533.続イリルの街 弐 part2
533.続イリルの街 弐 part2
酒場を出て、真っ直ぐに冒険者ギルドへやってきた。
先ずは母さんの冒険者登録をしないといけないのだが、生憎ヤツはドワーフ語を話せない。
しょうがなくカズイを通訳に付けて、登録をしてもらおうと思う。
「カズイさん、母様の冒険者登録をお願いして良いですか? 僕は依頼を見てこようと思います」
「分かったよ。じゃあラフィーナさん、行きましょうか」
「アル、なるべく簡単で割の良い依頼を選ぶのよ。間違っても護衛なんか選んじゃダメだからね」
「分かってますよ。適当な物が無ければ、薬草採取を受けて常時依頼の魔物を狩るつもりです」
「……分かってるなら良いのよ」
そう言って母さんはカズイに連れられて受付へ歩いて行く。
あの人はオレを幾つだと思ってるんだろうか……もう結婚して子供までいるのに、何時までも子供扱いしてくるんだが……
オレもいつかシャロンやレオンに同じ事を思われるんだろうか……そんな未来を想像すると、思わず笑みが浮かんでくる。そんな未来も楽しそうだ。
さてさて、楽しい未来を夢見つつ、パパはお仕事頑張りますか。
どれどれ……シルバーの依頼は……ファングウルフの巣の調査に、コボルトの巣殲滅か……悪くは無いんだけど、もう少し歯応えが無いと文句を言う人がいるんだよなぁ。
お、「オーガの巣調査」がある。ゴールドの依頼だけど、一応 受けられるはずだ。これにしておくか。
早速、オーガの巣調査の依頼用紙を剥がし、母さんのいる受付へ歩いていく。
「母様、「オーガの巣調査」の依頼がありました。場所もここから半日歩いた場所らしいので丁度良いと思います」
「オーガねぇ。まぁ、良いわ。でも今日は野営になるわね」
「それはしょうがないですよ。今から出たとしても、暗くなってしまうので。巣の近くで野営して、明日の朝から調査が無難かと」
「因みに調査だけなの? 倒しても良いんでしょ?」
「はい。倒した場合はオーガ1匹当たり大銀貨2枚……フォスタークで言うと金貨2枚の報酬が出ます」
「良いわね。全部 根こそぎ倒して、報酬をがっぽり貰うわよ!」
氷結さんがやる気だ。獰猛な顔で覇気を漲らせている。どれだけ探しても見つからなかったやる気スイッチが、こんな所にあったとは!
やっぱりこの人は定期的に暴れさせないとダメなんだ。
大事な事を心のメモに書き込んで、母さんの冒険者登録が終わるのをジッと待つ。
結局、カズイに通訳をしてもらい30分ほどで登録が終わった。
「んー、冒険者登録なんて何年ぶりかしら」
こう話す母さんは大きく伸びをしてから、軽く首を回している。
「20年? いえ……僕が21歳なので、30年近く経ってるんじゃないですか?」
「アル、何となく言っただけだから……女性の歳を詮索するのは褒められた事じゃないわよ。本当にアンタは、そーゆー所だけ頭の回転が早いんだから」
「……すみません」
「ついでに言わせてもらうけど、オリビアが言ってたわよ。レオンが産まれてから、スキンシップが減ったって。子供を可愛がるのも良いけど、妻だって女性として扱わないと愛想をつかされちゃうんだから?」
何ですと! オリビアがそんな事を!
氷結さんの事はどうでも良いとして、嫁に不満を持たれてるなんて……ただでさえ、年中 単身赴任で寂しい想いをさせてるのに……これは早急に改善する必要がある!
