537.野生の使徒が現れた! part2
537.野生の使徒が現れた! part2
『何故こんな形で使徒だと打ち明けたのかを説明します。実は………………』
どれだけ言っても、決して椅子に座ろうとしない2人へ、今回の顛末を説明していった。
『………………と言う訳なんです。使徒である事が ここアルジャナで、どれほど重みを持つのかを確かめるために、お二人で試させてもらいました。いきなり何の関係も無いアナタ方へ、このような無礼を働き、誠に申し訳ありません』
思ってもみなかった言葉だったのだろう。深く頭を下げるオレを見て、2人は唖然とした顔で呆けている。
少しの時間が経ち、2人が少し落ち着いた様子を見せたので、改めて話し合いの席へ促した。
『今の話を聞いて分かったと思いますが、今回の件はアナタ方の落ち度だけではありません。ですので、どうか同じテーブルに着いては頂けませんか?』
『わ、分かりました……使徒様がおっしゃるのであれば……』『わ、我々で試した……のでありますか』
2人は少しの怯えを含みつつ、何とか席に着いてくれたのである。
『今回の経緯については先ほど話した通りです。私達は手持ちのミスリルを売って、アルジャナでの活動資金を得ようとしていたのです』
『そ、そうでしたか……使徒様が使命を果たすのを邪魔するなど……誠に申し訳ありませんでした。改めてお詫びいたします』
『もう何度も謝罪は頂きました。私は謝罪を受け入れますので、これ以上は結構です』
『寛大な処置、誠にありがとうございます……』
ゴースと隊長は席に着いたまま、深々と頭を下げたのを最後に、今回の件は水に流す事となった。
そこからは使徒がどんな使命を負っているかを話していく。
『そうですか……世界の半分のマナスポットが汚染されたのですか……我等、ドワーフに伝わる伝承通りです』
『我等、魔族にも同じ伝承が伝わっています……』
ドワーフであるゴースと魔族である隊長には、種族が違っても同じ伝承が伝わっているようだ。
そして話が一段落した所で、ゴースは躊躇いがちに口を開いた。
『使徒様の使命は分かりました。しかしミスリルの件はどうなさるおつもりですか? 私が言うのも憚られますが、ミスリルの売却は終わっていないのでは?』
『そうですね。売れたのは手持ちの2/3と言った所ですか……でも当面の資金には問題ありませんので、このまま旅を続けようと思います』
ゴースは隊長と顔を見合わせ、お互いにアイコンタクトを交わしている……オッサン同士で見つめ合うとか……無いわ。
『使徒様……僭越ではありますが申し上げます。その売れ残ったミスリル、私共に売っては頂けませんか? 勿論、使命を邪魔したお詫びも兼ねて、色は付けさせて頂きます。如何でしょうか?』
ミスリルを売る……確かに手元には、わざわざ鋳潰したミスリルがあるのだ。この機会に売って、纏まったお金にした方が助かるのは事実。
問題は、隣でカズイさんから同時通訳してもらっている御仁がどう言うか……何か、足元を見て、思いっきりボッタクリそうな気がするんですが……
しかし元々は母さんのヘソクリであるし、オレが勝手に出来るなどあるはずも無い。
「母様、カズイさんから聞きましたか?」
「ええ。残りのミスリルを売れって言ってるのよね?」
「うーん……その言い方だと語弊があるような……要はお詫びも兼ねて買い取りたいそうです」
「言ってる事は一緒じゃない。当面の資金には問題ないとしても、折角 鋳潰したんだから売っ払っちゃった方が良いわよね……」
少し悩んだ後 母さんは、悪い顔でこう告げた。
「アル、決めたわ。残りのミスリルは、コイツ等に売っちゃいましょ。お詫びも兼ねるって言うなら、きっとビックリするような金額を提示してくれるはずよ。楽しみね」
それはそれで、どうなんだと……今回の件は、こっちが嵌めた所も大きいわけで……これでふんだくったりしたら、後の世で強欲使徒やら拝金使徒なんて呼ばれるんじゃ?
