515.降臨
515.降臨
瞬歩を習い始めて、早いもので1週間が過ぎてしまった。
ネロが言うにはオレの修行は至って順調らしいが、(魔物用)に乗ってもバランスを崩さなくなった程度であり、自分としては満足のいく物では無い。
「アルドは凄いぞ。オレは上手く乗れるようになるまで、1年ぐらいかかったんだぞ」
「それは技を開発しながらだからだろ? しかもお前は、グレートフェンリルやティリシアへの旅の合間に修行したんだ。時間がかかるのは当たり前だよ」
「それでも1週間で乗れるアルドは凄いんだぞ! 流石アルドだぞ」
こう話すネロは心の底から嬉しそうだ。オレも記憶にあるが、普通 自分が開発した技には、ある種のプライドがある。
アシェラにバーニアを教えた時なんて、あっという間に追い抜かれた事実に軽い嫉妬心を感じていた。
しかしネロからは、そんな感情が一切感じられない。心の底からオレの成長を喜んでいるのが分かる。
なるほどな……どうりで解呪の際、一番 呪いが軽かったはずだ。
オレの呆れたような関心したような目に、ネロは不思議そうな顔で口を開いた。
「どうしたんだぞ?」
「いいや、お前は凄いなって思っただけだよ。ネロ、やっぱりお前は、使徒ギギの生まれ変わりかもしれないな」
ルイスとカズイ、アシェラとライラもオレと同じ物を感じ取ったのだろう。納得したように全員が頷く中、当のネロはアワアワと挙動不審で否定していたのであった。
◇◇◇
「お名前を呼ばれましたら、コチラから前にお進みください」
「はい……」
オレは今、何故か苦労性っぽい宰相から説明を受けている所だ。
一体、何がどうなっているのか? 王都のマナスポットを解放するに当たって、国の重鎮が集まるとは聞いていた。
それは良い。確かにグレートフェンリル王都のマナスポットを解放するなど、国の大事なのだから。
しかし解放 当日になって聞いた話では、重鎮だけではあるものの正式な式典を行うと言われてしまったのだ。
何故 当日まで知らなかったのか? そう思うだろうが、これは全てドーガの仕業である。
ヤツ曰く「あ? そういや、ジジイ共がそんな事 言ってやがったな。あー、そう言えばオレから伝えるって言っておいたんだっけか」とのたまいやがった。
おま、流石に1国の重鎮が集まる式典だぞ? 何かとんでもないヘマでもしよう物なら、大事件じゃねぇか!
しかしヤツは「小せぇ事は気にするな。ジジイ共が何か言っても無視しときゃ良いんだよ」と悪気も無く言い放ちやがった。
コイツには何を言っても無駄だと悟り、急遽 宰相さんに式典の手順とオレの役割を聞いているのである。
そして一通りの手順の確認を終えた後、宰相が申し訳なさそうに口を開く。
「アルド様には何と言って良いのか……本当に申し訳ありません。私から伝えると申したのですが、殿下がどうしても自分から伝えると聞かなくて……」
「いえ、宰相殿に非があるわけではありませんので……ちゃんと分かっていますから、頭を上げてください」
「本当に申し訳ありません……それと、マナスポットを解放した暁には、本当にフェンリル様はいらして頂けるのですか?」
「それは……一応、私の精霊経由で話してはありますが、精霊は気まぐれのようでして……その……間違い無いとは言えない状況なのです」
「そうですか……無理を言っているのは分かっておりますが、今回の件は王家としてもかなり無茶を通しております。何卒フェンリル様に御光臨 頂けるよう手を尽くして頂きたく……」
「分かりました。もう一度、私の精霊に頼んでおきます」
「ありがとうございます。アルド様に最大の感謝を」
やはり以前にドーガから聞いた通り、マナスポット解放の際、フェンリルが来ないとマズイのだろう。
王家よ、お前等は一体どれだけ無理を通したのかと。
こうして疲れた顔の宰相と何度かの打ち合わせを終え、何とか式典の準備を完了したのであった。
◇◇◇
昼食を終え、後1時間もすれば式典が始まる頃合い。
「アオ、フェンリルにはちゃんと伝えてくれたんだよな? 後2時間もすればマナスポットを解放するんだ。本当に来てくれるのか?」
「何だよ、いきなり呼び出して文句かい? アルドはもっと僕に敬意を払うべきだね」
「いきなりで悪いと思ってる。ただお前等 精霊は、時間の感覚がオレ達と違うだろ? 直前に念押しした方が良いと思ったんだよ」
「まぁ、アルドの言う事は分からないでも無いかな。人は少しの時間の違いでもウルサイからね。分かったよ、もう一度フェンリルに伝えてくるよ」
「すまない。ありがとな、アオ」
アオは小さく肩を竦めて消えていく。
これで準備は終わったはずだ。後は式典で軽く挨拶をして、目の前でマナスポットを解放すれば終了となる。
