ここはどこだ?
喧嘩している人に話しかけるのは勇気がいる。
飛び交っていた声がピタリとやむ。
長髪のお兄さんはものすごーくいい笑顔でこちらを見た。
「ここへはどうやって来られたのですか?」
怒りを押さえてるのは伝わってくるが、こめかみがピクピクしている。わー怒ってるなー。
「えっと…近衛兵の方に馬で連れて来られました。ここら辺の地理には詳しくなくて、ここがどこだか……。」
「ははは。こいつは誘拐もしていたんですね。職権濫用してまで……。教えていただきありがとうございます」
うわ、真顔になった。
実は、ルース、先程からお兄さんに近づこうとしている。だけど、お兄さんに剣を向けられ、動けずにいた。
そのまま膠着状態だったのだが、私にお礼を言った後、お兄さんがルースに向かって剣を振り下ろした。
剣はヒュンッと音を立てて振り下ろされる。私に剣術は分からないが、お兄さんは素人目に見ても強そうだ。
ルースはギリギリで避ける。
うわ、あっぶな。
「残念。ほんと虫はすばしっこいですよね。退治するのが大変です」
お兄さんはやれやれといった感じで首をふる。
だからっ、目が怖いって!
「はあ!?あぶねーだろ!部屋で剣を振り回すな!言っとくが、これは職権濫用じゃねーぞ!というか襲ってもねーからな!その女が突然叫び出しただけで…」
「はぁ。言い訳は見苦しいだけですよ。誘拐までとなると計画的犯行ですね。気づかなかったのが申し訳ない」
お兄さんはもう一度剣を振り下ろす。ルースはまた避ける。
予備動作が全く無いからいつくるかわからないのに、ルースは何で避けれるのだろうか。
お兄さんは、「はぁあ」と大きなため息をついて剣を鞘にしまった。ルースの顔に喜色が浮かぶ。
「やっと話を聞いてくれる気になったか。これ…「貴方を放っておいてしまい申し訳ございません。こんなクズに襲われて怖かったですよね。慰謝料はこいつがいくらでもお支払します。望まれるなら刑務所にぶちこんできますが…。どうされますか?あ、ここはフィエスというところです。あなたの事はこちらが責任もってどうにかいたしますので、ご安心ください」
そっか。ここはフィエスというところなのか…。私の質問は忘れられてるのかと思ったが、覚えていたようだ。
彼は、ルースが話し出したのを無視して、口元に笑みを浮かべ私に話しかけてきた。
そして、早口でそう言った後、もう一度ルースに向き合って、
「この事はあの方にす、べ、て、伝えておきますね」
そう吐き捨てたあと、踵を返して扉に向かい、「私についてきてください」とこちらを見て言った後、部屋を出ていった。
私は呆然としているルースを見て一瞬躊躇したが、置いていかれるのも困るのでお兄さんについて部屋を出る。
数十秒後、どこからか、「え、あ、ちょ、ちょっと待てぇぇえ!」という泣きそうな叫び声が聞こえた。
普段温厚で、ニコニコ笑いながらキレてる人が、一番怖い。