「母様、貴重な情報ありがとうございます。次にブルーリングへ帰った時には、もっと3人へ時間を作ろうと思います!」
「そうなさい。使徒が番に逃げられたなんて、笑い話にもならないわ。じゃあ、早速 依頼を受けましょ。オーガの討伐証明は右耳だったわよね? なるべく頭は吹き飛ばさないようにしなくちゃ」
「……分かりました」
「なるべく」なんだ……アナタほどの腕があれば、わざわざ頭を吹き飛ばさなくても、倒す方法は幾らでもあるでしょうに……
何とも言えない気持ちを抱えながら、依頼を受けたのである。
◇◇◇
「オーガの巣調査」の依頼を受けて3日が過ぎた。
予定通り次の日にはオーガを見つけたのだが、マズイ事にオーガ共は巣を作り始めていたのだ。
遠目に見えるだけでも片手では足りない数がおり、普通の冒険者であれば、直ぐに引き返し討伐隊を組む案件である。
しかしオレ達からすれば、数匹のオーガ如きに苦戦するなどあり得ない。
結果、氷結さんを筆頭に満場一致でただちに殲滅する事を決めた。
直ぐに作戦を決め、母さんとカズイは西側からオレは東から奇襲をかける事で、30分もせずに計12匹のオーガを倒しきってしまった。
母さんはいつもの如く嬉々としてオーガを虐殺していたが、驚いたのはカズイの成長である。
ウィンドバレットを絶えず10個 自分の周りに漂わせながら、正確にオーガの足を潰していたのだ。
命のやり取りをしている以上、ボーっと突っ立てる個体などいるはずも無い。
そんな動き回るオーガの足を確実に潰すなど、どれだけの魔法使いに出来る芸当なのか。
勿論、百発百中では無かったが、1発1発を集中して撃つ姿は歴戦の猛者であり、かつてベージェでコボルトに追いかけられていた姿など、微塵も感じさせない。
裏方に徹する姿は正反対ではあるものの、母さんに通ずるものがある。
カズイもこの数年で地力を付けたと言う事か……少しの羨望と大きな期待を込めて、その雄姿を眺めさせてもらった。
そうして足を潰されたオーガは、氷結さんが厭らしい笑みを浮かべながらトドメを指していたのだが……それは見なかった事にしようと思う。
オーガを殲滅し終わった後、討伐証明だけを剝ぎ取り直ぐにイリルの街へ戻ってきた。
本来の報酬に加え、討伐報酬を合わせた所、フォスタークの価値で金貨30枚……30万円相当を手に入れたのである。
30万、これで当面の路銀は確保できた。ゴンタとの約束まで数日の猶予はあるが、母さん、カズイと相談した結果、追加で依頼を受ける事はせず、宿を取って休息に当てる事を決めた。
この数日間は、「アルー、お腹空いたー」から始まり、「アルー、背中、掻いて」や「お風呂に入りたい!」などの我儘を言われていたのだが、「アル、退屈だから何か面白い話をして」と言い出した際には、流石に懇々と苦言を呈させてもらった。
何故か「もぅ、アルは真面目すぎるのよ」と逆ギレされてしまったが……解せぬ。
◇◇◇
そんなこんなでゴンタと約束の日になり、待ち合わせの酒場へ3人でやってきた。
「アルド、本当にあの人達、信用できるのかな?」
こう話すのはカズイである。確かにアイツ等が素直に取引をするかは未知数であり、人を集めてオレ達を襲おうと考えても不思議では無いのだ。
確かに……数日の時間があれば、罠を張るのは可能だろう。しかも、アイツ等は元々ゴロツキであり、真っ当な人間とは言い難い。
この取引は考え直した方が良いんじゃ? そう悩んでいる所で、氷結さんの声が響く。
「たぶん大丈夫よ。アレはそこまで肝が据わってないわ。精々、小銭をどうやって掠め取るかに心血を注ぐタイプね。それに万が一、また噛みつくようなら……「殺してくれ」って願い出るまで、ウィンドバレットを撃ちこんでやるから問題ないわよ」
おま! 何、恐ろしい事をサラッと言ってるんですかね? 問題、大有りだろ!
