518.報告 弐 part1
518.報告 弐 part1
エルへ手紙を送った所、グレートフェンリルの件は問題なく引き継ぐと返事がきた。これで安心して王子に手紙を送れる。
近況については、ドライアディーネの迷宮探索も既に迷宮主を倒し終わり、今は殲滅戦に移っているそうだ。
どうやら迷宮主はハーピーキングだったらしい。ハーピーでキング……クィーンじゃないのん? そう思ったが、羽の生えたムキムキマッチョなハーピーだったらしく、キングに間違い無いそうだ。
うーん……ムキムキマッチョのハーピー……見たいような見たくないような……
そのキングだが正面から戦う事はせず、氷結さんの「真・魔王の一撃」で狙撃して瞬殺したと書いてあった。
確かにあの魔法は、地竜の王であるチビさんにも届いた魔法である。そこらのキング程度に防げる物では無い。
あの人は一体、どこまで強くなるのか……恐ろしい。もしかして、近接最強のアシェラと遠隔最強の氷結さんがバディを組んだら、無敵なんじゃ無いだろうか……
主は証を調べてからでないと攻撃出来ないが、迷宮主は違う。
気付かれる前に氷結さんが狙撃し、万が一倒せなかったとしても、手傷を負った相手ならアシェラがいれば大抵の敵には打ち勝てるはずだ。
しかも、アオはアシェラが持っている「石」があれば、魔瘴石の浄化は可能だと言っていた。
何かあの2人、迷宮主の天敵になりつつある気がする……背中に冷たいものを感じつつ、オレはこれ以上 考えるのを止めた。
◇◇◇
祖父さんの下から自宅へと戻ってくると、我が家のメイドであるジュリが玄関の掃除をしているのが見えた。
「ただいま」
「お、おかえりなさいませ、アルド様……」
至って普通に話しかけたつもりなのだが、ジュリは顔を強張らせ緊張の面持ちで返してくる。
もう少し打ち解けたいんだけどなぁ。アナタもそんなにビクビクしてたら疲れるでしょ? 誰も取って食べたりしないのに……
この件は何度もオリビア達と話し合ったが、「今はまだ、そっとしてあげてください」と言われており、コチラから距離を縮めるような行動は起こしていない。
どうやらオレだけでなく、他の男性にも同じ反応らしいので、雄と言う生き物自体が怖いようだ。
「アシェラ達は2階か?」
「あ、アシェラ様はシャロン様と、お、オリビア様はレオン様と自室でお昼寝中です……ライラ様は領主館で地図を描いておられます」
「そうか……じゃあ邪魔しちゃ悪いな。オレは大人しく庭の隅で修行をするよ」
「か、畏まりました。奥様方が来られましたら、そのようにお伝えします」
「ああ、頼む。いつもありがとう、ジュリ」
「い、いえ……私などに勿体ない……」
うーん……やっぱり微妙だ。もう1人のメイドであるパメラだと更に怖がられるので、ジュリはまだマシではあるのだが……
「まぁ、良い。取り敢えず足からもっとスムーズにウィンドバレットを出せるようにならないとな。ベレットに短剣術の修行も再開してもらわないとだし、他の武器の修行もしたい。カムル王子からの返答を待つ間もやる事は一杯だ……」
1つずつ……焦っても良い結果は出ない。そう自分に言い聞かせ、瞬歩の修行に打ち込んでいくのだった。
◇◇◇
ブルーリングへ帰って2週間が過ぎた頃、エル達がドライアディーネから帰ってきた。
「おかえり、お疲れ様。大変だったな」
「ただいま帰りました。僕達より兄さまの方が大変ですよ。迷宮の中では満足に休息も取れなかったんですよね?」
