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5 深まる謎

「被害者は故意に()かれた可能性があるということか。しかし、一体何故だ?」


 小林はパイプ椅子に座り直し、腕組みをして(つぶや)いた。同じく座った中村が何度も(うなず)く。

 明智が少し困惑した表情でファイルの資料をペラペラとめくりながら話し始めた。


「分かりません……何か手がかりがあればいいのですが」


「明智警部補殿、質問です!」


 中村が何故か挙手をして話し出した。


「さっき仰っていた死因の話なんですが、(のう)挫傷(ざしょう)ってどういうものなんですか?」


 明智が答えるよりも前に、小林が中村の方に振り向いて話し始めた。


「なんだよ急に。脳挫傷ってのはなあ、頭を強く打ったり、激しく揺すられたりして、脳みそ自体が傷つくことだ。なあ、明智くん?」


「すみません、僕もあまり詳しく知らなくて」


 明智が伏し目がちに恥ずかしそうに微笑んだ。


「キュートなスマイルいただきました! ごちそうさまです!」


 中村が突然立ち上がり、明智を拝み始めた。小林が慌てて中村をパイプ椅子に座らせた。


「こら、落ち着け! まあ、あれだ、頭を強く打つことで、頭の中の脳みそが頭蓋骨にぶつかって壊れるってイメージだな。なので、外傷がほとんどないのに重傷化する場合があるし、頭を打った逆側の脳みそが壊れてるって場合もある。俺も詳しくは知らんがな」


「でも、亡くなった吉田さんは、酔っ払って路上で寝ちゃってたんですよね?どこで頭を打ったんだろ?」


 中村が首をかしげながら呟いた。それを聞いた明智が何かに気づいて大きな声を上げた。


「そうか、そういうことか!」


 明智が慌ててファイルの資料をめくり始めた。自分の考えを再確認するかのように早口で呟く。


「オートバイが被害者の首元を轢いたことで、頸椎(けいつい)胸骨(きょうこつ)が骨折した。でも『ゆっくり慎重に』轢いたから、骨折はしたものの、それが死因にはならなかった。実際の死因は脳挫傷。後頭部の骨が折れている。でも、轢かれたことで頭を強く打った可能性は低いし、それで後頭部の骨が折れた可能性も低い……」


 明智は小林と中村の方を向いた。


「見てください! 事件当日の現場の状況の報告書」


 明智がファイルに綴られている報告書を指差した。小林と中村はパイプ椅子から立ち上がり、資料を覗き込んだ。


「当日の天気は曇りですが、直前まで断続的に雨が降っていて、路面は濡れていたんです。ああ、どうしてさっきは気づかなかったんだろう。いくら酔っ払っていたとはいえ、雨上がりすぐの濡れた路面に仰向けで寝てしまうなんてことは考えにくい。第一、ズボンとかから下着に水が染み込んできて気持ち悪いはずです。僕も経験ありますが、酔いが覚めちゃいますよね」


「経験あるんだ。明智キュンの下着が、濡れる……」


 中村が何やら呟いたが、小林は無視することにした。


 明智が続ける。


「そして、死因の脳挫傷。誰かがオートバイで『ゆっくり慎重に』轢いて、轢かれたことが原因で亡くなったかのように見せようとした……誰かが脳挫傷という死因とその()()を隠そうとしたんですよ。結果的に、優秀な監察医によって阻まれましたけどね」


 一気に話をして息が切れたのか、明智は深呼吸して、小林と中村を改めて見つめ直した。明智の顔は紅潮し、その黒曜石のような瞳は一段と輝きを増していた。


「吉田さんは、路上で寝てなんかいなかった。轢き逃げになんか遭っていなかった……吉田さんは、()()()()()()頭を強く打ち脳挫傷になったんです。そして、脳挫傷になった後、その誰かによって路上に寝かされ、轢き逃げに遭ったかのように偽装されたんです」

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