531.お使い
531.お使い
久しぶりにエルと兄弟の親睦を深めた所、驚くべき話を聞かせてもらう事が出来た。
具体的には側室の件。オレ達がコボルトのマナスポットからアルジャナを目指し始めた頃、時を同じくしてエルの側室大作戦は正式に始まったのだとか。
エル曰く、「最初は2,3人だと思っていたんですが……いきなり10人もいたんです」から始まり「マールを交えて、全員と話をしました」。更に「夜の方は基本1日1人で……順番は全てマールと側室の方で話し合って決めています」と、まるで種馬のような扱いを受けているそうだ。
しかも誰が気に入ったなどと、とても言える雰囲気では無いらしく、ひたすら言われた通り事に及んでいるらしい。
「マジか……中々の話だな、それは……」
「え? マールの話では、アシェラ姉から聞いて兄さま達を参考にしたって言ってましたが……違いましたか?」
う゛……その通りです。3人の嫁がいようと、オレに選択権は無いのだ……無いのだぁぁぁ(血涙)
「あー、まぁ、なんだ……その通りです」
「何て言ったら良いか……僕も同じですから……」
オレ達は、互いの顔を見合わせて乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。
「それでどうなんだ? お前とマールの関係は。それとマールは耐えられそうなのか?」
「今の所は上手くやってるつもりです。側室の方とは2時間しか会えませんから、大きく生活は変わってません」
え? お前、致すのに時間制限されてるの? 2時間で確実に種を仕込めとか、本当に種馬みたいだな。
「ただマールの本心が正直 分からなくて……毎日 側室へ通った後、風呂に入り、マールの下へ向かうのですが、特に変わった様子はありません。それだけに無理をしてないか心配で……」
「そうか……オレはマールへ直接 夜の生活を聞くなんて出来ないからな。アシェラ達にフォローしておくよう言っておくよ」
「ありがとうございます。この件だけは、僕にも話し難いみたいなので……助かります」
こうして三千万円分の金を受け取り、エルの下をお暇したのだが……そうか、エル、お前 種馬扱いされてるのか……少し羨ましかったはずなのに、今は憐れみで一杯だ。
やっぱり好きな相手と好きなタイミングで致すべきだよなぁ。それが例え順番に自分の意思が全く反映されていなくても!
何故かオレは晴れやかな気持ちで自宅へと急いだのである。自分より不幸な男を見て安心した何てことは絶対に無い。無いったら無いのだ!
◇◇◇
「ただいまー。今帰ったよ」
「おかえり、アルド。シャロンもパパにおかえりを言ってあげて」
「おかーり、ぱぱ」
「ただいま、シャロン。いつ見ても可愛いなぁ。ちゅっちゅっ」
シャロンを抱き上げ、ほっぺにチューをしたのだが、何故か逃げられてしまった。どうやら髭が痛いらしい……しょぼん。
「おかえりなさい、アルド。レオンも元気ですよ」
「ただいま、オリビア。レオンも良い子にしてたでちゅか?」
「おかえり、アルド君」
「ただいま、ライラ……ちゃんと食べてるのか? 少し痩せたんじゃないか?」
「大丈夫。果物は食べてる」
「それなら良いけど……悪阻が酷いようなら、ちゃんと医者に診てもらわないとダメだぞ」
「ちゃんとグラン家の医者に診てもらってるから大丈夫」
そう話すライラは少し痩せたように感じられる。悪阻が始まってもう3ヶ月近い。アシェラやオリビアの時はこんなに長く無かった気がするんだが……
個人差があるのは知っているが、やっぱり少し心配だ。
数か週間ぶりに自宅へ帰ったが、やっぱり我が家は心地いい。嫁3人と子供2人に囲まれ、久しぶりの団らんを楽しんだのである。