「まぁな。その代わり、浅くて迷宮主もゴブリンキングだった。数は多かったが、今のオレ達には大した敵じゃなかったな」
「そうですか……あまり感じませんが、僕達も強くなってるんですね」
「ああ。コボルトの主の件も吹っ切れたし、カムル王子の下へ顔を出したら、アルジャナの旅を再開するつもりだ」
「アルジャナ……コボルトのマナスポットからだと、3,4ヶ月の距離でしたよね?」
「そうだな。カズイさんやラヴィさん、メロウさんも里帰りをしたいだろうし、ベージェまでは難しいとしてもアルジャナの何処かには飛べるようにしておきたい」
「分かりました。じゃあ、僕も一緒に……」
「いや、お前は良い。アシェラ達とも話したんだけど、アルジャナまではアシェラとライラが同行してくれるらしい。以前アオが言ってただろ。主不在のマナスポットを奪おうとする魔物がいるかもしれない。誰か1人は直ぐに対処できるようにしておかないとな。それにルイスの方でも緊急の案件があるかもしれない。お前はここで何かあった場合に待機しててくれ。そもそも獣人族との交渉もある以上、お前に旅は無理だろ」
「そうでした……獣人族の件がありました」
「フェンリルの召喚の件は1ヶ月後だとしても、そこから同盟の詳細を詰める必要もあるからな。お前はここ、ブルーリングで頑張ってくれ。外の事はオレが何とかする。ただ困った時には頼らせてもらうからな? 修行はさぼるなよ」
「はい……でも本当に大丈夫ですか?」
エルは不安そうな顔でオレの顔を見つめて来る。手紙では伝えてあるとしても、エルからすればオレが本当に戦えるのか不安なんだろう。
「大丈夫だ。オレはもう大丈夫。色々と心配をかけたが、アルド=ブルーリング完全復活だ」
こう話すオレの顔を見てエルはやっと安心したのか、小さくホッと息を吐き信じてくれたようだ。
「エル、アルジャナへは私も付いて行くわ。アルの事は任せておきなさい。アナタはそれより、側室の件もあるのよ。約束のアルジャナへの旅は終わったわ。そろそろ覚悟を決める頃合いね」
おふ……そうだった。アルジャナへの旅が終わった以上、「エルの側室大作戦」が始まるんだった。
オレだけじゃなくエルも忘れていたらしい……目を大きく見広げて、視線をさ迷わせている。
「ハァ……アナタがその調子じゃ、マールの覚悟も揺らぐわ。エル、しっかりなさい。アナタは妖精族の父になるんでしょう」
「父……そうです……そうでした。すみません、母様」
小さく肩を竦めた後 母さんは、手をヒラヒラと振りつつ「さてと、久しぶりのお風呂に入ってくるわ。ナーガ、アナタも入るわよね?」と言ってナーガさんを連れて行ってしまった。
あの人、本当に自由だな……そしてこの場にはエルとオレ……そしてラヴィとメロウが残されている。
「ラヴィさん、メロウさんもお疲れ様でした。2人共、ちゃんと呪いは解けましたか?」
「ああ、でもあれは凄く痛かった……もう二度とやりたくない。そんな事よりルイスは何処だ?」
「あー、実はブルーリングへ帰って、直ぐにネロとティリシアへ飛んでしまいました。あまり長い時間、ティリシアを空けたくないって言って……あれから2週間になるので、もうカナリス伯爵の下にいると思います」
「そうか……分かった。私らも明日にはティリシアへ発つ」
「明日ですか? もう少しゆっくりしても……」
「私がいないと、カナリス伯爵が娘を嫁にしようと画策するからな。明日には発つ」
え? ルイス、お前……カナリス伯爵に別の意味で狙われてるの?
