物騒な場所
知らない場所、人、ものは、全て物騒です。
このお菓子美味しいなぁ…。
外はカリッとしていて中はしっとりとしている。正直に言って、最高だ。美味しすぎて手が止まらない。
さて、これはどういう状況なのだろうか。私は今、何故かお菓子を食べている。
え、私、近衛兵に連行されてきたはずだよね?何なんだ、こののほほんとした空気は。
私はこの部屋に放り込まれてから、部屋の主人に座るように言われ、お菓子を勧められた。私は困惑した表情で後ろを振り返ったが、そこにはもう近衛兵士はおらず、扉も閉められていたのだ。
混乱する頭を使うためにもお菓子を食べながら、この状況の原因となった目の前でくつろいでいる男にちらりと視線を向ける。その男は大きな椅子にあぐらをかいて座りながら、ふわぁあと大きなあくびをしていた。
きれいな服を着ているが、そのわりにはなんというか、粗雑な所作をする男だ。きれいな服を着ていなければ、荒くれものに見えるかもしれないほど、良く言えば庶民的、悪く言えば、態度が悪い男だった。
ジーっと眺めすぎたのか、バチっと目が合う。
「んーどうした?お菓子が美味しくなかったか?」
「いや、どれもとても美味しいです。ってそんなことどうでも良くて、何で私をここに連れてきたんですか」
的はずれな問いかけについに聞いてしまった。まあいいか。このままだと埒があかないし。
男はうーんとうなり声を上げて腕を組む。そんなに言いにくいことなのかと思い、聞くことにためらいを覚える。
嫌な予感がするなぁ。でも聞かないと帰れないし……。
よし、女は度胸だ。
身構えた私に男はついに口を開いた。
「お前にはここで死んでもらう」
…………え。
真面目くさった顔をした男と見つめ合うこと数秒。突然の事過ぎて頭がフリーズしている。言葉を何度も何度も噛み砕いて消化していく。そして理解する。
「キャァー衛兵さーん助けてくださーい」
「はぁ!?ちょ、おい。やめろ。いきなりどうした」
「いきなりどうしたはこちらの台詞ですよ。殺人犯。衛兵さーん早く来てぇー」
外からドタドタと足音が聞こえ始める。その音はどんどん大きくなっていき、バタンッと大きな音をたてて扉が開いた。
「何事ですか!?」
入ってきたのは緑色の長髪の男だった。その人は片手に剣をもって、はぁはぁと息をきらしている。だが、衛兵の制服を着ていないので、一般人だということがわかる。
「助けてください。この人に襲われたんです」
私は入ってきた男に近寄ってすがりつき、涙目になって必死に訴える。こういうときは、「殺されそう」よりも「襲われた」といった方が良い。そっちの方が現実味もあって信じられるからね。
あながち嘘でもないし?悪いけど、死にたくないもん。
「ルース!あなたはなんて事を…っ。か弱い婦女子に何してるんですか?!」
あれれ…もしかして知り合い?あ、これはちょっとやばいかも。
「いやいやいやいや、そんなことしてねーし!」
「現にこの女性はこんなに怖がってるじゃないですか!」
「そいつが勝手にそういっただけだ!俺はやってねぇ」
「こんな決定的な状況を見られて、まだ言い訳するんですか……。見損ないましたよ」
どんどん会話が進んでいく。長髪のお兄さん、目ががちです。怖いです。ひえぇぇっ!
ほんと虫けらでも見ているような目付きで殺人犯改めルースを見ている。
家名を聞かない限りはっきりとはしないが、高位貴族にルースという名はいなかったはずだ。でも、近衛兵を使えるということは、軍の高官であるということだ。
軍の高官は基本高位貴族から選ばれるが…。
じゃなければものすごい功績を残したとか…?
いや、そんな人物は国中で有名になっているはずだ。ルースは一体誰なのだろうか。
気にはなるが、まずは……、
「あのぉ…、ここは一体どこですか?」
そうです、分からない場所って物騒に思えますよね。
そして、室内で剣を振り回してはいけません。