2 助っ人参上
「失敗例ならありますよ~」
小林がドアの方へ目をやると、若い婦警が立っていた。セミロングの髪を後ろで束ね、細めの眼鏡をかけている。その一見すると理知的な顔立ちに不敵な笑みを浮かべた婦警に、小林はすぐピンときた。
婦警は、片手を腰に当て、もう片手を小林に向けて指を差し、話し始めた。
「小林係長、明智警部補をいじめてないでしょうね? 何かあったら明智クンを守る会会長の私が許しませんからね」
「そんなことする訳ないだろ。ってか何だその会は。交通課は忙しいんじゃなかったのか?」
「私の処理能力をもってすれば、これくらいの空き時間は余裕で作れますよ」
そう言って眼鏡をクイッと上げてニヤッと笑う姿を見て、小林は苦笑した。
「相変わらずだな……ああ、明智くんに紹介しなきゃな。交通課お笑い係の中村巡査だ」
「交通総務係です」
そう訂正すると、中村は明智に向かって敬礼した。
「中村七海巡査です! ナッチーとお呼びください! 趣味は読書ですが、ジャンルがちょっとアレなので黙秘します! 今度署内有志で明智警部補を愛でる……もとい囲む会を開催させてください!」
言い終わると中村がウインクした。小林は慌ててフォローした。
「明智くん、すまん、こういう奴なんだ。気にしないでくれ。べつに呼ばなくていいし、出席しなくてもいいからな」
幸いなことに明智は怒っておらず、笑い出すのを必死に堪えているようだった。その様子を見て安堵した小林は、中村に向かって話し始めた。
「で、失敗例って何なんだ?」
「半年前に西赤羽台であった轢き逃げ事件、憶えてます?」
「ああ、4月の人事異動直前の死亡事故で、交通課の送別会が吹っ飛んだってやつか。あれ、まだ捕まってないのか」
「ええ、交通捜査係の先輩に聞いたんですが、事件が立て込んでることもあって全然進んでないそうなんですよ。おかげで交通課長がピリピリモードで、うちの係も八つ当たり被害に遭ってるんです」
「やべえな、そりゃ。捜査の失敗というより、組織の問題って気がしないでもないが……」
小林は、頭をポリポリ掻きながら少し考えて、明智の方へ向いた。
「うーん、明智くん、どうだろう? この進んでない事件の記録を借りてきて、俺らで勉強がてら捜査を手伝うってのもアリかな。実践を兼ねた捜査実務研修ってことで。当初の予定とちょっと変わってしまうが、どう思う?」
「是非やらせてください!」
明智がすぐに元気よく返事をした。やる気に満ちた瞳がキラキラと輝いている。それを見た中村が明智の前に駆け寄り、明智の両手を握ってブンブン振った。
「さすが明智警部補! 尊い! それじゃあ、わたくしナッチーめが交通捜査係と調整してまいります。小林係長は交通課長に仁義切ってくださいね」
そう言うと、中村は走って部屋を出ていった。
「おい、ちょっと待て……ったく、もう行っちまった」
小林は半ば呆れながらパイプ椅子から立ち上がり、交通課長のデスクへ向かった。