考えてみれば当たり前か……本人はフォスターク貴族の子息で、当然だが高度な教養を持っている。しかも今代の使徒の従者であり、ティリシア王都のマナスポット修復の立役者になる予定なのだ。
更にルイス自身の性根は真っ直ぐで、腕っぷしも そこ等の騎士が束になっても敵わないときた。
目端が利く者なら、取り込みたいと思うのは当然の事だ。
オレの思考を読んだかのように、ラヴィが吠える。
「アイツは私の物だ。誰にもやらん!」
ラヴィさん、仁王立ちしてそのセリフ……なんて男前なんだ。オレが女なら惚れてしまいそうです。
「そう言う事ならしょうがないですね。カナリス伯爵なら無茶はしないでしょうが、貴族の当主である以上、黙って指を咥えている事は無いでしょうから」
「ああ。メロウ、明日の朝にはティリシアへ向かうぞ」
「えー、私はゆっくりして美味しい物が食べたい。もう干し肉と黒パンは嫌だ……」
そこから2人はギャーギャーと漫才を繰り広げ、最終的に何故か、オレが特製サンドイッチを作る事でメロウは納得したのであった……解せぬ。
◇◇◇
次の日にはラヴィとメロウが旅立ち、更に1週間が経過した頃。
獣人族の方は使徒でさえあれば文句は無いらしく、無事エルへ全ての交渉を引き継ぐ事が決まった。
ドーガだけは反対したそうだが、実際にエルと顔を合わせた所、「お前、アルドと同じ匂いがするな」と笑って、それ以降 文句を言う事は無かったそうだ。
うーん……同じ匂いねぇ。以前、ナーガさんが言っていた。獣人族は魔力の匂いを嗅ぎ分けると。
双子故、同じ匂いだったのだろうか。まぁ、ドーガだから、何も考えていないと思うが。
エルの方はそんな感じだ。そしてオレはと言うと、瞬歩の修行だけでなく再びベレットから短剣術、騎士から騎士剣術の初歩を習っている。
正直、短剣術の際も驚いたが、騎士剣術は護り……特に盾の使い方が非常に繊細だった。
具体的には、押したり引いたりして打点を流す。更には殴りつけるバッシュ。今までのオレの動きには無かった物ばかりである。
巧妙に相手の芯をズラす技巧は、短剣術の「騙し」に近いのかもしれない。
こうして日々新たな発見をしていたオレに、1通の手紙が届いたのである。
差出人は宰相。既に祖父さんと旧知の仲だったバーグ侯爵は引退しており、今は今年リュート伯爵に就任したばかりの、ラーハルト殿が宰相の座に付いているそうだ。
「差出人がラーハルト=フォン=リュートねぇ……宰相としてじゃなく、リュート伯爵個人としての手紙とか……カムル王子が平民のオレへ、直接連絡出来ないのは当然として……個人としての手紙なんて、普通はよっぽど親しい者か身内にしか出さないはずなんだけどな……オレ、あの人と会ったの1回だけだぞ?」
自宅でメイドから受け取った手紙を読んで、思わず独り言が出てしまった。
「きっとアルドと友好的な関係を作りたいのですよ。貴族は時に距離を縮めるため、そのような手段を使う事がありますから」
こう話すのはオリビアである。何故かライラとアシェラはオレから視線を外し、素知らぬ風を装っている。
この2人がこんな態度を取る時は、絶対 何かあるんだけど……
「ふぅ……オリビアの言う事は分かるんだけど、こうも露骨だと裏がありそうで怖い……また罠に嵌められるとか……もう嫌なんだけど」
「アルドの言う事も分かりますが、相手が友好的に接してくる以上それに乗る以外 方法はありません。何かあった場合はその時に考えるしか無いのでは?」
「確かになぁ……後ろにいるのが王子じゃあ、無視するわけにもいかないしなぁ」
「しかもカムル王子と言えば、後半年もすると王になられるのですよね? 流石に軽く扱うわけにはいきませんし」
「分かったよ……しかしカムル王子が王位に就く……伝手があって良かったと見るべきか、因縁があって悪かったと思うべきなのか……判断に迷う」
オリビアも同じように思っていたのだろう。会話に入ってこない2人をよそに、困った顔で眉尻を下げていたのであった。