さてさて、シャロン成分とレオン成分を補給した事だし、母さんから神銀貨100枚を預かってボーグを訪ねなくては。
祖父さんから神銀貨を鋳潰せと言われたが、当然ながらオレにそんな技術は無い。そんな事が出来る者……心当たりと言えばボーグしか思いつかなかったのだ。
「ブルーリングにいられるのは3日しか無いのか……本当はもう数日延ばしたい所だけど、ゴンタに連絡する手段が無いんだよなぁ……ボーグには悪いけど、超特急でやってもらおう」
マナスポットからイリルの街まで5日ほどの時間がかかるため、取引が2週間だと言っても実際は3日しかブルーリングに滞在出来ない。
まさか祖父さんが神銀貨を鋳潰せなんて言うとは、思ってもみなかったのだ。
「先ずは母様から神銀貨を受け取らないとな……風呂に入るって言ってたけど、流石にもう出てるだろ」
早速、領主館へ向かうと、リビングにヤツはいた。
何故か特大のプリンをテーブルの真ん中に置き、氷結さん、クララ、サラの3人で嬉しそうに頬張っている。
「か、母様、お祖父様から神銀貨は鋳潰してから取引するよう言われました……ボーグに頼んでくるので貸してもらいたいのですが……」
「ん? ひゃみぎんか? じゅる。 わかったわ。ひょれをひゃべひゃら、ひゃしてあげる」
お前、食うの止めろよ。そもそも何だ、そのプリンのでかさは。クララとサラが作ったのか……美味そうじゃないか! オレにも一口……
スプーンを片手にプリンへ手を延ばした瞬間、バシッとはたかれてしまった。
「ひゃる! ひょれはわひゃしたちのよ! ひゃってにひゃべないで!」
こんなにあるんだから1口ぐらい良いだろうが!
「母様、そんな意地悪しないで下さい。また作りますから。アル兄様、一緒に食べましょう。サラちゃんと一緒に作ったんです」
「じゃあ1口だけ……うん、美味い。でも、こんな量、食べきれるのか?」
「どうなんでしょう……でも兄様に教えてもらったバケツプリンを作ってみたくて……母様が帰ってきたので、3人なら食べられると思って作ってみました。量が多いので、甘さは控えめです!」
「そっか。もし残りそうならメイドに分けてあげれば良いさ。喜んで食べてくれるぞ」
「はい!」
嬉しそうにプリンを頬張るクララだったが、なんか食べるの速くない?
日本での偽物バケツプリンと違い、これは本当にバケツの大きさがあるのだ。
一体、普通のプリン何個分なんだろう……
それを3人でとは言え、既に2/3になっているとか……
女子のスイーツ好きオソロシス。
結局、半分を残してギブアップし、残りはメイド達に配られたのであった。
◇◇◇
クララ達の下をお暇し、母さんから神銀貨100枚を預かった後、1人ボーグの店へ向かっている。
母さんの1億円に、エルから預かった3千万……合わせて1億3千万のも金を持って歩くのは、流石に緊張で手汗が凄い。
これ、落としでもしたら……ゴクリ……最悪は自宅を借金のかたに取られかねない。
しかも、実際にそんな事 無いのは分かっているが、周りの人が全員オレの一挙手一投足を窺っている気がする。
も、もしかして、ぬ、盗む気なのか……や、止めろよな……
空気に耐え兼ね、空間蹴りで空へ逃げ出そうとも思ったのだが、余計に目立ってしまうわけで……結局、挙動不審になりつつボーグの下へ急いだのである。
時折バーニアを交えつつ、やっとボーグの店に到着した。
ぶち破るように扉を開けると、いつものように店番をしているボーグの姿があった。
「ぼ、ボーグ、頼みがあるんだ!」
「なんだ? いきなり頼みだと? しかもお前がそこまで焦るとは……何があった?」
「実は………………」
言えない事があると前置きしてから、ここ一連の話を説明していく。
「要はミスリルとアダマンタイトを転売したいと、そう言う事か?」
