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4 明智の疑問

「この資料を読んでいて、本当に事故なのかどうか分からなくなってきまして……」


 そう言うと、明智は被害者の死因等が記述されている資料を開いた。小林はパイプ椅子から身を乗り出して覗き込む。いつの間にか中村も横に立って興味深そうに見ていた。


「亡くなられた吉田さんの死因なんです。死体検案書などでは、直接の死因が『(のう)挫傷(ざしょう)』とされています」


「そうだな」


 小林はうなずいた。明智が続ける。


「どうして頸椎(けいつい)や胸部の骨折が死因じゃないんでしょうか」


「そりゃあ、バイクにはねられたときに衝撃で頭を打ったんじゃないか。あの道は人通りも少ないし、スピードがかなり出てたんじゃないか」


「そこなんです。僕はオートバイに乗ったことはないのですが、スピードを出しながら路上に寝ている人間に乗り上げて、そのまま通過することって出来るのでしょうか」


「あっ!そういえば」


 中村が急に大きな声を上げた。


「この前、友達がツーリングで山に行ったそうなんですが、見通しの悪い道で鹿の死体を避けきれず踏んじゃって、転倒したって言ってました。幸い大した怪我はなかったんですが、修理費代が高いってボヤいてました」


「だが、今回はバイクが転倒した形跡はないぞ。路面にブレーキ(こん)もなかったようだし。運転の上手い奴が体勢を立て直してそのまま逃走したんじゃないか?」


「小林さんが仰るとおり、その可能性はあります」


 明智が小林の意見を肯定しつつ、話を続けた。


「ですが、仰向けで寝ている人間の首元を、オートバイでスピードを出しながら一直線に通過することって、本当に出来るんでしょうか。普通なら、バランスを崩して転倒したり、後輪がズレて別の場所を踏んだりするんじゃないでしょうか」


 明智は、被害者の着衣の状況を記述した資料を開いた。


「今回亡くなられた方の服には、首元や肩にだけタイヤ痕があったということです。もし、オートバイがバランスを崩していれば、後輪がお腹や頭に乗り上げてしまうんじゃないでしょうか。後輪が頭の上の方の道路を通過した可能性はありますが」


「確かに、今回のタイヤ痕は首回りだけだ。体にはない。頭の上を後輪が通過できるかどうかだが……バイクのタイヤの種類って特定されてたんだっけ?」


「ええっと、あ、ここです」


 中村がページをめくって該当箇所を指差した。小林が立ち上がって見る。


「すまん、読み飛ばしてたな。どれどれ……少なくともオフロードじゃなさそうだ。そうすると、大型バイクの最低地上高は20センチ前後ってとこかな。まあ例外はいっぱいあるが。そして、おでこから後頭部までの長さは、大人で大体20センチ弱ってとこだ。そうすると、ぎりぎり頭の上をバイクの車体が通過する可能性があるってことにはなるが、首元を前輪で踏めば衝撃で頭が動くだろうし、何かしら頭に痕跡が残ってもおかしくない。それがないとなると……」


「小林係長、すごいじゃないですか!」


 中村が驚いた顔で小林を見た。


「伊達に長く警察官やってないぞ」


 小林は得意顔で中村を見た後、明智の方に振り返った。


「つまり、バイクは()()()()()()()()被害者の首元を横切った可能性が高いということだな……って、えっ?」


 小林は、自分が言った言葉の意味に気づき、絶句した。


「……そうなんです。わざと首元を狙って()いた可能性があるのではないでしょうか」


 明智がファイルから視線を外し、小林と中村の方を向いた。小林は鳥肌が立つのを感じた。

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