S級冒険者ナルサスの冒険
雑に書きました。
「S級冒険者と言ってもたいしたことないな」
そう言われても言い返すことが出来ない。
新進気鋭のA級冒険者フェグランとの模擬戦を行い見事に打ち負かされた。
フェグランは、S級冒険者の実力があるとされていたとは言えやはりS級冒険者がA級冒険者に負けるのは体面が悪い。
「何か言い返したらどうだナルサス」
「いや、完敗だよ。
流石に噂に名高い竜剣の使い手だ」
そして、なにより屈辱的だ。
「ふん、この程度でS級になれるならとっくになっとくんだったな。
いや、ナルサスお前がS級になったのがおかしいんだ。
その強さでS級を名乗るのはやめろ。
S級の名が廃る」
「待て、フェグラン。
ナルサスがS級なのは強さだけではない物を持っているからだ」
一人の老人が、フェグランを制止する。
老齢にしては、体幹がしっかりしており若々しく見える。
彼は、ギルドマスターのスイレン、この戦いの見届け役だ。
「ふん、どうだか。
冒険者にとって一番大事なのは何か教えてくれたのは爺さんだろ」
「確かに冒険者には力が必須だ。
その上で言う、ここで出せる力は限られている。
ナルサスに至っては奇襲が得意という事もある」
「ごたくはいいよ。
こいつを倒したんだ。
S級に上げてくれるんだろ?」
「うむ、約束は約束だ。
ついて来い」
そう言ってスイレンは、立ち去りその後をフェグランが付いて行った。
「情けねぇ奴」
という言葉を吐き捨てて……。
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「お疲れさまでした」
ギルドの闘技場から上がってくると受付嬢がねぎらいの一声を掛けてくれる。
「どうも、受付は大丈夫なのかい? セリス」
「ええ、この時間帯はどうしても暇になりますし」
S級冒険者には専属の受付がいる。
彼女が私の専属の受付のセリス・アルルターニュだ。
なるほど、今は昼時だ。
たとえ朝一で依頼を受けに来てなくともこの時間は食事をとっているので更に人が少ない。
その証拠というべきか。
受付があるホールはまばらにしか人がいない。
専属と言っても忙しい時はちゃんと書類作業に当てられるため楽をできるわけではない。
いや、寧ろS級冒険者の「機嫌取り」をしなくてはならないこともあるので普通の受付嬢より大変と聞く。
「ところで、フェグランさんの強さはどうでした?」
「強いよ。
とても強い。
あれならS級冒険者として名に恥じない戦いができるだろうね」
フェグランの強さの真骨頂は、まだ見てはいないが、それを抜きにしても十二分に強い。
ゴブリンが群れで押し寄せてもびくともしないだろう。
常套手段を使わずともその強さだ。
彼の真骨頂を使えば竜が相手でも普通に戦える。
いや若い竜なら圧倒できるだろう。
「そうですか。
それは良かったです」
「王都に新しい戦力が加わることになるしまた人が増えるだろうね」
戦力が増えるのはいいことだ。
特に特級戦力に当たるS級冒険者が出たとなるとお祭り騒ぎになるだろう。
その熱に当てられて新たな冒険者も増えるだろう。
魔物との戦いが常であるこの国においては、一人でも戦える者がいた方が良い。
「それで、ナルサスさんは、この後お暇ですか?」
緊張した面持ちで話すセリス。
「いや、残念ながら先約があってね。
どうしても外せないんだよ」
「そ、そうですか」
私の返事に明らかに気落ちしたため、何かしら話したいことがあったのだろう。
「何か相談したい事でもあるのかい?」
「い、いえ、大丈夫です!」
「そうかい?