しかし、あのミスリルは母さんの物であり……オレに出来る事など無かったのである。
◇◇◇
『使徒様、色々とご苦労かけて申し訳ありませんでした。アナタ様の活躍を心よりお祈りしております』
こう話すのは、この領の領主であるゴースだ。やはりこのオッサンは最初の偉そうな態度通り、この街の領主だった。
話が丸く収まった後、細かい事を聞かれたが、「今は名と身分を明かすわけにはいきません。事情を察して頂ければ……」と、全てを誤魔化して強引に切り上げてある。
何故、身分を隠すのか……これについては、母さん、カズイと相談して決めたのだが、オレの事を話そうとすれば、当然 フォスタークや使徒が建国した4つの国の件を話さなくてはならない。
それを知ってアルジャナと言う国がどう動くのか……これについてはエル、父さん、祖父さんと相談して決める事にした。
『ゴース殿、いきなり現れた私達へ格別の配慮を頂き感謝します。何時とは言えませんが、私の身分を明かす機会もあるでしょう。全ての条件が整った暁には改めて伺います。勝手を言って申し訳ありません』
『あ、頭を上げてください。使徒様ともなれば、秘密の1つや2つお持ちなのは当然です。そんな中、話せる事だけでも教えて頂けるのは非常に助かりました。現にマナスポットに主、世界の危機について教えて頂けたではありませんか。この件は「領主会」で議題に上げさせていただきます』
領主会……今回、ゴースから聞いた話では、このアルジャナと言う国は各街に領主が1人存在し、4年に1度 全領主が集まって、そこで決めた代表が国を運営していると言う。
街の数は32あり、32人の領主がいるのだとか。
どうやら、ここアルジャナは連邦制に近い政治体勢のようだ。
通信技術が拙いためだろう。国全体で緩く法の網を張り、各領主がその土地に合った自治を行っている。
まるで民主主義の卵のような形だ……流石は憎しみを克服できた者達の国だと、感心させられてしまった。
『使徒の件は話して頂いても構いません。ただ詮索はしないでください』
『分かりました。このゴース、始祖ドンゴ様に誓って詮索は致しません。その事も「領主会」へ伝えておきます』
『ありがとうございます』
ゴースと話していると、退屈だったのだろう。母さんが露骨に不機嫌な様子で口を開く。
「アル、いつまで話してるのよ。もうお金はもらったんだし、サッサと行くわよ。これ重いんだから」
母さんは、パンパンになった財布を重そうに持ち、ご機嫌斜めの様子だ。
「じゃあ、これ持って。アンタの方が身体強化は上手いんだから軽いもんでしょ」
「え?、これ全部、僕が運ぶんですか?」
「当たり前じゃない。それとも何? アンタは年老いて、か弱い母親に荷物を持たせるつもりなの?」
この野郎……普段は歳の話をすれば烈火の如く怒るのに、こんな時だけ……そんなオレと母さんの会話を、言葉が分からないなりにもゴースと隊長が驚いた顔で見つめている。
くっ……これ以上はダメだ。将来、マザコンの始祖と呼ばれてしまう。直ぐにでも、この場を離れなければ!
『ご、ゴース殿、私達は行きます。お世話になりました! では!』
結局、オレは逃げるようにゴースと隊長の下を去ったのであった。
◇◇◇
「アル、アルジャナの旅、全然進まないじゃない! どうなってるのよ!」
「いや、でも……こんなお金持って旅なんて出来ませんよ。一度、ブルーリングへ帰って置いてこないと……」
「もぅ、上手くいかないわね」
実はゴースと別れてから、イリル近郊のマナスポットへ向かって歩いている。
何故? それは母さんとの会話にあったように、オレ達の手元には7億円相当の金があるためだ。
こんな金額を持って無くそうものなら……いやいや、それ以前にこれだけの金……重くて仕方がない。一体、何キロあるんだろう。
あまり高価な貨幣では普段使いに困る事から、10万円の価値である小金貨を多目にしてもらったのがマズかったらしい。
体感で100キロ以上あるんじゃないか? そりゃ母さんも、文句を言うわ!
そもそも日本でも、1億の紙幣で10kg近くあるって聞いた事がある。それが7億円近くの硬貨となれば、この重量にも納得だ。むしろ軽い気がする。
結局、マナスポットまでの5日間、身体強化が一番上手いオレが1人で運んだのであった。
◇◇◇
「ただいまー」
「おかえりなさい、アルド君」
ブルーリングに飛んだ後、母さんの部屋へヘソクリを運んでから、真っ直ぐに自宅へ帰ってきた。
「あれ? ライラだけか? アシェラとオリビアは?」
「アシェラはシャロンと一緒に演習場で修行してる。オリビアはサンドラ卿にレオンを見せに行った」
「サンドラ卿って事は王都か?」
「うん。ブルーリング邸へサンドラ卿に来てもらって、そこでレオンを見せてる」
「そうなのか。どうせならブルーリング領へ飛んでもらえば良かったのに……」
「少しでも王国へ見つかるリスクを減らしたいってオリビアが言ってた。アルド君の邪魔だけは絶対にしたくないみたい」
「そうか……で、アシェラはシャロンと修行中と……シャロンはまだ修行なんて出来る歳じゃないだろうに……」
「見るだけでも修行になるって。自分以上の使い手に育てるって意気込んでた」
「アシェラ以上とか……それって地上最強を目指すのと一緒だろ」
「私もそう思う」
何とも言えない空気がこの場には満ちている。きっとライラもオレと同じ気持ちなのだろう。
「じゃあライラは1人で留守番か」
「うん。ジュリはオリビアに、パメラはアシェラに付いて行ったから、私1人」
「じゃあ、アシェラ達が帰るまで、ノンビリ2人で過ごそうか」
「うん! 実はアルド君に聞きたい事があった。同じ形と大きさなら、どんな物質でも同じ速さで落ちるって言うのが理解出来ない。重い方が速く落ちると思う」
「あー、それはだな………………」
ライラに自由落下を説明したのだが、どれだけ言っても納得してくれなかった。
結局、騎士団の倉庫で同じ形で素材が違う剣を探し出し、空間蹴りを使って空から落とす事で、ようやく納得してもらえたのである。
しかしライラは、もう自由落下まで勉強を進めたのか……オレの簡単な走り書きだけで、ここまで科学を理解するとは……「天才」この2文字が浮かんでくる。
ライラなら、いつかはコンデンスレイすら使えるようになるかもしれない。
末恐ろしさを感じながら、ライラと久しぶりに2人だけの時間を楽しんだのであった。




