13 防衛省にて①
「ついに防衛省に来ましたー!」
市ヶ谷の防衛省正門前で、中村がスマホ片手に自撮りした。警備員が変な目でこっちを見ている。
小林は慌てて明智と一緒に中村の自撮りをやめさせると、3人で正門に向かい、入館手続を行った。
入館証が付いたストラップを首に掛け、入館証をセキュリティゲートにかざして正門をくぐると、小林は正面左のエスカレータを昇った。中村は明智を連れて正面の階段を駆け上がっていった。元気なことだ。
小林がエスカレータを昇り切ると、正面の広場で儀仗隊が訓練をしていた。先に上がって待っていた明智たちに誘導され、正面右手のD棟に向かった。
D棟に入ると、ホールで警備員が一人一人の身分証を指差し確認していた。さすが防衛省、警備がしっかりしている。ホールのエレベータに乗り、指定されていた会議室に到着した。
† † †
会議室の中を覗くと、すでに高柳専門官と門野主任が待っていた。2人とも身分証が付いたストラップを首に掛けている。
高柳は、40代後半位、ふくよかな体型にウェーブがかった髪型、彫りの深い顔立ちだ。門野は、20代後半位、細身でやや長めのストレートの髪型。やや面長で切れ目の顔立ちだ。
名刺交換を行ったあと、小林たち3人と高柳・門野は、ロの字に設置された長机に向かい合って座った。3人の真ん中に座った小林が話を始めた。
「本日はご多忙のところお時間を頂き誠にありがとうございます。吉田さんの轢き逃げ事件については、事件発生から半年が経った今も検挙に至っていない状況です。改めて一から証拠等を精査しておりまして、その一環で、今日は吉田さんの当日の状況や仕事場での状況について色々とお聞きできればと考えております」
高柳が笑顔で答えた。
「こちらこそ、わざわざ市ヶ谷までお越しいただき恐縮です。吉田部員の件、我々も心配していたところです。吉田部員には本当にお世話になりました。何でも聞いてください! な、門野」
「え、ええ……」
高柳が頭を下げた後で横を向くと、門野が慌てて頷いた。小林が続ける。
「ありがとうございます。ところで、吉田さんは、高柳さんや門野さんと同じ施設技術課の防護設備係だとお聞きしておりますが、どういったお仕事をされていらっしゃるのですか?」
高柳が人懐っこい声で答える。
「防護設備係は、主に自衛隊施設の防護設備の設計基準を定めたり、設計や施工の指導・助言をしたりしています。例えば、敵から攻撃されたときにも施設を継続して使えるよう、どのような防護措置を施すべきかの基準を策定したり、防護措置の設計・施工に関する地方部局からの問い合わせに回答したりしているという感じですね」
「難しいそうなお仕事ですね。吉田さんも同じお仕事をしていらっしゃったんですか?」
「そうですね。吉田部員は、我々防護設備係ともうひとつの係を所掌していましたが、どちらかというと防護設備係の業務が中心で、もうひとつの係の業務については主に担当係長と企画官のラインで仕事をしているという感じでしたね」
「なるほど。やはりかなりお忙しいのですか?」
「まあ、そうですね。ただ、本省はどこも同じようなもんですよ」
高柳が苦笑しながら答えた。小林が続けて質問する。
「吉田さんは4月異動が決まっていたとお聞きしましたが、それもあって更に忙しかったという感じでしょうか?」
「ああ、そうですね。近畿中部防衛局への異動が決まっていました。異動前はどうしても引き継ぎなどで忙しいですし、ましてあの時は急な異動でしたからね」
「急だったのですか?」
すかさず小林が聞いた。高柳は気にせず答える。
「そうなんですよ。急な追加の異動内示があったのでビックリしました。ちょうど吉田部員が施設企画課の春木専任部員と喧嘩した後でしたので、こちらも一体どうしたものかと……」
「高柳さん、話が脱線してますよ」
門野が面倒くさそうに指摘した。