まあ、今度暇があれば教えてあげるよ。
相談事ならナルサスにお任せあれだ」
まあ、なんにせよ美人に落ち込んだ顔は似合わない。
ちょっとしたジョークを挟む。
「うふふ、流石『何でも屋』のナルサスさんですね」
「何でもやってるわけでは無いんだがな」
私はそう言って頬を掻く。
「それじゃあ、この辺で」
「はい、お気を付けて」
ふと、彼女の肩に目が止まる。
「ああ、そうそう」
そう言って、私は彼女の肩についていた糸くずをつまむ。
「受付嬢はこんなのを乗せてても可愛いもんだね」
そう言うと見る見るうちにセリスの顔が赤くなっていく。
「まあ、気を付けるんだよ」
少しばつが悪い私は、そう言い残してその場を後にする。
細かいことを言い過ぎたかな?
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冒険者ギルドを抜けた私は、廃棄区画へ歩を進める。
廃棄区画、王都の闇でありまた、王都を支える縁の下の柱の一つである。
通称スラム街と呼ばれるその街は、王都の他の街並みに比べると汚く、そして陰惨としている。
とはいえ、街には違い無いので建物が立ち並びそこらかしこに人が見受けられる。
そんな場所に何しに行くのかというと私の手札の補充とコストの確認である。
まあ、S級として劣る私には、なりふり構ってられるわけもなく。
いろいろな代償の下、何とか活動しているというのが実体である。
そんな私を支えてくれる友の一人が、私を出迎えてくれる。
「旦那!
来てたんですかい!」
そう言って、おんぼろローブを纏った男が声をかけて来る。
「ああ、魔女に会いに来たんだ」
「そいつはおっかねえ。
ところで旦那、道案内は必要ですかい?」
「ああ、よろしく頼むよ。
それにお守りもあると嬉しいかな」
「そりゃあ、いい心がけですな。
お守りは金貨一枚、道案内は銀貨二枚ですぜ」
「ほら、ちゃんと袋に入れて持ってきたよ」
「そりゃ、何よりで、魔女の住処はこちらでさぁ」
男は先導し私は彼の後を付いて行った。
「さて、お守りの意味がなかったね不良品かな?」
「ままま、待ってくだせぇ!
誓って、罠に掛けたりしたわけじゃ!」
「そうかい?
道案内もいらなくなってしまったんだけどどうしようか?」
道案内の先には、待ち伏せの人が十人、そして、魔術師が三人。
並の冒険者ならあっさりと殺されていただろう。
そんな死地ではあるが、廃ってもS級冒険者……ははは、まあそういうことだから。
この程度の人海戦術ではやられたりはしない。
「S級冒険者を舐めてたのかな?
いや、舐められたのは私か」
S級冒険者は、冒険者の最上位だ。
対魔物の専門家とはいえ数十人の雑魚に襲われた程度ではやられたりしない。
まあ、この案内人が冒険者を相手に裏切るとは思えないので動いたのは上だろう。
それでも、1つ確信したのが、残念ながら友と思っていたのは私だけだったようだ。
「さて、潰すか?」
「ひぃ!?」
別にこちらに干渉しないのであればこちらからの干渉もするつもりがなかったのだけど……ん?
死体の一つに目が留まる。
ああ、なんだそういう事か。
さて、こんな世界でもそして、こんな場所にも血縁による親の七光りは存在する。
そして、往々にして親の七光りを振りかざすのは経験不足の若者だ。
親の力を自分の力と勘違いし力の使い方や大きさを理解せずに振り回す。
端的に言えば馬鹿である。
そんな奴が私の目の前に転がっている。
あの棟梁に目元が似ている。
粋がり方もそっくりだった。
あっちはまだ経験を積んでいたおかげでこの街で成り上がれたが、こちらは運がなかったな。
「ふむ」
私は紙を一枚懐から取り出しペンを出す。
「『自動筆記開始』」
その言葉でペンと紙が浮遊して私の視線の先に滞空する。
「これは、ちょっとした不幸だ。
貴方の息子はドラゴンに通じる剣を手にしたと勘違いし挑みそしてそのドラゴンに殺されてしまった。
ドラゴンは襲ってきた人間と同じ場所にいる人間をどう思うだろうか?
幸いなことに私は人間だ。
まあ、ドラゴンになる事もできるが、その必要はない。
そうだろう?
