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~不可解な幼馴染~

【修正版】

 

「ん……」

「まだ目を覚まさないで下さいよ。面倒臭いな……」


 聞き覚えのある男性の声が頭上から降って来る。

 目元に布らしき物が巻かれている所為で目を開けられず、縛られている感覚は無いが身体に力が入らない。

 抱えられている事に気付いて抵抗するも、動いた所為で頭がクラクラして吐き気を覚えた。

 寝起き特有の気怠さとは違った酷い倦怠感も相まって、薬を盛られた可能性に焦りながら、男性は誰で何のつもりかと問い詰める。


「貴方、誰? 何処かに連れて行くつもりなの? 犯罪に手を染めてる自覚はあるの? 」

「連れて行くというか、連れ去った後というか……」

「は……!? 」

「なので大声を出したところで誰も来ないし、煩いだけなので大人しくしてて頂けませんか? オルカお嬢様」


 男性が私の名前を口にした途端、ハッとする。

 懐かしい人物の顔が頭に浮かんで眉間に皺を寄せた。

 柔らかい何かに身体を降ろされ、なんとか目元に巻かれた布をずらすと、眩しさで目の奥に痛みが走る。


「あぁ……っ! 」

「あーもう……エイリーン様が来て下さるまで大人しくしてて下さいよ」

「っ貴方っ……ミライド卿っ……!? 」

「へぇ……不当に解雇した割には、ちゃんと名前覚えてたんですね? 」


 私を抱えていた男性は、かつての専属護衛。

 キラバルト・ミライド卿だった。

 会いたくなかった人物が発した不当に解雇とは何だ。

 すっかり存在を忘れていたが、いつから彼の姿を見ていなかっただろうか。

 最後にミライド卿を見た記憶を辿っていると、目元を押さえていた手を軽く払われる。


「ちょっと、何……」

「目の包帯を直しているんですよ。というか見ない間になんか雰囲気が変わりましたね? 別にどうでもいいけどさ」

「一体何なの? 不当に解雇したってどういうこと? 」

「あれ? オルカお嬢様の意思じゃなかったんですね? まぁ……誰にも相手にされてなかったし、そうなると執事長が口から出まかせを言っただけか……」

「執事長……? 」

「急に護衛から外されたし、私兵団からも解雇されて、かなり苦労したんですよ? オルカお嬢様に言っても分からないでしょうけど」


 兵や騎士として働く場合、役所に届け出る必要があった。

 そして記録は半永久的に残される。

 帝都内に居る傭兵も同じで、退職時は雇用主が必ず、紹介所に理由を提出することが義務付けられていた。

 内乱や反乱を未然に防ぐ為に設けられた制度で、役所の職員や雇用先は登録者の経歴を調べる事ができる。

 高収入かつ良縁に恵まれ、努力次第で爵位も得られる。

 そんなチャンスに恵まれた職場で働ける反面、任務の内容次第では命を落とす危険性が高く、また退職理由によっても再就職が見込めない場合がある為、求職者の多くは最終手段として選ぶ職種だ。

 ミライド卿はマゼラン邸を追い出された後、同じ職種に就けず、低賃金で肉体労働をしていたようだ。

 そんな生活から脱却する為か。

 それともエイリーンに想いを寄せているからか。

 投獄された時と同様、今回も計画に加担した彼は、どのみち護衛から外されて正解だった。


「一応言っておきますけど、今はまだ陽が高いんで目隠しは外さない方が良いですよ。周辺に高い木々はないし、丘の上なので俺でも眩しく感じるくらいですから」

「……」

「ああ、そうだ。使用人が出入りすると思いますけど、屋敷を追い出された連中だから、懐柔しようとしても無駄ですよ。誰かが訪ねて来ることも無いでしょうしね」


 始めの内は動揺を隠せなかったが、既に拉致された後の絶望と無礼な言動で、逆に冷静さを取り戻せた。

 やや落ち着きのある性格と仕事への妙な拘りがあるくらいで、ミライド卿も亡くなった護衛に似て、大人しい人や弱者を見下す傾向にある。

 ただ、罪悪感に耐え切れず独りよがりな謝罪をするあたり、彼の持つ拘りは理解不能だ。

 計画を話した時点で、主人と想い人を同時に裏切った事になるのに、それをきちんと理解していたのだろうか。

 ミライド卿から馬車の乗り降りの際、エスコートが無いのは勿論、話し方もどこか小馬鹿にされるも多かった。

 そのくせ、権力者や実力者に対しては低姿勢で媚を売る狡猾さと、度胸が無い情けない面も多々見受けられた。

 総じて言えることは、面倒臭いを口癖にする彼自身の性格が面倒臭い上に、浅はかだ。


「商人の荷馬車くらいは近くを通るんじゃないの? 丘の上って言っても、山道へ続く道が近ければ人が通らないとも限らないでしょ」

「本当に変わりましたね? でも残念ですが、荷馬車の通り道から屋敷までの道中に、敷地に続く警告の看板を設置してありますので入って来ないでしょう。あと山道からも離れてるので期待してるような人は来ませんよ」

