11 京都にて②
「すみません、確認不足でした。こちらで改めて探してみます。ご心配をおかけして申し訳ありません」
携帯電話が幸子のところに戻ってないと聞いて、小林がとりなした。
そのとき、廊下から白髪の老女がゆっくりとした足取りで部屋に入ってきた。幸子が驚く。
「お義母さん、大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。せっかく東京からお巡りさんが来はったんやし、挨拶くらいせなな」
そういうと、吉田の母は正座して深々と頭を下げた。それを見た小林たちは、慌てて吉田の母の前に出て、正座して頭を下げた。
吉田の母が顔を上げた。
「お巡りさん、どうか息子の無念を晴らしてやってください。息子は、学は、あんなしょうもない死に方する子やない。きっと何かあったんや。どうか、どうか……」
そう言うと、吉田の母は涙を流しながら頭を下げた。それを見た明智が前に出て、吉田の母の手をとった。
「お母様、どうか顔を上げてください。しんどい思いをさせてしまってすみません。僕たちが必ず真相を明らかにします」
明智は目に涙を浮かべていた。優しく落ち着いた話し方だったが、その内に秘められた強い決意を小林は感じた。捜査で「必ず」はタブーだ。だが、明智なら、この事件を必ず解決する。何故か小林はそう思わずにいられなかった。
「お願いします、お願いします……」
吉田の母と幸子が、何度も何度も頭を下げた。
† † †
「必ず被疑者を見つけ出さないとな」
帰り道、百万遍のバス停で小林が明智に話しかけた。明智が静かに頷く。
「はい、必ず」
「家族や友人関係はなさそうだし、次は職場関係を当たってみるか」
「そうですね。あと、スマホが行方不明なのが気になりますね」
「ああ、単にうちの署の管理が雑なだけかもしれんが。明日、当時の担当者に聞いてみるか」
「ところで、明智殿は実家に顔を出さなくていいんですか?」
中村がバス停近くの店で買った金平糖をポリポリ食べながら、明智に尋ねた。
「はい、昨晩じいやに聞いたら、両親は今日不在ということでしたので」
「じいや?!」
小林と中村が口をそろえて聞き返した。明智が慌てて弁解する。
「え? あ、違うんです! 僕が小さい頃から家の管理や身の回りの世話をしてくれてる人がいまして、たまたま僕がその人を『じいや』と呼んでるだけでして……」
京都駅行きのバスが到着した。
「いや、それは正真正銘の『じいや』だな」
「『じいや』って現実に存在するんだ……」
そう言いながら、小林と中村がバスに乗り込んだ。
「ち、違うんですって! ちょっと聞いてください!」
明智が追いかけるようにバスに乗り込んだ。