マルコ
ああ、追記だ。
道案内人の男にはこの手紙を運んだ金貨一枚と休みをくれてやれ
『自動筆記終了』」
ペンと紙が私の手元に戻ってくる。
戻ってきた紙はスクロールにして懐から取り出した紐で縛る。
「これが通じなければ、まあ、いいかな。
ほら、これを届けてくれ道案内人、金貨と休みがもらえるぞ」
「へ、へえ」
私からスクロールを受け取った男はその場を立ち去る。
「とんだ無駄足を踏んだもんだな。
まあ、こまめに来なかったのが悪かったか」
私は独り言ちて今度こそ魔女の住処へ歩を進めた。
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「で、人殺しをした後に女に会いに来た気分はどう?」
着いた魔女の家の前で一人の少女に迷惑そうに言われた。
「女は女でも魔女だから問題ないかな」
「最低」
「ははは」
ぐうの音も出ないね。
「で今日は何の用?」
「私を視て欲しいんだ」
「自意識過剰なのね」
「その自覚は一生しないだろうね」
全く。
「質の悪い冗談だよ。
まあ、誰かに見られてたら赤面モノだよ」
「それはそれは、見てみたいわね」
「それはさておき今の私はどれくらい引っ張られやすくなってる?」
「まあ、すれ違ったらついてくる程度に引っ張られやすいわね」
「それはうれしくない情報だね」
「まあ、あなたなら簡単に倒せるぐらいのやつだけどね」
「それは、良かった」
「はい」
少女は、こちらに手を伸ばす。
手の平を上にしているのを見ると何を求めているのかはわかる。
「……分かったよ。
いくらだ?」
「貴方の思うだけ払ってくれたらいいのよ」
全く、法外な金額だ。
「ほら」
そう言って私は金貨を十枚手渡す。
少女は満足そうに金貨をポケットに突っ込み。
「それだけ?」
「欲張りは良くないよお嬢様?」
まるで何かを確信しているかのようにこちらに微笑みかける。
知らないものが見たら彼女が魔女であることは分からないだろうね。
「……はあ、分かったよ。
ほら」
そう言って私は、一つの瓶を取り出す。
中には虹色に光る液体が入っている。
少女は、それをじっと見つめ両手を差し出す。
「……?」
私は、その手に瓶を乗せない。
「新しい『呪物』入っているだろう?」
「……分かったわよ。
その代わりそれもう一つと交換よ」
少女はそう言って杖を振る。
するとどこからともなく猫が現れた。
そして、猫は何かを咥えている。
少女が、それを受け取りこちらに差し出す。
私が取ろうとすると意趣返しのつもりか手を引っ込める。
「ほら、早く渡しなさい」
私は一つを手渡しもう一つを取り出す。
少女は、先に渡した瓶をすぐに開けるとそのまま飲み干した。
「ぷっはー!
生き返る!」
「毎度のことながらとんでもない光景だね」
一瓶で貴族の屋敷一つは買うことができる代物だというのにそんな簡単に飲み干してしまうなんて、ああ、あれでポーションがどれだけ作れると思っているんだ。
「ほら、早く渡しなさい」
「はあ、金銭感覚が狂いそうだ」
もう一つの瓶を渡して、少女から布に包まれた物を貰う。
触り心地は固い材質でできたベルのような形をしたものだ。
「黒装束の人が持っていたベルよ。
鳴らすと似たような人が出てきたけど何故か襲い掛かってきたから返り討ちにしたわ。
まあ、私には見向きもせず私の護衛の使い魔たちを殺し回っていただけどね。
『呪物』ではあるのだけど、呪いの正体が分かりにくいのよ。
祝福と呪恨両方を持っている珍しい品よ」
そう言って少女はフンスカと鼻を鳴らす。
「それは、使えるのか?」
「さあ、人は襲わないけど無差別に攻撃をする召喚獣かしらね?
