった。
「ここの赤子たちは、みなにとってかけがえのない存在であろう。
この子たちが成長し、人に優しくされる存在に、そして誰かに優しくできる人になってくれることを、私は心から願う。」
ソフィアの声は穏やかでありながら、確かな力を持っていた。
「そして――我々も、元は赤子であった。
国王陛下も、敵対する国の者たちも、皆同じように誰かに抱かれ、守られて育ったのだ。
守られなければ、大人にはなりえなかった。皆、平等に。」
言葉を紡ぎ終えたとき、ソフィアの目には涙が滲んでいた。
言いたいことは言えたのか。
みんなに伝わったのか――不安と安堵が胸の中で交差する。
すると、沈黙を破って、一人の母親が声をあげた。
「私も……この子と、寿命が尽きるその日まで、笑い合って生きていける世界であってほしいと願っています!」
それを皮切りに、広間のあちこちから母たちの声が次々と上がる。
「子どもを戦場に送るのは、怖いです!」
「守ることしかできない母だけど、だからこそ、平和を願います!」
その言葉の一つ一つが、祝宴の場に重く、しかし温かく響いた。
夫を戦地に送り出した経験のある母たちの言葉は、決して軽くはなかった。
そして、皆が「それでも現実を受け入れて生きてきた」という、強さの裏にあった苦しみを明かすようだった。
その空気を受け止めた王は、静かに、しかしはっきりと口を開いた。
「……ソフィア。そして、母たちの言葉。我はしかと受け取った。
恥ずかしながら、そのように思っていた者たちがこれほどいるとは、知らなかった。
我も、ひとたび考えを改めてみようではないか。」
その言葉に、再び拍手が起きた。
祝宴は、静かな希望を胸に抱きながら、静かに幕を閉じた。
「ソフィア――」
カインが息を弾ませながら帰宅し、微笑みながら声をかけた。
「お前、国中で噂になっているぞ。皆の前で、息子への愛を語ったとか?」
「息子だけではない。」
ソフィアは赤子を抱いたまま、少し照れくさそうにカインを見た。
「カイン。お前への愛も、語らったつもりだ。」
カインは笑い、ソフィアと赤子ごとそっと抱き寄せた。
「……息子のためにも、毎日、必ずこの家に帰ってきてほしい。
そして私のためにも、だ。」
ソフィアの言葉に、カインは頷き、二人は優しく唇を重ねた。
――それから、十年。
国は争いを減らし、話し合いと交流によって多くの国と絆を深めていった。
その結果、国はこれまでにない速さで発展を遂げた。
ソフィアは四人の子に恵まれ、カインとともに穏やかな、そして豊かな日々を送っている。
あの日、自分の心が揺れ、涙したことが、こうして未来へとつながっている。
一番初めに生まれた我が子は、もう十一歳になろうとしていた。
「ねぇ、父さん、母さん!」
少年は目を輝かせて叫んだ。
「俺、将来学者になるよ! もっとこの国を発展させて、豊かにしていくんだ!」
ソフィアは優しく微笑み、その大切な存在を、胸いっぱいに抱きしめた。
幸せの涙が、頬を伝ってこぼれ落ちた。