この人の何が恐ろしいかって、言葉に出した事は本当にやるのだ。ゴンタ、お前等、絶対に裏切るなよ? オレは人がミンチになるまでいたぶられる姿なんて見たく無いぞ。
オレが戦慄している隣で、母さんは優雅にお茶なんぞを楽しんでいる。
そんな混沌とした感情が渦巻く場に、とうとう取引相手……ドワーフのゴンタが取り巻きを2人連れて現れた。
『すまねぇ、遅くなっちまった。コイツが途中で腹が痛ぇとかほざくんで、少し遅れちまった』
『大丈夫ですよ。僕達もさっき来た所なので。取り敢えず座ってください。皆さん、お茶で良いですか?』
3人は「すまねぇ」やら「ありがてぇ」などと言いつつ、テーブルに着いた。
店員が3人のお茶を運び終わった所で、改めて問いかける。
『会っていきなりで申し訳ありませんが、首尾はどうでしたか?』
『安心してくれ。ミスリルはちゃんと売れた……ただ、兄貴が最後に口を出してきやがった。要は自分にも分け前を寄越せって言い出してな。アンタ達には悪いと思ったが、オレのチカラではどうしようも無かった……すまねぇ』
なるほど……コイツの兄と言う人物からすれば、自分の伝手を使うのだから、分け前を要求するのはしょうがない。
問題はその金額……コイツ等相手に、一体 幾らの金を掠め取ったのか……
『話は分かりました。その方も自分の伝手を使うのなら、取り分を要求するのは正統な権利でしょう。では取引全体の収支を教えてください』
『しゅ、収支?』
そこからは少々細かい数字を教えてもらう事になった。
話をしていて思ったのだが、どうやらコイツ等は、母さんが言うように大きな悪事を働くつもりは無さそうだ。
最初から最後まで小銭に執着し、全体の取引金額を隠そうとはしなかった。驚いた事に、あのミスリルは小金貨3枚……30万円で売れたのだとか。
あれはボーグが炉にこびりついたカスをこそぎ取った物だ。フォスタークであれば、高くても10万……恐らく5~6万の価値しか無いと思われる。
『なるほど。小金貨3枚の内、1枚を兄に取られたと言うわけですね?』
『そ、そうだ……すまねぇ……』
ゴンタは小さくなってしきりに恐縮している。
ここで強く言って、コイツ等の取り分を少なくしてやっても良いのだが……そんな事をすればコイツ等は、次から間違い無く嘘の数字を言ってくるだろう。
コイツの兄への配慮、それにコイツ等への報酬……全てを総合的に考える……
『分かりました。ではゴンタさん達の取り分は大銀貨5枚でどうでしょう?』
『だ、大銀貨5枚? い、良いのか? そんなに貰って。兄貴に小金貨1枚を取られちまったのに……』
『必要経費ですよ。ゴンタさんの兄も商売として伝手を使うのなら、対価を求めるのは当然です。まぁ、伝手だけで1/3は少し多いとは思いますが……そこはゴンタさんから、継続的に取引をするので、もう少し安くなるようお願いしてください。それとゴンタさん達への報酬は当然の対価です』
『当然の対価……』
『ええ。伝手を使ったとは言え、ミスリルを売る販路を開拓したんです。本当はもう少し多くしたいと思うんですが、今回は大銀貨5枚で手を打ってもらえると助かります』
ゴンタ達はもっと少ない金額を言うと思ったのだろう。3人で顔を見合わせ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
そこからは初めての取引を終え、全員が終始にこやかに会話が出来た。約1名を除いて……
ドワーフ語が話せない母さんだけは、憮然とした態度でお茶を啜っていたのはしょうがない事なのだろう。
そして次の取引……本当はもっと時間をかけて進めるべきなのだろうが、生憎 オレ達には時間が無い。
性急かとも思うが、賭けに近い気持ちで神銀貨5枚分……500万円分のミスリルを換金してもらう事を決めた。
ゴンタ達は目を見広げて驚き、ミスリルを受け取る際には手が震えていたが、「絶対にキッチリ売ってみせる!」と気合を入れていたので信じようと思う。
まぁ、持ち逃げなんぞした場合、身元が割れている以上、地の果てまで追いかけて報いをうけさせるつもりではあるのだが……
こうしてアルジャナでの相場も朧げながら理解できた。これからは、フォスタークでの価値の3倍を目安に取引していこうと思う。




