道中で
知らない人と道中でいっしょなのは気まずくて仕方ないです。
き、気まずい…。
長髪のお兄さんについて歩くこと数分。
お兄さんは部屋を出てからずっと無言だし、すれ違う人皆私を見て驚き、その後お兄さんを見て二度驚くから更に居心地が悪い。それも、一人二人ではなく皆が驚く。
お兄さんはそれに気づいている筈なのに気にすることなくずんずんと進んでいく。せめて会話をしたいが、さっきの場面を見た者としては話しかけにくい。
そんな気まずい空気の中、救世主が現れた。
「おーセルファス、お前どうしたんだ?皆が怖がっているぞ。」
男はこわいこわいと言いながらお兄さん改めセルファスさんに話しかけた。
体格が良く、背も高い男は、一見すると怖そうだが、たれ目なせいか相手に優しげな印象を与えている。
チャラそうな人だな__外見で人を判断しちゃだめだよ__とそう考えていたら、こちらに気づいたのか、目があった。軽く会釈をすると、「こんちはー」と返して、セルファスさんに視線を戻す。
「この女どうしたんだよ。珍しいな、お前がここに女を連れ込むなんて。美人だけど冷徹、とか女嫌い、とか言われてきたお前に、遂に奥さんでも出来たのか?」
「ふざけるな。お前じゃあるまいし……。」
セルファスさんはチャラ男を睨みながら剣に手を伸ばす。さっきも思ったけど、セルファスさんって見た目によらず手が早いな。
「おいおい、待てって。いくらなんでも手が早すぎないかっていうか俺も女を連れ込んだ事なんてないし」
チャラ男は両手を挙げて降参ポーズをしながら、苦笑ぎみに答える。
「じゃあ誰なんだ、この女は。ここは女が入れるような場所じゃないだろう?」
探るような目付きでこちらを見てくるが、私、何も悪いことしてない。
「巻き込まれたのはこっちだよ!」と言ってやりたい。
セルファスさんは一瞬考えるような素振りを見せ、周りに誰もいない事を確認してから…「ルースが誘拐して襲った女性です」と言った。
____いくらなんでもそれは簡潔過ぎやしないか?
味方をするつもりはないが、これだけだと悪質なストーカーに思えてくる。少し可哀想だ。
全然間違っていないけども!
「へえぇそっ__は!?」
チャラ男は驚きすぎてか、ものすごいアホ面をしている。目を見開き、ポカンとした顔はたぬきみたいで結構面白い。
「え、そんな、嘘だろ?は、さすがのルースもそんなことするわけないだろ!」
チャラ男は、マジかよ…と何かをぶつぶつ呟いている。
「この件を解決しなければならないので、あなたも一緒に来てください」
セルファスさんはキラキラとした笑顔でチャラ男に畳み掛ける。なるほど。チャラ男にわざわざ事情を話したのはそれが理由だったか。セルファスさん、やはりただ者ではない。
チャラ男は、チッと舌打ちをして悔しそうな、嫌そうな、でもどこか興味津々な顔をした。
なかなか器用なものだなぁ、このチャラ男。そして、こいつも偉い奴っぽいね。
「あー分かったよ。お前に嵌められた事は悔しいが、事情は気になるしよ。どうせ今は暇してた。手伝うよ」
「では、今からついてきてください。奥の会議室でこれからどうするか話した後、あの方のもとへ行きますので」
セルファスさんは断られるとも思っていなかったのか、当たり前のように話を進めていく。
そしてまた出てきた「あの方」という言葉。色々な決定権を持ち、偉そうなセルファスさんよりも偉い人。果たしてどんな人なのだろうか。
私は貴族だった頃、まだ社交界に出ていなかったから、貴族の知り合いも少ない。だけど、名前を聞けたら、何かわかるかもしれない。三人でまた移動し始めてから、私は二人に聞いてみることにした。
「あの、少しお聞きしたいんですけど…「あの方」とは誰でしょうか?」
出来れば教えてください…と、私が言うと、二人は不思議そうな顔をしていたけど、一応答えてくれた。
「あの方__ユーリス・ディ・ゼフィラス様は私たちの上司でここで一番偉い人ですよ」
ユーリス・ディ・ゼフィラス。聞き覚えのない名だ。だけど「ディ」があるから侯爵であることは間違いない。うーん。ゼフィラスってどこかで聞いたことがあるような……。
「そうだ。ユーリス様にはルースも含め、誰も頭が上がらないんだよなぁ」
「カイト、余計なことを言わないでください。貴方にそれを始めに聞かれるとは思いませんでした。てっきりどうやったら帰れるのか、などかと」
「それもすごく気になっていますが、会話に何度も出てきていたので気になってしまい……。」
「いえ大丈夫ですよ。丁度部屋にも着きましたし、色々と聞きたいことは、こちらで話しましょう」
私達は行き止まりのところで立ち止まり、セルファスさんがガチャリと音を立てて扉を開いた。
主人公は、「あの方」のことが引っかかってます…。