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~誘拐犯と被害者の新たな関係性~

【修正版】

 

 自力で座れるまでに体調が回復した頃。

 エイリーンにそれとなく犯行動機を尋ねた。

 しかし、 “ ただ一緒に居たい ” という単純な回答しか得られず、また過去の仕打ちについても、単なる嫉妬心だったと告げられて混乱する。

 眼鏡さえなければ逃げられないと安心してるのか。

 それとも命を危険に曝した事に対する罪悪感なのか。

 エイリーンは以前の様に悪態をつかず、きちんと会話に応じて胸の内を淡々と語っていた。


「ケイプ家に伝わる能力のことを知ってたの? 」

「そうよ。小さい頃に自然と使えるようになったの。何でか時々きかない人も居るけどね」

「……へぇ」

「相手はほとんど自分の思い通りに動いてくれるけど、完全じゃない。別にオルカが嫌いで使用人達に能力を使ったわけじゃなくて、仲良くして欲しくなかっただけ」

「何で? 」

「オルカが独りぼっちになれば、私と一緒に居る時間が増えるでしょ? 私だけ頼って欲しいし、一番になりたいし、誰かと居ると攻撃したくなるの」


 自分勝手な理由に言葉を失う。

 エイリーンが殿下に近付いた理由についても、私の婚約者だったからだと続けた。

 動機はやはり単なる嫉妬だ。

 そもそも皇太子妃になりたい理由も、権力を手に入れて私を何処かに幽閉しようと企んでいたようだった。

 そんな自分勝手な理由で投獄され、様々なトラウマに悩まされて苦しんだのかと思うと、怒りが込み上げてわなわなと震える。

 エイリーンは私に構わず、味覚や臭覚、周囲との考え方の違いに、長い間苦しんでいたとも話す。


「理解して欲しいわけじゃない。相手の好き嫌いの感情はどうでもいいの。だって、どうせそんなものは一時的なものでしょ? 」

「好きな人に嫌われたら悲しいと思わないの? 」

「思わない。一生嫌われたって、私が好きだから手元に置いておくの」

「…………それって、寂しくないの? 」

「少しは寂しいけど……年々、怒ると加減ができなくなるの。瞬間的に殺戮衝動が芽生えて抑えられなくなる。私自身もそんな自分が怖いと思う時と、弱い相手が悪いって納得してる時があって、自分でもよく分からない。でも死んだら会えなくなるのは、寂しいかな」

