20 唯一の方法
「じょ、女装?」
明智が目を丸くして聞き返した。真由美が澄ました顔で答える。
「そう、私になりすまして門野さんに会うの」
「ちょっと何ゆうてるんか分からへんのやけど……」
あまりに動揺したのか、明智が関西弁になった。真由美が続ける。
「実はね、門野さんから何度も食事のお誘いを受けていたの。色々と理由をつけて断っていたんだけど、あまりにしつこいから、嫌々お受けしたの」
「いつなの?」
「今晩よ」
「こ、今晩?!」
明智が頭を抱えた。真由美に聞く。
「姉さん、他に方法はないの?」
「ないわ」
真由美が即答した。明智が諦めきれずに聞く。
「で、でも、姉さんが話を聞いてきてくれるとか、別の機会を設けて話を聞くとか……」
「私は捜査情報を知らないし、皆さんが必要としている内容を十分に聞くことができないわ。慧一郎たちが別の機会に話を聞いたら、それこそ警戒されて何も聞けないと思うわよ」
「こ、小林さん……」
明智がすがるような目で小林の方へ振り返った。小林は目をそらした。
「す、すまん。他の方法が思いつかない」
「な、ナッチーさん……」
明智は最後の頼みの綱と言わんばかりに中村に聞いた。中村は、何故か目を輝かせながら答えた。
「この方法しかないですね。たったひとつの冴えたやりかたですね」
「そ、そんなあ」
明智はその場にへたりこんだ。
「さ、時間がないわ。お着替えに行くわよ。どの服がいいかしら。お化粧もしなきゃね。皆さん、すみませんがしばらくお待ちください」
そう言うと、真由美は明智を引きずるように連れて応接室を出ていった。
† † †
「お待たせしました。慧一郎、早くお入りなさい」
応接室に真由美が戻ってきた。中々応接室に入ってこない明智を真由美が呼ぶ。
渋々と入ってきた明智は、清楚な白のワンピース姿にナチュラルメイク、どこから調達したのか真由美と同じ髪型のカツラをかぶっている。その姿はまさに真由美と瓜ふたつだ。
明智の姿を見た中村が素早くスマホを取り出し写メを撮った。
明智が顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
「な、ナッチーさん、やめてください! あと、姉さん、ほんまに下着まで着替える必要あるん? 歩くと、その……動きづらいんやけど……」
もじもじする明智を見てスイッチが入ったのか、中村がスマホで連写し始めた。
† † †
明智がソファーに座った。小林から見ると、和装の真由美と洋装の真由美がいるように錯覚してしまう。
真由美が満足そうに明智のワンピース姿を眺めた。
「こんなこともあろうかと、慧一郎に合う服やウィッグを色々と用意しといて良かったわ」
こんなこと普通あろうはずがないだろうと思ったが、実際、役に立ったので、小林はその点何も言わず別の話をした。
「さてと、作戦会議だな。真由美さん、門野に会う際の注意点を教えてもらえますか?」
「はい、分かりました。門野さんとは、2月の防衛省の実地検査のときに検査会場で会ったのが最初ですね。その後、資料提出等の関係で電話やメールのやりとりをしていたのですが、慰労を兼ねて一度食事でもどうですか、という連絡が来るようになったという状況です」
「ということは、プライベートでは初めてということですね」
「はい、ですのでお互い初対面に近い感じで接すればいいと思います。あとは声色ね。もともと私と慧一郎の声は似ているから、少し高めの声で話せば大丈夫でしょう」
「分かりました。さてと、門野から聞き出したい内容は何かな?」
小林が明智に聞いた。ワンピース姿の明智が真面目な顔で答える。
「はい、門野さんが赤羽の会合の話を第三者に漏らしたのか、漏らしたのであればその第三者は誰なのか、事件にどこまで関与しているのか、といった辺りかと」
「同意見だ。あとは現場で臨機応変に対応だな。明智くんには通話中にしたスマホを持ってもらおう。我々はそれで話を聞きながらどこか近くの店で待機して、非常事態に備えよう。GPSで位置を確認できれば最高なんだがな」
「まあ、録音するわけじゃないし、声もほとんど聞こえないだろうから、この程度ならギリギリ違法捜査にはならんだろう」
限りなく黒に近いグレーかな、とも思ったが、小林は自分に言い聞かせるようにそう言うと、明智の方を向いて、両肩に手を置いた。明智の目を見据える。
「今回の成否は明智くんの双肩にかかってる。頼んだぞ」
「はい、頑張ります!」
淡いピンクの口紅をつけた明智が笑顔で答えた。その美しさに小林は思わず赤面しそうになった。




