536.野生の使徒が現れた! part1
536.野生の使徒が現れた! part1
領主館に連れて来られ、見知らぬオッサンと交渉していたのだが、どうやら決裂に終わりそうだ。
『ではお前達は、言い切るつもりなのだな? ゴンタに売ったミスリルは、依頼をこなしてコツコツと買い集めた物であると』
『はい、その通りです。ミスリルは主に母の持ち物ですが、コツコツと集めた物に違いありません』
オッサンは露骨に溜息を吐き、眉間に皺を寄せている。
『あまり手荒な真似はしたく無かったが……お前達がそう言う態度であれば仕方がない。ダギウス、コイツ等を縛り上げて、ミスリルの出所を吐かせろ』
オッサンが声を上げた所、柱の陰や衝立の裏から騎士が現れる。その数10はくだらない。
『ハッ、了解しました。お前達、ゴーズ様が穏便に声をかけてくださっているのに……愚か者が。おい、コイツ等を縛り上げろ』
『ダギウス、コイツ等はファーレーンとの交渉役になるかもしれん。丁重にな。間違っても殺すなよ』
『承知しました。聞こえたな? 丁重に縛り上げて尋問室へ連れていけ』
いきなりだな……そもそも、このオッサンは偉いのか? 「穏便に声をかけてくださっている」って言われても、お前等 名乗ってないじゃん! 誰が誰だか分からねぇよ!
盛大に心の中で突っ込むが、事態が変わるはずも無く……
その間にも、騎士が鞘付きの剣を構えながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。
『コイツ等はオーガの巣を殲滅したと聞いている、武器は取り上げてあるとは言え、手練れには違いない。十分に注意しろ』
『『『ハッ!』』』
ハァ……しょうがない。なるべく怪我をさせないよう、制圧するか。
戦闘へスイッチを入れ、足にチカラを入れた所で、いきなり母さんの声が響く。
「アル、これから私の言う事を訳しなさい。今度こそ一言一句、変えずによ。さっきみたいにオブラートに包んだら承知しないんだから。良いわね?」
いきなり何を……ここまで来て、今更 何を話すと言うのか。
ジリジリと距離を詰める騎士へ意識を割きつつ、母さんの声に集中する。
「アナタ達は、誰に剣を向けているのか本当に分かっているのかしら? そこのドワーフ。アナタの始祖……ドワーフの始祖はドンゴって名前のはずよね。私達はそのドンゴと同じ使命を持っているって言ったらどうするつもりなの?」
ちょっ、いきなり何を言い出すんだ、この人は!!
「か、母様、いきなり何を? こんな沢山の人の前で使徒だってバラすつもりなんですか? そんな事をしたら……」
「そんな事をしたら、何? 何か問題でもあるの?」
「え? いや、フォスタークにバレて、独立の件も芋づる式に…………あれ?」
「気が付いた? ここはアルジャナ、どうやってフォスタークにバレるのよ」
「あ、え? でも……」
「アル、良く聞きなさい。これは実験よ。アルジャナにおいて使徒がどういった存在なのか。それと使徒だと告げて、どんな反応をされるのか……敢えて最悪の状況で真実を話す事で、使徒の威光がどれほどの物かが計れるって物よ。この事は、これからの旅でもきっと役に立つわ」
参った……流石は氷結の魔女と恐れられるだけはある。確かに、ここアルジャナであれば使徒の件を隠す必要は無い。
しかも今は、オレ達の名前から素性から一切の情報を明かしていないのだ。
この状況で「使徒」の名がどれほどの威光を示すのか……オッサンには申し訳ないが、確かめておいて損は無い。
「分かりました。母様の案でいきましょう」
「じゃあ、もう一回 言うわよ。アナタ達は、誰に剣を向けているのか本当に分かっているのかしら? そこのドワーフ。アナタの始祖……ドワーフの始祖はドンゴって名前のはずよね。私達はそのドンゴと同じ使命を持っているって言ったらどうするつもりなの?」
少し煽り口調な所は、修正しながら母さんの言葉を訳していく。
『剣を収めてください。ゴース殿……でよろしいですよね? 私達はある使命を帯びてこの地へやってきたました。その使命とは、アナタの始祖であるドンゴ様と同じ……この世界を守る事です』
敢えてこの中で一番偉いと思われる、ゴースへ向かって呼びかけた。
『は? ドンゴ様と同じ使命だと? お前は自分が何を言ってるのか分かっているのか? 例え言い逃れだとしても、ドンゴ様の名を語るなど……ここ多種族国家アルジャナで、始祖様方の名を汚すのは最大のタブーなのを知らぬわけではあるまい! 所詮は始祖様を持たぬ原始的な種族か……ダギウス、穏便なのは止めだ。やはり人族とは分かり合えぬらしい……捕らえて然るべき罰を与えろ』
『ハッ、承知しました。お前等、どこまでも愚かな真似を……全員、鞘を捨てろ。抵抗するなら容赦するな。行け!』
騎士達は鞘を投げ捨て、抜き身の剣を向けジリジリとにじり寄ってくる。
「母様、このままじゃ会話も出来ません。先ずは制圧します」
「しょうがないわね。でも殺しちゃダメよ? こんな事で禍根を残すのはバカのやる事なんだから」
「分かってますよ。では行きます!」
先ずは軽くバーニアを吹かし、一番近い騎士の懐へ潜り込んで軽く拳を撃ち込んだ。
騎士は体をくの字にして簡単に意識を無くす。
「1人……」
ハッキリ言って、騎士達の動きではオレを捕らえるのは不可能だ。軽くバーニアを吹かす度、立っている騎士の数は減っていく。
『これで10……残っているのは隊長であるアナタと、ゴース殿だけです。まだやると言うなら付き合いますが、話し合いませんか? 僕達には言葉があるのですから』
息を切らす事も無く告げたのが悪いのか……ゴースと隊長は目を見開いて固まるのみで、オレの言葉に返してくる様子は無い。
「困りましたね……話しかけても反応してくれません」
「そう……もう面倒ね。パパっとアオを呼んで頂戴。その方が話が早いわ」
「え? いきなりですか? もう少し会話した後の方が良いんじゃ?」
「だって会話にならないんでしょ? だったらアオを見せた方が早いじゃない。それとも何? 長々と説明して、納得させるまでアオを呼ばないつもりなの?」
「いえ、そう言うわけじゃないんですが……」
うーん……どうすれば良いんだろ。まぁ、いきなり使徒の件を話すのは初めての試みだし、問題があったら後から考えるか。どうせ身元はバレないんだし。
「分かりました。母様の意見に従います。アオを呼びますね」
「ええ。どうせ見せるんだから、今でも後でも変わらないわよ」
相変わらず氷結さんは適当だ。ただ間違ってるわけじゃないんだよなぁ……適当なだけで!