「…………気に入った相手に嫌われ続けば、将来的に怒りをぶつけたくなるんじゃないの? 」

「ええ。だから、相手じゃなくて私がどう思っているかって考えるようにしたの。利用価値とか……死んだ時のデメリットとかね」


 予想外な言葉の数々に、脱走の二文字が頭を過る。

 もはや湧き上がった怒りは戸惑いに変わり、瞬間的に拒絶して離れたいとまで考えた。

 しかし、病み上がりの弱った身体で逃げ切れるとは到底思えず、相手に刺激を与えて実害を被る危険性を回避する為にも、なんとか思い留まった。

 一度向き合うと決めたではないか。

 救出を待つと決めたではないか。

 そう自身に言い聞かせて、平常心を保つ。


「後先考えずに鬱憤を晴らすと、後々面倒なことになるって学んだし……」

「え……? 」


 エイリーンは少し前、友人宅に外泊すると嘘を付いて、怒りを何処かで発散していたようだった。

 理不尽な言動に再び固まった決意が揺さぶられる。

 人を何だと思っているのだ。

 これも能力による副作用なのだろうか。

 初めは怒りや呆れ、拒否感を感じたが、真面目に答える姿を見て、次第にもう少しだけ話を聞いてみようと思えるようになった。

 恐らく、戸惑いと混乱に感覚が麻痺して、私の思考力が一時的に著しく低下した可能性もあるだろう。

 勿論、受けた仕打ちを忘れたわけではない。

 ただ話を聞く内に、孤独を恐れて葛藤しているように見えてしまい、なんとなく突き放せなくなっていた。


「手元に置いた好きの対象に対して、エイリーンが心変わりしたら、切り捨てたくなったらどうするの? 」

「心変わりしたことないから分からないけど……でも、多分そんなことは起きないと思う」

「分からないじゃない? だから、もしも起きたら? 」

「うーん……また好きになるように努力すると思う」

「え? 不要だって切り捨てないの? 」

「そもそも好きになる対象が滅多に出来ないから、勿体ないって思って手放したくないかな? 」

「勿体ない……? 例えば憎いとか嫌いって感じても? 」

「ええ、そうね。勿体ないが勝るかな」


 エイリーンに質問を重ねた分だけ謎が深まる。

 会話の内容で嫌悪感を抱くよりも、全く理解できない相手に対して、不思議と好奇心を抱くようになった。

 彼女の本音を聞き出せば聞き出す程、頭の中がこんがらがって、だけど難しい計算問題を一生懸命に解くような気持ちで、根気強く話に耳を傾ける。

 そんな私の姿が意外だったのか。

 逆にエイリーンが不思議そうに尋ねる。


「こういう話をすると、酷いとか人でなしとか、色々罵倒して怒られるのに、オルカは怒らないの? 」

「うん。まぁ……今までされたことも、屋敷で騒いでた時も本当は凄く腹立たしかったけど、本心を聞かせてくれるなら、ちゃんと聞きたい」

「お父様は私の話を聞くと、いつも途中で怒るのに……」

「ケイプ家の先代当主? 」

「ええ… ” 普通はこうだ ” とか ” 普通はあれだ ” とか、いつも普通と比べられて、うんざりしてた」

「うーん……その点は少し分かる。自分の物差しで考えを押し付けられても困るね。確かにエイリーンの考え方は凄く独特だけど、考え方が違うからって端から否定するのはちょっと違うかな」


 初めて妃教育で語学の授業を受けた時を思い出す。

 分かりそうで全く意味が分からない言葉や文化を、学習を重ねてようやく理解する。

 エイリーンの考え方も語学の授業と似ていた。

 理解し難い部分が多く、少々行き過ぎてはいるものの、全く理解不能というわけではなかった。

 本音を伝えても拒絶されないことに安心したのか。

 マゼラン邸に来る前のことも少しずつ話してくれた。

 ケイプ卿から聞いた内容と違って、エイリーンは決して妹を嫌っていたわけでも、虐めていたつもりもない。

 むしろ本人曰く、大事にしていたようだった。

 問題は彼女の考える大事にする方法が周囲と違って、勘違いを引き起こしていたということ。

 また、癇癪を起すようになったきっかけは、味覚や臭覚が低下した事による強いストレスが原因だった。


「もしかしてパーティーに参加した日に必ずお菓子を持って帰って来るのも、何か他に理由があったの? 」

「ええ。オルカと一緒に居ると、少しだけ感覚が戻るの。皆が美味しそうに食べるから、私も食べたくてね。でも、オルカが傍に居ないと感覚が無くなっちゃうの」

「じゃ、私に拘る理由は、味覚と臭覚が戻るから? 」

「そうね。あと、オルカは能力がきいてる感じがないのに、大人しくて扱いやすくて、おじ様に気に入られる材料になって、凄く都合が良い存在だなって思ったの」


 酷い言われように、戸惑って押し黙る。

 エイリーンの表情は至極真面目だ。

 決して冗談を言ってるようには見えない。

 本音を赤裸々に打ち明けてくれるのは良いとして、流石にもう少し言葉を選んで欲しいものだ。

 もはや呆れて怒る気力もない。

 レイキッド様とは違う正直さに、溜息を零す。

 そして、ケイプ家の訃報と領地の被害は、やっぱりエイリーンが原因だった。


「昔ね、飼ってた大事な鳥を死なせた事があったの。その時に大事なものを傍に置くのは危ないって感じた。だから領地に一人残された時は家族に腹を立てたけど、妹と離れて丁度いいくらいに思ってた。最初はね」

