2.スキルを凌駕する力。
筋肉はすべてを解決する。
「へぇ……? 平民のくせして、僕たちに楯突こうっての」
「その勇気だけは買ってやっても良いけど、俗にいう蛮勇だよ?」
「そうかな。ボクとしては、身分とかオマケだから関係ないんだよね」
新学期初日は、授業がない。
だからボクたちは教室を早々に抜け出して、人気のない場所――二年前、自分にとってはすべての始まりとなった校舎裏へ移動した。そこで不良貴族二人を前にして、ゆっくりと屈伸運動をする。筋肉は解れているから、残りは関節の確認だった。
こんな下らない奴らを相手にして、不要な傷は負いたくない。
「ずいぶんと、生意気だな……!」
「なぁ、殺しちゃっても良いよね?」
そう考えていると、先ほどの返答が癇に障ったらしい。
彼らは互いに目配せをすると、一人が前に出て声を上げるのだった。
「後悔すんなよ、貧乏人風情がァ!? 僕の【冷却】で凹してやるよ!!」
直後、そいつの周囲に氷の礫が浮かび始める。
どうやら、それが相手のスキルのようだ。ボクは真っすぐにそれを観察し、あまりに粗暴な使い方に首を左右に振る。
空気中の水分を冷やし、それをこちらにぶつけるつもりなのだろう。たしかに物理的ダメージを与えるだけなら、それが一番手っ取り早いとも思えた。
「……だけど、悪いね」
その貴族が放った氷の礫。
ボクはそれを――。
「この程度なら、こっちのスキルを使うまでもないんだ」
「なっ……!?」
――全弾、拳で叩き落した。
さすがに多少の痛みはあったけど、これくらいなら凍傷にもならない。
相手はこちらの行動に驚愕しているのか、大きく目を見開いて震え上がっていた。恐怖というよりも、スキル相手に素手で応戦したことについて怯えているらしい。
だけど、これこそがボクの戦い方だった。
スキルなんて最低限で良い。重要なのはすべて『筋肉』なのだから。
「お、おい! お前も戦え!!」
「分かってるよ! そっちが素手で戦うなら、こっちだって!」
そんなボクの戦闘スタイルを見て【冷却】使いは、もう一方の貴族に指示を出した。すると彼はどこか、自信あり気な様子で前へ出てくる。
そして、拳を強く握りしめながら叫ぶのだった。
「スキルも使わずに、勝てると思うなよ!?」――と。
すると彼は勢いよく、ボクの方へと突っ込んできた。
拳を振り上げて、力の限りに叩きつけてくる。
ドン、という音が校舎裏に響き渡った。
だがしかし――。
「ふーん……なるほど、そっちは【身体強化】か?」
「ば、ばかな……!?」
ボクは回避することなく、彼の拳を捕まえる。
何故ならいかに【身体強化】を使ったとしても、初期値が低ければ威力もたかが知れているからだ。そんなものは所詮、嘘偽りの力に過ぎなかった。
それに踊らされ、自分が強くなったと錯覚している相手が可哀想に思える。
だから、
「が、あ……!?」
「いいか? これが、本当の努力だよ」
ボクは彼の拳を掴む手に、少しだけ力を加えた。
骨が軋む感覚が伝わってくるが、へし折るまではしない。相手が苦悶の表情を浮かべたあたりで、解放してやることにした。
そして腹部に一撃を入れ、気絶させる。
「ひっ……!?」
力なく崩れ落ちた彼を寝かせ、次にボクは【冷却】使いの貴族のもとへ向かった。そちらは完全にボクを見て震え上がり、顔を真っ青にしている。
逃げ出そうにも、腰が抜けて動けない様子だった。
そんな相手に対して、ボクは告げる。
「悪いけど、報いは受けてもらうよ?」――と。
手を翳しながら。
ボクはそこでやっと、自身の【暴食】を発動させるのだった。