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14 防衛省にて②

「あ、失礼、失礼、どうも私は話が脱線してしまう癖がありまして……まあそんなバタバタの状況だったんですが、係で送別会を兼ねて飲みに行こうという話になりまして、吉田部員も快諾してくれました」


 門野(かどの)の指摘を受けて、高柳が話を変えた。小林は内心舌打ちしつつ質問を続けた。


「それで、赤羽の居酒屋に行かれたのですね」


「ええ、私は埼玉の川口に住んでいるんですが、よく赤羽で飲んでまして。吉田部員も赤羽に住んでいたこともあり、私の行きつけの店で飲むことにしたんですよ。魚と日本酒が美味しい『ノロちゃん』っていう店でしてね。定時では退庁できなかったんで、確か8時頃から飲み始めたと思います」


「何人で行かれたのですか?」


「ええっと、吉田部員と私と門野と、あと『イン』の……」


「高柳さん、我々3人でしたよ」


 門野がまた面倒くさそうに指摘した。高柳が慌てて訂正する。


「あ、ああ、すみません。勘違いしてました。3人でしたね。それで12時頃まで飲んで、店の前で解散しました」


 中村が怪訝(けげん)な顔をした。小林は話を続けた。


「吉田さんの様子はいかがでしたか」


「いつもより飲んでいましたが、足取りはしっかりしてましたね」


「やはり飲み会では仕事の話中心ですか? 私も飲みに行くと上司の愚痴ばかりで」


「ははは、どこも一緒ですね。我々も同じもんです。施設企画課やうちの課の上司の悪口ばかりですよ。あ、吉田部員は別ですよ。あの人は本当に防衛省を良くしたいと頑張っていた。なんとか吉田部員がうちの課にいる間に道筋をつけたかったんですがね」


「確か『ビーシー』でしたっけ?」


 小林が鎌を掛けた。高柳が驚く。


「『NBC』ですか? よくご存じですね! ほんと施設企画課の事なかれ主義は困ったものでして。怠慢ですよ、あれは。それを打破しようと吉田部員は……」


「高柳さん!」


 門野が大きな声を上げた。高柳がハッとした顔をして、小林たちに謝った。


「すみません、危うく懲戒処分になるところでした。今の話は忘れてください」


 小林が笑いながら(うなず)いた。話を変える。


「門野さんもお住まいは赤羽なんですか?」


「いえ、私は十条の公務員宿舎です」


「ああ、赤羽からすぐ近くですね。私、以前、十条を管轄する王子北警察署にもいたことがありまして……東京は長いのですか」


「昨年4月に仙台からこちらに異動してきました」


 小林の質問に、門野は最低限しか話さない。それを気にしてか、高柳が話し始めた。


「門野はシティボーイでしてね。東京が好きなんですよ。私なんかは、むしろ早く地方に異動したいんですがね、もう3年目ですよ」


「吉田さんは、今の部署は長かったのですか」


「私の前任として専門官を2年されてましたので、まる4年というところですね。異例の長さですね。余人をもって代えがたいというやつでしょうか。ほんと、交通事故に遭うなんて残念です」



† † †



 話が終わり、小林たちが会議室から出ると、廊下に50代位の長身の男性が立っていた。やや薄くなった頭頂部を隠すようにセットした髪型に、鋭い目つきで神経質そうな顔立ちだ。3人の後から廊下に出てきた高柳が男性を見て、少し驚いた表情で話し始めた。


「あれ? 企画官、どうしてこちらに?」


「長引いているので、何かあったかと思ってね」


「ちょうど今終わったところです。こちらが

赤羽南警察署の皆様さんです」


「ああ、施設技術課で企画官をしている春木(はるき)です。本日はご苦労様です。()き逃げ犯は捕まりそうですか?」


「はい、必ず」


 明智が即答した。


「そうですか。それでは失礼」


 そう言うと、春木はフンと鼻で(わら)い、(きびす)を返し廊下を歩いて行った。門野が後ろをついていく。

 残った高柳が小さい声で小林に耳打ちした。


「春木企画官はこの4月に着任したんですが、直前までは施設企画課の専任部員をしていまして。ほら、さっきの話に出た人ですよ。吉田部員の後任が来るまで、部員の仕事も兼務してるんです。吉田部員と同期で、昔はいい人だったんですがね、最近は見てのとおり神経質でしてね。困っちゃいますよ。はは、それではまた。何かあれば遠慮なくご連絡ください」


 そう言うと、高柳は小走りで去っていった。



† † †



 小林たち3人は、D棟のホールを出た。階段前の広場が夕日に照らされている。


「帰りは警備員に指差し確認されませんでしたね。指差し返そうと思ってたのに」


「入館時だけなのでしょうか」


 などと雑談している中村と明智に、小林が声をかけた。


「2人とも今晩空いてる? 飲みに行かない?」

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