「ああ。悪いが何処の誰に売るかは言えない。何も聞かず、神銀貨と神赤貨を鋳つぶしてくれないか?」
「そりゃ構わんが……一応聞いておくぞ。お前、貨幣を傷つける行為は犯罪だって知ってるよな?」
「ああ。形骸化してるとは言え、罪だってのは知ってる。ただ時間が無いんだ。2日後にはブルーリングを発たないといけない」
「そりゃまた急な話だな……まぁ、お前が生き急いでるのは今更か……しょうがねぇ、やってやるよ。神銀貨110枚、神赤貨2枚を鋳潰せば良いんだな?」
「ありがとう、ボーグ。それと手間賃は幾らだ?」
「あ? 鋳潰すだけだろ? そんなんで金なんか取れるか」
「いや、それはちょっとおかしいだろ……鋳潰す手間に炉の使用料、燃料代だってある。流石に無料ってわけにはいかない」
「オレがいらねぇって言ったらいらねぇんだよ。小せぇ事をうだうだ言うなってんだ」
えー、オレがおかしいのか? いやいや、やっぱりどう考えてもお金を払うのは当たり前だ。
「ボーグ、気持ちは嬉しいが金は払わせてくれ。そうじゃないと、次から何も頼めなくなる」
オレが真剣に話しているのが分かったのだろう。ボーグは眉間に皺を寄せながら口を開いた。
「ハァ……長い付き合いだ。お前が言い出したら聞かねぇのは知ってる、分かった、じゃあこうしよう。前にお前が連れて来たヤルゴって坊主がいただろう。実はあの坊主、面白い物を持っててなぁ……」
「面白い物? ヤルゴが?」
「ああ。何とオリハルコンとミスリルの合金だ。何でもミルドにいる頃、ドワーフの商人から売りつけられたそうだ」
「オリハルコンとミスリルの合金? ん? どっかで聞いた事があるような……どこだっけかなぁ……」
「ただな、アイツが聞いた話によると、オリハルコンとミスリルは溶ける温度も違えば、そもそも混ざる事は無いらしい」
「混ざらない? じゃあどうやって合金を作ったんだ?」
「そこで出て来るのがドワーフの秘術だ。商人に酒をたらふく飲ませて聞き出した話らしいんだが、魔物の血が2つを混ぜ合わせる触媒になるんだとよ」
「魔物の血が触媒……」
何となくボーグの次の言葉が分かって来た。コイツ、オレにその血を取って来いって言うつもりだろ。
ジト目で睨んでやると、ボーグは肩を竦めながら言い放ちやがった。
「察しが良いな。お前にはその血を取って来てもらいたい」
「ちょっと待ってくれ。オレは忙しいんだ。そんな事に割ける時間は無いぞ」
「まぁ、待てって。わざわざ血を集めてこいなんて言うつもりは無ぇ。何でも強い魔物であればあるほど良く混ざるらしい。お前が旅先で魔物を狩った際、少し血を採取してくれればそれで良い。どうだ? 頼まれてくれねぇか?」
「血を採取するぐらいなら……でも血なんて数日で腐らないか? そのためだけにブルーリングへ帰ってくるなんて出来ないぞ」
「それも考えてある。これを見てくれ。瓶の中に布が入ってるだろ? この布に血を垂らしてくれればそれで良い。但し、布には絶対に直接 触れるなよ。瓶を空けた後、血を垂らして布に吸わしてくれ。後は蓋を閉めれば1年は持つはずだ」
こんな物があるのか……瓶の底に魔法陣が刻まれてるので、何かの魔道具? こちとら新進気鋭の魔道具職人である。後でコッソリ解析してみよう。
「分かったよ。適当な魔物の血を採取してくる。それで良いか?」
「出来るだけ強い魔物で頼む。竜種なんか最高だな」
おい、簡単に言うなよ? そんな何度も竜種となんて戦わないからな?
「神銀貨と神赤貨は任せておけ。明日の夕方までには用意しておいてやる。その代わり、血は忘れるなよ?」
「……何か普通に金を払ったほうが、安くついた気がするよ」
「タダより高い物は無ぇってか? ガハハハハ」
オレのボヤキに、ボーグの笑い声が店内に響いたのであった。




