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19 裏切り者

「永山副長が吉田さんと同じ日に亡くなった?」


 あまりの話に驚いた明智が聞き直した。窓の外では雷鳴が響き、大粒の雨が降り始めた。真由美が明智に答える。


「そうなの。赤羽から十条の宿舎へ帰る途中で、交通事故に遭ったの。そして、吉田部員から受け取ったはずの資料は見つからなかった……」


「それって、偶然?」


 顔を青くした中村が、誰となく聞いた。明智が答える。


「偶然かもしれません。ですが、偶然にしては、あまりに出来過ぎです」


 真由美が話を続けた。


「永山副長と吉田部員が会合の帰り道で亡くなり、資料も消えた。流石(さすが)に偶然とは思えず、私と高柳専門官は内々に相談して、この案件から一時手を引くことにしたの。高柳さんの方も、上司が変わって動きにくくなったみたいだしね」


「吉田さんと永山副長の死には関連があると考えた方がよさそうだな」


 小林は両脇に座る明智と中村に言った。明智と中村が無言で(うなず)いた。



† † †



「でも、仮に犯人が吉田さんと永山副長を襲ったとして、どうしてあの日に会合があることを知ってたんでしょう?」


 クッキーをポリポリ食べながら、中村が皆に聞いた。明智が真由美に聞く。


「姉さん、会計検査院や防衛省で会合のことを知ってた人はどれくらいいたの?」 


 真由美が首を(かし)げながら答える。


「そうねえ……検査院では、私と永山副長だけね。防衛省も会合に出席した者以外は誰も知らないはずだと高柳さんが言ってたわね」


「裏切り者がいる!」


 飲み干したティーカップをローテーブルに置くと、中村が立ち上がって大きな声を上げた。同時に遠くで落雷があり、窓の外が光った。まるでサスペンスドラマだ。


「少なくとも、私ではないですからね」


 そう言うと真由美が笑った。


「そうすると、怪しいのは門野(かどの)さんか」


 明智が(あご)に手を当てながら(つぶや)いた。皆の顔を見る。


「防衛省側の出席者は、吉田さんのほか高柳さんと門野さん。高柳さんは先日お話を聞いた限り吉田さんを相当慕っていたようですし、裏切るような感じはなかった。むしろ、会合の背景に何があったのか、暗に我々に伝えようしていたような気がします」


「確かに、いくら話し好きとはいえ、ちょっと話し過ぎな感じしましたもんね」


 中村が同意する。明智が話を続けた。


「一方、門野さんは、高柳さんの意図を知ってか知らずか、途中で話を(さえぎ)るなど警戒してましたし、ノロちゃんの防犯カメラの動画でも、会合中にスマホをいじるなど気になる動きをしていました」


 雷雨はいつの間にか止み、日が差し始めた。明智の話を聞いて、小林が腕組みをする。


「確かに。しかも、門野は確か十条の官舎だったよな。永山副長と同じなんじゃないか?」


「犯人は門野さん、あなたです!」


 中村がまた立ち上がり、暖炉を指差してポーズをして大声を上げた。皆が笑い、場が少し(なご)んだ。


「いずれにしても、門野さんに探りを入れたいところですが、あれだけ警戒されると難しいですよね」


 明智が腕組みをしてソファーにもたれかかった。それをみた真由美が少し考えてから明智に話しかけた。


「ひとつだけ方法があるのだけど……」


「どんな方法なの?」


 明智がソファーから身を乗り出して聞く。


「いえ、やっぱりやめておくわ。慧一郎(けいいちろう)の負担が大きすぎる」


 真由美が頭を横に振った。明智が食い下がる。


「真相の解明に少しでも役立つなら、僕はなんでもするよ!」


 明智が立ち上がり、真剣な表情で真由美を見つめた。小林と中村が固唾を呑んで見守る。真由美が躊躇(ためら)いがちに明智に聞いた。


「本当に? 何でも?」


「うん!」


「つらい思いをするかもよ?」


「大丈夫、皆の役に立てるなら!」


「……分かったわ。じゃあ慧一郎、あなた女装して門野さんと食事してきなさい」


「は?」


 思いもよらない提案に明智はその場に立ちすくんだ。

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