「でも、マゼラン邸の元使用人達とミライド卿だけだなんて、人が少なすぎるんじゃない? 盗賊が来ないとは限らないでしょ。傭兵くらいは雇うべきでは? 」

「質問が多くて面倒臭いですね。近くに関所があるんだから盗賊なんか来ないですよ。だから使用人と俺だけで問題ないです! あーそれとも何ですか? 後から別の誰かが合流する瞬間に逃げ出そうとしてますか? 生憎、そんな協力者は居ないし、オルカお嬢様は一生ここから出られませんよ! あー本当に面倒臭いな」


 足音が遠ざかって扉が閉まる音が聞こえた。

 少し質問しただけで、欲しい情報をペラペラと話してくれた彼に心の中で感謝する。

 殿下との協力関係を心配していたが、エイリーンの単独犯であることに安堵した。

 関所のすぐ外側に建設する事は法で禁じられている。

 つまり関所の内側であるのは間違いない。

 ” 屋敷 ” というくらい立派な建物で、丘の上にある見晴らしの良い場所から推測すると、貴族がちょっとした遠出で使用する別荘あたりだろうか。

 途中から荷馬車が通る道とも繋がっていて、ご丁寧に看板まで設置されているなら、捜索隊が動けば発見もそう難しくはないだろう。

 元使用人とミライド卿しか居ない手薄な状況は好都合だと思いつつ、問題は関所に配属された警備隊が惑わされていないか心配だ。

 お父様にはもう、何も期待しない。

 ミルドッド家が異変に気付いてくれることを切に願いながら、大きな溜息を零した。


「はぁ……」

「オルカ、起きたんだって? 入るよ」


 扉をノックする音と共に、悩みの種が部屋に入って来る。

 聞こえた足音は一人分ではないので、誰かを連れている事にすぐ気付いた。

 ただ、エイリーン以外は誰も声を発しようとしない。

 最後のやり取りと、夜に焚かれた妙なアロマキャンドルを思い出しながら、身体を強張られる。


「皆でスープを作ったの。食べさせてあげるね」


 ベッドのすぐ横に座る気配と、食器類の音に眉を寄せる。

 眼鏡を壊した時のやり取りが無かったかのような言葉に苛立ちを覚えた。

 それとも何かを聞き出そうと、食事に自白剤でも混入しているのだろうか。

 口を閉じたまま拒否感を示すも、気にせず穏やかな口調でエイリーンから食べるよう促される。


「具材も細かくして、食べやすく作ったの。ちょっとで良いから食べてよ? 大丈夫、私も味見したけどちゃんと美味しく作れたよ? 」

「……要らない」

「オルカお嬢様、その態度はあんまりじゃないですか? エイリーン様が折角作ったんですよ? 」

「そうですよ! お優しいエイリーン様が自ら作ったのですから、ちゃんと食べて下さい! 」


 一緒に部屋に入って来た人物は、どうやらエイリーンの元侍女達のようで、ようやく声を発したかと思えば、以前と変わらない調子で、呆れた言い分を並べ立てる。

 共犯者としての自覚はないのか。

 誘拐監禁、暴力を振るう人間のどこが優しいんだ。

 いや、追い出された原因の私に不満を抱いて、元使用人を秘密裏に集めたエイリーンに惑わされているなら、常識的な反応を期待してはいけない。

 呼び方が以前と変わらないのも、能力が記憶や思考回路に何らかの悪影響を及ぼしているからなのだろうか。

 再雇用ではなく、単なるポランティアとして集まったのだとしても、お嬢様と呼ぶのは不自然だろう。

 ただ、指摘したところで十中八九、会話にならないのは目に見えているので、敢えて触れないことにした。


「カーテンを閉めて。クラクラする」

「まぁ! 食事に感謝をするどころか無視して、全く関係のない事を言い出すなんて! 」

「オルカお嬢様、失礼ではありませんか!? 」


 目くじらを立てる元侍女達を無視して、横になる。

 妙なアロマキャンドルの所為で、酷い倦怠感とクラクラした感覚に酔って気分が悪い。

 どのみち食事を摂れる状況ではない。

 体調不良を訴えてスープを拒否した。

 拉致する直前までの態度が嘘のように、エイリーンは落ち込んだ声で大人しく食事を片付けた後、献身的に看病をしてくれた。

 だたその後も体調不良が収まらず、苦しい一日を過ごす羽目になった。














 変わらず夜にアロマキャンドルを焚かれた。

 その所為で、体調は一向に良くなる気配が無い。

 目を閉じているからか、余計に揺れる感覚に酔ってしまい、ろくに食事も摂れず、水を飲むだけで精一杯だ。

 あまりにも酷い有様だったからか。