胸にモニョっとした物を抱えつつ、指輪へ魔力を流しアオを呼び出したのである。
「ん? どうかしたのかい? ここは……アルジャナか」
「アオ、実はアルジャナの領主の1人に、いきなり使徒の件を話したんだ。この地で使徒がどういって扱いになるか試したい。少しだけ付き合ってくれ」
「もぅ、アルドは……僕は忙しいんだよ。わざわざ呼ばなくても、言葉で説明すれば良いじゃ無いか」
「人は嘘を吐くからな。お前の姿を見せないと信じてもらえないんだよ。少しだけだから、な? 頼むって」
「ハァ……本当にアルドは……分かったよ。でもなるべく早くしてよ」
「助かる。ありがとう、アオ」
アオはオレの言葉へ、肩を竦めて返してくる。
さてさて、アオの了承はもらった。後はゴースと隊長が実際に精霊を見て、どういった態度を取ってくるのか……
振り返り2人を見たが……いない。あれ? どこいった?
「アルド……2人なら椅子の後ろで小さくなってるよ」
「え? あ、いた……あんな所で何を……」
2人は椅子の影に隠れて、土下座……いわゆる叩頭礼で頭を床に擦りつけている。
『お二方、頭を上げてください』
なるべく普通に話しかけたつもりだったが、2人は決して頭を上げようとせず、そのままの姿勢で声を上げた。
『も、申し訳ありませんでした! せ、精霊と共にある者……アナタ様が本当に使徒様などと……何卒、寛大な措置をお願いいたしたく……』
『わ、私の首であれば差し上げます! ゴース様は私の言で動かれただけなのです。全ては私の判断ミスが招いた事……責は全て私に御座います!』
おー、やっぱり使徒だってのは、アルジャナでも有効みたいだ。思い返してみれば、ドライアディーネやグレートフェンリルでも使徒の権威は凄まじい物があった。
恐らく人族以外の種族は始祖を深く信仰している事から、他種族の使徒であっても威光がより届くのだろう。
頭を床に擦りつけている2人を見ると、それが嫌と言うほど良く分かる。
しかし、参ったなぁ……こうまで畏まられると、話も出来ないじゃないか。
『頭を上げてください。尤も、会話すら拒まれるのであれば、その限りではありませんが……』
「会話すら拒む」この言葉を聞き、2人は一斉に頭を上げ、青い顔でオレを見つめている。
『先ずは、このような形で使徒だと明かした事を謝罪します。申し訳ありませんでした』
『な、な、何を! 救世主たる使徒様が頭をさげるなど! や、止めて下さい!』
ゴースは真っ直ぐに頭を下げるオレを見て、狼狽えながら口を開く。
直ぐにでも駆け寄って頭を上げさせたいのだろうが、使徒であるオレに触れて良いのか分からないらしく、挙動不審になっている。
今回の件について、話をしようと思ったのだが、辺りには気絶した騎士が転がっており、とてもゆっくりと話せる環境では無い。
結果、可哀想ではあるが、騎士は放置して応接室へ移動する事になったのである。
あ、一応、念のため、騎士には回復魔法はかけておいたので、大事には至っていないはずだ。
◇◇◇
『『本当に申し訳ありませんでした!』』
アオが帰って応接室へ移動した途端、先ほどの偉そうな態度から一転し、ゴースと隊長は床に頭を擦りつけて、再度の土下座を始めてしまった。
『頭を上げて下さい。こんな形になったのは、僕達の都合なんですから。そこに付いては申し訳ないと思っているんです』
この調子では会話にならない。やはり今回の経緯を話さないと、会話にならないんじゃ……
「母様、こうなった一連を話さないと議論にならないみたいです……」
「そうみたいね。どうせ、ここからフォスタークに何かが伝わる事なんて有り得ないんだから、好きに話しても良いんじゃない?」
「そうですね、分かりました。最低限、今回の経緯が分かる範囲を説明します」
跪いて会話にならない2人へ、極力 優し気に話かけたのであった。




