侯爵閣下の父
私の父親は家でも先生でした。愛情を感じたことがなかったです。家でも、職業に囚われる人って子供からすると、愛情を感じないんですよね。気をつけないと。
あと一時間もしないうちに王城へ着くという距離まで来たとき、ずっと無言だったユリーが___三日間、馬車の中でお互い無言だった___話しかけてきた。
まさか話しかけられるとは思わず、つい聞き返してしまったほどだ。
「エリー。侯爵閣下と会う?」
「!?ええっと…。もう一回言ってもらってもいい?」
「エリー。侯爵閣下と会う?」
ユリーは一言一句違わずに返してくれた。
「侯爵閣下って私の父のこと?」
今度は信じがたくて聞いてしまった。
「それ以外誰がいるの?まあ会いたい人がいるなら、言ってくれれば会わせられるけど…。」
「いや、居ないからいいよ。でもそっか……。」
私はそこで押し黙ってしまった。だって、ねえ……?
「私は家出したのよ。閣下が会わないでしょう?」
あの人なら私が死のうが生きようが気にしないだろう。
私と会うことすら嫌がりそうだ。
「流石に肉親だから立ち会いも可能だよ。」
ユリーは何の、とは言わなかったけど、それがイケニエにされるときのことだとは分かっていた。
どうしよう…。
「会わなくていいわ。今さら迷惑もかけたくないからね。」
私が苦笑ぎみに答えると、ユリーは驚いた顔をした。
___そういえば彼女は幼い頃のことしか知らなかったなぁ……。
家出した理由の一つは社交界で話題になっていたから、彼女も知っていたのだろう。
それだけだと思われていたのか、ユリーは家出のことに一切触れてこなかったので、説明を忘れていた。
納得はしたが、説明は難しいので省かしていただこう。
「本当にいいの…?」
彼女はおずおずと再度尋ねてきたが、私はしっかりと頷いた。
「うん。」
それだけでよかった。それ以上は本当に何もないから。
話題をそらすためにも、この際にずっと気になっていたことを聞くことにした。
「そんなことより、災厄がどんなものなのか教えてくれない?ずっと気になっているのよ。」
そう聞くと、ユリーは納得がいかないような顔をして訴えていたが、ついに諦めて話し出した。それは私の想像を覆すものだった。
「そこら辺は城でまとめて説明するつもりだったけど…。まあいいか。災厄はね、城に居るんだ。いや、どちらかと言えば、城自体が封印しているものと例えた方が正しいかもしれない。とにかく、実体のないものだから、誰も姿を見たことはないんだ。」
「!?姿を…、見たことが、ない?」
絵本に出てくるような怪物を想像していた…。
そして、ユリーは絵本の中のお姫様の役割をこなしているのだと思っていた。
どうやら違ったようだが、それなら疑問が生まれる。
「じゃあユリーはどうやって災厄に特殊魔法をかけているの?」
三日前、ユリーが災厄を押さえていると言っていたはずだ。
見えないものなのに、どうやっているのだろう?
またエリーの父親視点も出します。