「事前に伝えてくれなかったの? 」

「うん。でも傍に居ない日々に段々苛々して、捨てられたって思ったら感情が抑えられなくなって、領民にも酷いことをしてしまったわ」

「酷いこと? 」

「水が供給されないように仕向けたの。実はこっちの方が感情に反応しやすくて最近凄く困ってる。見てて」


 エイリーンはテーブルに置かれたコップを指さす。

 次に手を上げると、水が宙に浮いた。

 指の動きに合わせて目の前でクルクル回り、かと思えば鋭い刃の如くサイドテーブルの端を簡単に切り落す。

 最後に手を降ろせば水はコップの中に戻った。

 以前、レイキッド様とエイリーンが口論をした際、傍に水が置かれていなかった事を、今更ながら安堵する。

 そして平常心を保って、脱走を選択しなかった自分の決断は間違っていなかったと胸を撫で下ろした。

 同時にケイプ卿から譲って貰った資料には、惑わしの能力に関する内容だけが記されていた。

 なのに水を操る力もあったのか。

 それとも、これは言い伝えの子供にのみ使用可能な特別な力なのかと首を傾げた。


「不謹慎で申し訳ないけど、凄いね……格好良いと思う」

「まぁ、ちゃんと操作できれば心強い力なんだけどね」

「え? 」

「たまに、意識してない時に使っちゃうことがあるから困るの。あと、予想以上の力が発揮したりとかね」


 切られたテーブルの端に目を向けて背筋が寒くなる。

 エイリーンは私を気にせず、当時の状況を説明した。

 先代当主が親戚に懐柔されたと思った彼女は、カントリーハウスに一人捨てられたと感じて、家族が迎えに来た時に懲らしめようと計画を実行した。

 軽い悪戯のつもりで、決して殺めようなどとは思っていなかったようだ。

 残念ながら惑わされた大人が勘違いを引き起こして、結果的にエイリーンを除く一家が山崩れで命を落とした。


「両親のことは何とも思わなかったけど、妹の動かなくなった姿を見て、凄く後悔した。気を付けてたつもりだったのに、オルカも動かなくなるかもしれないってお医者様が言った時は、怖くなった」

「……」

「最近は反抗するし、苛々することも沢山あったけど、オルカのことは好きよ。感覚が戻る上に都合が良くて、それから……凄く可愛いと思ってる」

「可愛い……? 」

「マゼラン邸に来たばかりの時に、オルカの黒髪に似合うからって、白い花をあげたの覚えてる? 」

「……押し花にしたやつ? 」

「うん。他の人は美味しいものや高価なもの、お金じゃない限り、嬉しいって思ってくれないでしょ? 価値も分からないくせに大人の真似をして、同世代の令嬢と宝石やドレスを自慢し合って、口では綺麗だっていう割に、珍しくない植物をあげればガッカリするでしょ? 」

