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15 居酒屋「ノロちゃん」

「ほら、ここだ」


 そう言いながら小林が暖簾(のれん)をくぐった。明智と中村が続く。いらっしゃい!と威勢のよい声が奥から聞こえた。


 赤羽駅東口の飲み屋街。脇道に入って少し奥に行ったところに居酒屋「ノロちゃん」はあった。

 カウンターとテーブル席が5つほどのこじんまりとした店だが、人気店らしく、すでに奥の4人掛けテーブル以外は客でいっぱいだ。


 3人はその奥のテーブルに案内され、小林が奥に、明智と中村が手前に並んで座った。明智が周りを見回しながら小林に聞く。


「ここが吉田さんたちが事件当日に飲んでいたお店なんですね」


「ああ。実は、俺の知ってる店でな」


「え、そうだったんですか!」


「なるほど、小林係長ごちそうさまです!」


「何がなるほどだ」


 などと話していると、短髪の筋肉質の店員が注文を取りに来た。


「へい、らっしゃい! 何にしますか……って小林じゃないか。べっぴんさんとイケメン連れてどうした?」


「おう、井上、今日は職場の若手と飲みニケーションだ。とりあえず生ビール3つと枝豆よろしく。あと、適当に料理出してよ。今日は野呂(のろ)ちゃんいる?」


「あいよ、生ビール3つに枝豆ね。あと何品か旨いの持ってくるよ。野呂ちゃんは奥にいるよ。呼ぼうか?」


「ありがとう。店が落ち着いたらよろしく」


「知ってる店ってレベルじゃないような……知り合いなんですか?」


 中村が不思議そうに聞いた。小林が答える。


「ああ、小学校のときの同級生が2人でやってる店でな。味も良いし、時々来てるんだ」


 そう言っている間にビールと枝豆が届き、3人は乾杯した。



† † †



「ぷはー、旨い! すみません、生ひとつ! 今日話を聞いた高柳さん、ほんと話好きでしたよね。すぐに機密漏洩しちゃいそうな人でしたね」


 中村は一気に飲み干したジョッキをテーブルに置き、おかわりを注文すると、周りの客を気にしながら小声で話した。明智が笑いながら(うなず)く。


「確かにそうですよね。でも、おかげで色々聞くことができました。事件当日の飲み会には、吉田さん、高柳さん、門野(かどの)さんの他に、誰かがいた……」


 そう言って明智がビールを一口飲んだ。小林が運ばれてきた料理を受け取りながら、続いて話した。


「ほらよ、サラダに刺し身の盛り合わせ、鶏の唐揚げだ。確かに誰かいたのは間違いなさそうだな。何故隠す必要があるのか……あと『イン』とか言ってたが何だろうな」


「謎ですね。何かの隠語でしょうか。でも『ビーシー』は何か分かって良かったですね」


 小皿にサラダを取り分けながら明智が答えた。


「NBCだっけ? あれ結局何なんだ?」


「ネットで調べたところ、Nuclear・Biological・Chemicalの略で、核・生物・化学兵器のことのようです」


「物騒な内容だなあ。そうすると、吉田さんはNBCの関係で何か頑張っていて、施設企画課だっけ? そこの春木とかいう奴と喧嘩した後に急な異動が決まったってことか」


「そして、吉田さんの仕事は、施設企画課から異動してきた春木企画官が担当することになった……何かありそうですね。それに僕、春木という人が嫌いです。まるで犯人が捕まって欲しくないような態度でしたし」


「明智キュンが嫌いなら、私もキライ!」


 明智は酔ってきたのか、珍しく人の悪口を言った。中村も酔っているようだが、いつもどおりか。ちょうどそのとき、ねじり鉢巻をした細身の男性が店の奥から出てきた。


「小林くん久しぶり! 元気そうだね」


「おお、野呂ちゃん! 忙しいところすまん。ちょっとお願いがあって」


「小林くんの頼みなら何でもOKだよ」


 小林が野呂ちゃんと呼んだ男性は、笑顔でそう答えた。小林が話を続ける。


「実は、ある事件の捜査をしてるんだが、今年の3月23日にこの店を利用した客の足取りを追ってるんだ。もしまだ防犯カメラのデータが残っていたら見せてくれないかな?」


「うん、いいよ、ぼくは心配性だから、データは1年以上保存してるし。今から見るかい?」


「さすが野呂ちゃん! ありがとう!」


 小林は喜びのあまり立ち上がった。刺し身を食べていた明智と唐揚げにかぶりついていた中村が顔を見合わせた。

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