無詠唱で呼べるとしたらとんでもない価値があると思うわ」
「召喚……無詠唱……呪物……、まさか『召喚呪術』か?」
「何? その召喚呪術って」
「召喚者を触媒にして『召喚獣』を呼び出す技法のことさ。
触媒は、目を一つ失うそうだが」
そう言って、目の前の少女をしっかりと見据えるが、特に異常は見当たらない。
「……普通に見えてるわよ?
召喚した後も別に見えなくなるなんてことはなかったし」
「……無償?
そんな都合のいい呪いがあるはずがない。
取り返しがつかないモノを要求するのが常なんだが」
「まあ、私にはもう関係ないわよ。
貴方の物だし」
「……そうだな。
ところで、助手はどうした?」
私の質問に少女はきょとんとする。
「助手?
そんなの私にはいないわよ」
「……それが、代償か。
重たいな」
「え? 何?
どういうこと?」
「魔女っぽい女性がいたと思うんだが?」
「それって私が魔女っぽくないってこと?」
「世間一般的なイメージでだよ。
人をだます見た目をしている君は十二分に魔女っぽいよ。
騙す見た目をしていない魔女だよ」
「それなら私の部屋で勝手に寝てたから閉じ込めてやったわ。
泥棒か拗らせたファンかと思ったから」
「はあ、酷いことを、取りあえず出してあげてくれ。
もし関係なかったら私が始末する」
「仕方ないわね」
少女はそう言って被っているとんがり帽子を外し手を突っ込み中から何かを引っ張り出す。
「きゃあ!」
地面に放り出されたのは、妖艶な姿をした魔女である。
「大丈夫か?」
「あ、ナルサスさん来ていらしたのですね!」
「え? 知り合いなの?」
「師匠?」
「待て、取りあえず私の話を聞け」
話がややこしくなる前に少女が記憶をなくしていることを指摘する。
「そんな馬鹿な。
そんな凶悪な呪い聞いたことないわよ」
「でも現に忘れているからな」
「貴方の記憶が間違ってるんじゃないの?」
「じゃあ、誰がお前の寝室を掃除しているんだ?」
「そんなの決まってるじゃない。
つかい……ま……?」
「使い魔が、ベッドメイクまでするか?」
「え?
本当に記憶が飛んでる?」
「そうだよ。
目というのは過去のことだったのか」
「師匠に忘れられた?
私、師匠に忘れられたんですか!?」
「そう言うことになるな」
「そんな、こんな優秀な私を忘れるなんて!」
ん?
ちょっと待とうか?
少女はお前のこと一度も優秀だなんて私に言ったことないぞ?
寧ろ、おっちょこちょいでかわいいとか言ってたぞ?
「そうなの?
ごめんなさい。
それじゃあ、お詫びに魔女カレーをご馳走してあげるわ」
「え?
えっと、あの」
「遠慮入らないわよ。
ナルサスも一緒にどう?」
「是非ともご一緒にと言いたいところだけどさっき食べたばかりでね。
今は食欲が無いんだ」
「そう?」
「取り敢えずこれは、貰っていくよ」
「ええ、またこれ持ってきなさいよ」
「畏まりましたお嬢様」
私は大仰に挨拶するとその場を後にした。
助手に関しては、まあ、多分扱いは記憶無くなる前と変わらないだろうな。
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「緊急依頼です!
S級冒険者に発注致します!
S級冒険者の方は、ギルドまで来て下さい!」
街中に響くサイレンと共に切羽詰まった呼び出しが聞こえてくる。
この感じは、高位の魔獣でも現れたか?
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「何してるんだ!?