「……まぁ、そうだね」

「オルカは口数が多くなかったけど、喜んでる気持ちが伝わって凄く可愛いって思ったの。あげたものは何でも大事にするし」


 伯爵邸に滞在していた頃、貰ったドレスを全て処分してしまったとは言えず、黙って視線を逸らす。

 本音を聞く内にエイリーンに対する気持ちが変化して、数日も経てば私達はマゼラン邸で過ごしていた幼少期の頃よりも、自然に接することができた。

 エイリーンの世話焼きは偽りではなかったようで、変に我慢せずに言いたいことを口にすると、意外にもちょっとした我儘を聞き入れてもらえる。

 ただ過去の仕打ちについて傷付いたことを伝えても、心境を理解できないのか、謝罪する姿勢は目に見えて心が籠もっていない。

 当然、そんな相手を完全に許せるはずもなく、その件についてはまだ怒りは鎮まっていなかった。

 受け入れているような、まだ許せないような。

 そんな不思議な気持ちを抱えつつ、妙に性格のバランスが取れているからか。

 気付けば以前に比べて、エイリーンと一緒に居る空間をそこまで嫌に感じなくなっていた。











 連れ去られてから一週間が経過した頃。

 捜索隊がようやく出動したようで、食材の買い出しに出ていた使用人から、数日前に発行された新聞を入手して手渡される。

 案の定、捜索隊を要請したのは伯爵家だった。

 そして記事には、公爵家も全面的に協力して捜索に乗り出しているとも書き綴られていた。


「エイリーンが早速疑われちゃってるよ? 」

「別に気にしない。事実だしね」

「そうだけど……私からも説明するから、戻らない? 」

「戻らない」

「今なら捜索隊が動き出したばかりだし、見つかるより自首した方が、簡単に許して貰えると思うよ」

「戻ったら今までの生活に逆戻りでしょ? 事故をポンポン起こすくらいなら、ここで暮らした方が良いわ」

「意図的に起こしたものは事故じゃなくて事件でしょ」

「能力がどっちも感情に反応するんだから、事故よ」


 新聞に大きな文字で、容疑者候補にエイリーンの名前が載っていた。

 そんな誘拐犯とは現在、緊張感も無く雑談を交わしながらお茶を飲んでいる。

 エイリーンはことあるごとに、私の頬や腕に触れた。

 元々ボディタッチが多かったが、本音で話すようになってからは、更にその頻度が増した。

 彼女曰く、気付いたら自然と手が伸びて、柔らかさや温かさがあることに安心を覚えるようだ。

 初めて聞いた時は理由に身体が強張った。

 けれど、エイリーンが幼少期に体験した死別でトラウマを抱えていたので、仕方なく私が妥協した。

 また、性格が極端だということも判明した。

 亡くなった護衛を死に追いやっておきながら、大切なものが壊れたり怪我を負う光景を必要以上に嫌がる。

 恐らく、大好きだった妹の遺体が脳内にフラッシュバックして、気持ちが掻き乱されるようだ。

 以前、怪我を負わされた時や、眼鏡を壊された時のやり取りを考えると少々矛盾しているが、それだけ私が怒りを買ったということなのだろう。

 エイリーンは決して善人ではないが、非道で冷血だけの極悪人でもなかった。

 濡れ衣の件や、その他の仕打ちを許せたわけではない。

 ただ、強いて言えば憎み切れない不思議な存在だ。

 一週間前までは屋敷から追い出したくて、とことん避けていた相手だったのに、短い間にここまで自分の考えが変化するとは思ってもみなかった。


「 ” マゼラン家、皇室の逆鱗に触れる ”……? 」


 新聞を読み進めていると、なんとも物騒な言葉が視界に飛び込んで息を呑む。

 記事には詳しい経緯や原因が書かれていない。

 ただ、皇帝陛下はマゼラン家に大変ご立腹なようで、過激な文章が綴られている。

 捜索隊にすぐ要請しなかったからだろうか。

 はたまた調査の妨害でもしたのだろうか。

 瞬時に脳裏を過ったのは、遥々遠方から帝都に足を運んでくれた、マゼラン家の親戚だ。

 協力を求めるつもりでいたが、結果的に混沌とした現状に巻き込んでしまい、居た堪れない気持ちになる。


「エイリーン、やっぱり屋敷に一回戻って……」

「嫌よ」

「で、でもマゼラン家の親戚を丁度呼んでて……」

「滞在先の心配してるの? 」

「ううん。それはもう済ませてあったけど、そうじゃなくて皇帝陛下がマゼラン家に怒ってるみたいだから」

「今だけよ。それに、親戚達はオルカが呼んだだけで、別に皇室に召喚されたわけじゃないでしょ? 」

「そうだけど! でも、屋敷が混乱した状況なのに来てもらったから申し訳ないの……」

「絶対に嫌よ。おじ様が皇室を怒らせたのに、何でオルカがなんとかしようとするの? 」

「いや、そもそもエイリーンが根本的な原因だからね」

「エイリーン様のお好きな茶請けをご用意致しました」

「ありがとう。オルカも食べよう? その話はおわり! 」

「オルカお嬢様にも用意致しましたので食べて下さい」


 使用人達は相変わらず、エイリーンを贔屓していた。

 けれど以前と違って、暴力を振るわれることも無ければ、無視されることもない。

 食事に異物を混入されることもなく、身の回りのことをきちんと手伝ってくれていた。

 不愛想ではあったけれど、身の安全を守る為に使用人達の過去の行いはエイリーンに知らせず伏せた。

 甘い考えだと理解しても、能力の影響を考慮すれば、彼女達のことも突き放せなかった。

 現在、帝都で騒がれている内容に不安や罪悪感を感じる一方で、別荘での非日常的な時間は、想像以上に快適で穏やかで悪くない。

 けれど、やっぱり多方面に迷惑を掛けている現状に居た堪れないので、どうにか穏便にエイリーンを説得できないか考えを巡らせる。

 最悪な関係が徐々に修復されれば、両家の問題も次第に改善されて、平穏な日々が送れるのではないか。

 そんな淡い期待も芽生え始めていた。

 しかし思いとは裏腹に平和な時間は突如終わりを迎えた。


※修正箇所※

字下げ、誤字脱字、一部言葉の言い換え、記号の変更。

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