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6 現場百遍

「つまり、吉田さんは誰かに殺された可能性があるということか」


 小林は腕組みをして(つぶや)いた。中村も小林のマネをしたのか腕組みをした。明智がハッとした顔をして、小林と中村に謝り始めた。


「す、すみません! 僕、つい興奮してしまって……今のは、あくまで推測に推測を重ねたものです。証拠はありません。可能性があるというくらいでして」


 小林は、顔がまだうっすら紅潮している明智の「興奮」という言葉を聞いて、中村がまた拝み出すのではないかと心配したが、当の本人は腕を組んで何やら考えているようだった。


 小林は明智の肩にポンと手を置いた。


「確かに推測だ。だが、俺は筋が通ってると思う。明智くんの推理に従って調べてみる価値があると思うよ」


「ありがとうございます!」


 明智は小林に大きく一礼をした。


「げんばひゃっぺん!」


 突然、中村が大声を上げた。驚いた明智と小林が中村の方を向く。


「小林係長、現場百遍とはなんでしょうか。はい、どうぞ」


「驚かすなよ。現場百遍はな、あれだ、事件現場には必ずヒントがある。だから百回でも足を運んで調べろってことだ。先輩が口を酸っぱくして言ってたもんだ」


「はい、正解! それじゃこれから現場に行きますよ。わたくしミッチーめが車を借りてきます。小林係長は、そのファイルの持ち出しや証拠物件の仮出しの手続をしといてくださいね」


「おいおい、半年前の事件だぞ、今更見に行ったって……」


「げんばひゃっぺん!」


 中村はまた大声を上げると、駆け足で資料保管室から出て行った。小林と明智は、お互いに顔を見合わせた。



† † †



「ったく、もうすぐ秋だっていうのに、全然涼しくならねえな」


 事件現場近くの路肩に停めた車の後部座席から降りた小林は、扇子で顔をパタパタと扇ぎながら独りごちた。

 助手席の明智と運転席の中村もそれぞれ車から降りてきた。明智が助手席に座ったのは、中村のたっての希望だ。本当は明智とドライブしたかっただけではないかと勘ぐってしまう。


 明智が少し重たそうにファイルを持って、綴られている現場地図を指差しながら説明した。


「我々が今いる場所が、逆S字になっている道路のちょうど中間地点ですね。この先、左カーブの手前が事件現場です」


「ここ、初めて来ました。思ったより道幅が広いんですね。でも、前も後ろもカーブで、見通し悪いですね。街路灯も少ないですし」


 中村がそう言いながらスマホで写真を撮った。帰宅時間前ということもあるのか、車も人もほとんど通らない。3人は道の真ん中に並んで赤羽駅方面に歩き出した。


 逆S字の道路は、おおむね南西から北東へに伸びている。

 北東・赤羽駅方面に向かって左手は、1メートルほどの高さのブロック積み擁壁が続いており、その向こうに団地があるはずだが、擁壁の上に高さ3メートルほどの仮囲い鋼板が並べられていて見えない。

 赤羽駅方面に向かって右手は、ちょっとした植樹帯が続いており、その先は崖になっていて、眼下には住宅街が広がっている。


「この団地の仮囲いは、事件当日もあったのか?」


 小林の問いに明智がファイルの資料をめくった。


「はい、すでにあったようです……あ、ここが吉田さんが倒れていた場所です」


 3人は、左カーブにさしかかる所で立ち止まった。左手には10段ほどの緩やかな階段があり、上れるようになっていた。階段の横には、誰が置いたのか、綺麗な花が(そな)えられていた。


「報告書によると、右手の崖側が頭で、左手の階段側に足を向けて、ちょうど道路の真ん中に倒れていたようです」


「こんな、ど真ん中にねえ……」


 小林は、今は何もない道路を少し見つめた後、目を閉じ、手を合わせた。中村も手を合わせる。それを見た明智は、慌ててファイルを地面に置き、手を合わせた。


 しばらくして目を開けた小林は、辺りを見回し、階段の上を見た。どうやら公園のようだ。


「こんな所に公園あったっけ?」


「上がってみます?」


 そう言うや否や、中村は階段を上がっていった。小林と明智が後に続いた。

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