俺より弱いお前が誰か勝てるはず無いだろ!」
「一流の冒険者は、誰にも見せない切り札を1つや2つ持ってるものさ」
「だから、俺の切り札も通らなかったって」
「別にあれを倒す必要はないさ。
そもそも倒すつもりも無いしね」
「じゃあ何をするつもりなんだ」
「まあ、見ててよ」
全ての物には相性がある。
強い弱いは勿論だが水で火が消えるように鉄で土を切れるように相性というものが存在する。
なので私は考えた。
死なないようにするにはどうすべきか。
答えは簡単だ。
全ての物に対応出来るように全ての物の弱点を突けるようにする。
そのせいで戦闘力が中途半端になってしまったのは少々不服だが、それでも死んでしまうよりましだ。
その過程で色々な者を手に入れた。
希少な物、そして更に希少な物、そして、二度と手に入らない物。
しかし、それらは所詮物だ。
私の命には代えられない。
だからこそ使う。
一国を買えるこの『呪物』を
「なんだそれは」
「私のとっておきの1つさ」
アイテムポーチから取り出したのは片手に収まる程度の小さい鐘だ。
カラーンカラーン
響き渡る音色は時折歪み気味の悪い音色になる。
カラーンカラーン
黄昏の町で手に入れたこの鐘は、狩人を呼び寄せる。
カラーンカラーン
さあ、応えてくれ狩人よ。
「おい、敵が来るぞ!」
時空を超えて呼び出す技法、召喚術。
その中でもとりわけ異端の存在、【召喚呪術】
カラーン
「うわ!
人?
おい、人を呼んでどうするんだ!?」
記憶を失うことにより呼び出す技法。
さて、今回は何を失ったのかな?
「さあ、狩りの時間だよ」
狩人は踊り始めた。
「うわ、狂ってんのかこいつ?」
敵を目の前に踊り出すのはもはや狂人の類だろう。
「まあ、見ててくれ」
敵が十分に近づいて来たからか、黒いコートを翻し黒装束の狩人は獣と対面する。
そして近づいてくるその獣を受け流した。
ように見えた。
しかし、次の瞬間、狩人の右腕は獣の腹部に埋まっていた。
「何が」
私にも分からない。
どうして獣に致命傷を与えることができたのか。
まるで時間が飛んだかのように狩人は獣のはらわたをえぐっていた。
狩人は獣を地面に押し倒して腹部から手を抜き鉈を構える。
そして躊躇なく獣の頭部に鉈を振り下ろす。
振り上げ、振り下ろす。
振り上げ、振り下ろす。
振り上げ、振り下ろす。
振り上げ、振り下ろす。
振り上げ、獣が息絶えたのを確認するとこちらに親指を立ててそのまま消えて行った。
「何だったんだ?
あの獣は、かなり堅かったんだぞ!?」
「私にも分からない。
ただ、彼らが獣を狩ることに特化しているのは確かだよ」
まあ、偶にこちらに襲い掛かってくるが、今回はそれがなかったようだ。
よかった。
「そんなのがあるなら何故もっと早く使わなかったんだ?」
「奥の手には、リスクがつきものだろ?
たまたま、今回は無難に終わったが、運が悪ければあれが敵になるんだよ」
「それは、笑えねぇな」
そう言って、フェグランは、うんざりしたような顔をする。
「さて、帰るか」
「この魔獣はどうするんだ?」
「ん?
私の二つ名を知らないのかい?」
「『何でも屋』だろ?
それが何の関係が?」
「運び屋でもあるんだよ。
私は」
そう言って懐から『風呂敷』を取り出す。
「その布でどうするんだ?」
「まあ、見ててよ」
『風呂敷』を魔獣に被せると見る見るうちに風呂敷が魔獣を包みそして背負える程度の大きさになる。
「運べるのは一つだけだけどどんな大きさの物でも運べる布だよ」
「スッッゲーーーーーーーッ!!」
フェグランの唐突の驚き声に吃驚した。
「なんだその魔道具!
見たことも聞いたこともねえ!」
「魔道具じゃなくて宝貝なんだけどね」
「ぱおぺえ?
なんか間抜けな名前だな」
「いや、これが宝貝ってわけじゃ」
「ぱおぺえって凄いんだな!」
「まあ、いいか」
風呂敷を背負うと後ろでスゲースゲー言いながらフェグランが騒いでいる。
「さあ、帰るよ」
「ああ、分かったよ。
ナルサスさん」
その言葉に私の口角は思わず上がってしまうのだった。