23 明智の危機②
投げ飛ばされた門野は、ゴミ置場のゴミ袋の山に倒れ込んだ。そこに小林が近づき、門野の胸ぐらを掴んで引き起こした。明智の尋常ではない様子を見て、門野を睨みつけて聞く。
「何をした?」
「す、睡眠薬をちょっとだけ……」
「この外道が!」
小林は、門野をもう一度ゴミの山に投げ飛ばした。門野はしばらくゴミ袋の山で手足をバタバタしていたが、そのまま寝入ってしまった。
「てめえには、今度改めてじっくり話を聞かせてもらうからな」
そう吐き捨てると、小林は明智のもとへ駆け寄った。明智は小林に気づくと、安心したせいか、力が抜けて小林の体に倒れ込んだ。慌てて小林が抱いて支える。
「明智くん! 大丈夫か!?」
「す、すみません……」
「こちらこそ、すまん! 場所を見つけ出すのに時間がかかってしまった。ナッチーや真由美さんもすぐ来るからな」
「……か、門野は春木と繋がってました」
「よく頑張った! よく頑張った!」
小林が明智を抱きしめながら、明智の頭を優しく撫でた。明智はいつの間にか眠ってしまった。
† † †
翌日、日曜の朝、明智は自宅のベッドで目を覚ました。じいやが執事服姿でベッド脇に立っている。明智は目をこすりながら、じいやに話しかけた。
「ああ、おはよう、じいや。夕べは嫌な夢を見たよ。何故か女性の格好をして、知らない男と夕食を共にした後、襲われそうになるんだ。それで危ないところを小林さんに助けてもらって……」
そこまで話したところで、明智は夢がすべて現実だったことを思い出した。ガバッとベッドから上半身を起こした。自分の服装を確認すると、寝間着だった。頭がガンガンする。二日酔いだ。
じいやが優しく話しかけた。
「おはようございます、慧一郎様。真由美お嬢様と小林様、中村様がお待ちかねですよ」
じいやの横には真由美が、その後ろには小林と中村が立っていた。
真由美がベッドの明智に抱きついた。
「ごめん! 私が変な思いつきを言ったせいで……」
「違うよ、姉さん。最後に決断したのは僕だよ。それに、姉さんを門野から守れて良かった」
真由美が明智に抱きついたまま泣き出した。明智は真由美を優しく抱きしめた。その光景は、まるで絵画を切り取ったように美しく、神々しくさえ感じた。
「美しい姉弟の美しい姉弟愛……尊すぎる」
明智と真由美を見つめながら、中村が呟いた。目には涙を浮かべている。
小林はベッドに近づき、明智と真由美に深々と頭を下げた。
「俺の判断ミスだ。門野の危険性についてリスクを十分に考慮していなかった。それに『じいや』さんが明智くんのスマホにGPS位置確認アプリを入れてくれてなければ、あの場に助けに行くこともできなかった。すまない」
明智が慌てた様子で小林に話しかける。
「ど、どうか頭を上げてください! 実行すると決断したのは僕ですし、門野がまさかあんな行動に出るとは事前に分かりませんでした。それに、小林さんは僕がピンチの時に颯爽と助けに来てくれましたし。小林さんに惚れてしまいそうでしたよ」
そう言うと、明智が笑った。それに釣られて皆も笑った。
場が和んだところで、じいやが水と薬を持ってきて、ベッドのサイドテーブルに置いた。明智がそれを見て、じいやに言った。
「ありがとう、じいや。心配かけてごめん」
「ご無事でなによりです」
じいやはそう言うと、皆に話しかけた。
「皆様お疲れでしょう。シャワーを浴びて来られてはいかがでしょうか。真由美お嬢様だけでなく、小林様と中村様のお召し物もご用意しておりますのでご安心ください。その後、少し遅めの朝食にいたしましょう」
それを聞いた中村のお腹がグウと鳴り、皆が笑った。