 ようやくキャンドルは焚かれなくなったが、今度は高熱で苦しむことになった。

 両手に負った傷がじくじくと痛み、指先までパンパンに腫れている感覚から、恐らく化膿したのだろう。


「どうしよ……ねぇ、誰か良い薬を本当に知らない? 」

「申し訳ございません。医学に関する有識者はおりません。お医者様を呼ばれてはいかがでしょうか? 」

「居場所が見つかると思うし、うーん……そもそも何でこんなに具合悪くなったのかな? あのキャンドルを販売してた人は、別に毒じゃないって言ってたのに……」

「恐らくですが、体調によって効果に差が出るのではないでしょうか? オルカお嬢様は怪我をしてますし……」

「気付いてたなら先に教えてよ! 」

「申し訳ございません。私共も盲点でした……」

「オルカも動かなくなったらどうしよ……どうしよ……」


 黒髪の家門は限られている。

 その上、エイリーンも婚約騒動で有名になってしまったので、その美貌と美声が仇となって余計に目立つ。

 今のところ捜索隊が訪ねて来る様子はなかったが、敵対している話題の人物が二人も揃う場所に医者を呼べば、事件性を疑われるだろう。

 焦りと不安からか。

 癇癪を起こしているような物音が廊下から聞こえる。

 初めは危害を加えられないか心配したが、怪我どころか私が体調不良で弱っている姿を見て、不機嫌になるエイリーンに首を傾げた。

 相変わらず目的が全く分からない。

 身の回りの世話と心配するような素振り、そして以前のように優しく接する態度に困惑した。

 協力者は居らず、人身売買も可能性としては低い。

 命を奪うつもりなら、誘拐なんてしないだろう。

 目的が拷問なら、看病をする必要はない筈だ。

 演技だとは思えず、その所為か屋敷に居た頃に比べて、エイリーンに対する警戒心が徐々に解けていった。

 その後も一向に熱は下がらず、結局医者を呼ばれた。


「オルカ、手の傷を治す薬を貰ったよ。傷が良くなれば熱も下がるかもしれないって。何か食べれそう? 水分も足りてないんだって。水だけでも飲めそう? 」

「……水、なら」

「分かった。すぐ持って来るね! 」


 使用人と知恵を出し合った末に、仕切りを使用して診察してもらえたが、果たしてどこまで病状を理解したか一同に不安が残る。

 声を発することが出来ず、またエイリーンも別の部屋に隠れていたので、使用人達が四苦八苦しながら症状を代弁してくれていた。

 そんな状況で呼ばれた医者も、さぞ苦労しただろう。

 ろくに食事が摂れず、水も少量しか飲めなかった所為で体力は大幅に低下した。

 高熱にも関わらず、よく身体が持ち堪えたと自分自身に関心しながら、防衛本能で魔力を使用していたのだろうか、なんて呑気なことを考える。

 医者からどれだけ私が危ない状態だったか聞いたエイリーンは、癇癪を起す元気も無い程に落ち込んでいた。

 少なからず罪悪感を感じているのか。

 酷い体調不良を引き起こしてから、部屋のカーテンは常に閉め切られ、目隠しも外された。


「オルカ、水を持ってきたよ。また咳き込んじゃうといけないから、身体を起こすよ? 」

「うん……」


 関所が近いなら、逃げて助けを求めても良かった。

 けど、エイリーンを置いて行く気にはなれなかった。

 どうせこのまま脱出に成功したって、犯行動機が分からなければまた同じ事が繰り返される。

 第一、落ちた体力を回復させる為に意図的に魔力を使用すれば、後々手痛い代償が伴う危険性も高かった。

 というのも、元専属侍女に魔力を使用した事も、今回の体調不良の原因の一つではないかと踏んでいた。

 元々弱っていた状態にアロマキャンドルの成分と怪我で追い打ちを掛けられ、症状が悪化した可能性が高い。

 ケイプ卿から聞いた話を思い出しながら、今までの不可解な行動の理由と彼女の本心も知りたくなって、留まることを決意した。

 殿下と協力関係でもない。

 加えて、捜索隊が簡単に見つけられるような場所だ。

 エイリーンが小細工をして、お父様が事件に気付けなかったとしても、きっと伯爵家と公爵家が動いて探し出してくれるだろう。

 闇雲に動くより、救出を待った方が安全だ。

 それまで、この何処までも不可解な言動を繰り返す幼馴染と、きちんと向き合ってみようと思えた。


※修正箇所※

字下げ、誤字脱字、一部言葉の言い換え、記号の変更。

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