「しかし前の時も思ったが、この国に来るといつもドタバタだな。獣人族の特性なのか?」
こう話すのはルイスだ。確かに以前の来訪の際にも絶えず主導権を握られて、全てが後手に回っていた気がする。
「どうなんだろうな。基本、善良な人達なのは間違いないが……全ての元凶に約一名、場を引っ掻き回すヤツがいる」
きっと全員が同じ人物を頭に浮かべたはずだ。ソイツの名はドーガ。この国の王子であり、次代の国王となる男である。
「あの王子様で、この国は大丈夫なのか? 他人事ながら心配になってくるぜ」
「あれでも存外に人望はあるし、人の意見を受け入れる度量もあるからなぁ。案外、名君になるかもしれないぞ。尤も補佐する宰相は、胃に穴が開くかもしれんが」
「違いない。お前を使徒だと知って、「タメ口で話したい」なんて言うヤツ、あの王子様以外いないだろうしな」
オレは敢えて何も言わず、肩を竦めて返しておいた。
雑談でくだらない話で盛り上がっている所へ、式典が始まった事をメイドが知らせにやってきたのである。
『皆さま、そろそろ式典が始まります。申し訳ありませんが、移動をお願いしてもよろしいでしょうか?』
『分かりました。こちらは既に準備は出来ていますので、案内をお願いします』
『畏まりました』
メイドを先頭に、オレ、アシェラ、ライラ、カズイ、ルイス、ネロが続いていく。今回、アシェラ達は使徒の従者として、共に式典へ共に参加する事になっている。
アシェラとライラに関しては、妻としてでも良かったのだが、その場合「正装のドレスを着て欲しい」と言われてしまい、面倒なので従者として参加する事に決めたのだ。
メイドは早すぎず遅すぎずの歩調で、城を出て隣にある神殿へと入っていく。
神殿の中は、まだ完成していない部分があるものの、非常に威厳に満ち獣人族のフェンリルに対する敬意が伝わってくる。
「凄いな……これは……」
「うん……こんなに立派な神殿……開拓村の神殿の何倍もある」
「オレ達も、いつか こんなに立派な神殿を作れるよう頑張らないとな」
「うん! ボクも頑張る!」
アシェラが鼻息荒く決意表明を発した所で、メイドはゆっくりと足を止めた。
『着きました。もう既に式典は始まっております。直ぐにお声がかかるはずですので、少しの間 お待ちください』
『はい』
メイドの言う通り既に式典は始まっているのだろう。耳を澄ませば、王の声が聞こえている。
『………………今代の使徒様は見事 我等との約定を果たし、誰も踏破しえなかった「ゴブリンの迷宮」を、僅か1ヶ月で打ち果たしてみせた。次は我等が約定を果たす番である。今日この日を持って、ここ王都のマナスポットを解放し、新しい種族との同盟を前に進める所存だ。諸侯の中には、同盟に不安を抱える者がいるのは知っている。しかし始祖ギギ様はおっしゃられたはずだ。「後に現れる使徒を助けてやってくれ」と。我らは道を間違えていない。その証拠に我等の正しさは、フェンリル様の降臨によって示されるだろう』
うは! この演説……ここでフェンリルが来なかったりしたら、「お前等、間違ってるよー、うふふ」って事じゃねぇか!
本当にフェンリルは来てくれるのか? うーん……アイツ等、アオを筆頭に、ドライアドにフェンリルも何処か適当だからなぁ……信じてるぞ、アオ、フェンリル!
特大の心配をよそに、王の演説が終わりに近づいた頃、とうとうオレを呼ぶ声が響いてくる。
『では今代の使徒様にマナスポットを解放して頂く。アルド様、どうぞお越し下さい』
うげ、とうとう出番 来ちゃったよ……逃げてぇ……心の底から逃げたいんですが!
しかし本当に逃げるなど出来るはずも無く……オレは横柄にも卑屈にも見えないよう気を使いながら、舞台袖から歩き出したのである。
オレを先頭に、アシェラとライラ、ルイスとネロが2列で並び、カズイがシンガリで歩いていく。
王の前まで進み出た所で、5人はオレの後ろで隊列を横一列へと変えた。
『グレートフェンリル王、並びに諸侯の皆様方、この度はマナスポットの解放を許して頂き、誠にありがとうございます。皆様の英断によって、また一つ世界の崩壊を食い止める事ができます。今代の使徒として……新しい種族の始祖として、皆さまの勇気に心からお礼を申し上げます。ありがとうございます』
オレとアシェラ達が一斉に頭を下げた所で、諸侯たちからはどよめきが湧き上がった。
これは式典に挑むに当たって決めていた事である。エルは使徒であり妖精族の王になる男だ。他種族の王へ正式な場で頭を下げるなど出来るはずが無い。
しかし、オレは違う。使徒として世界を救うし、始祖として国も作る……だがオレが頭を下げる相手はオレが決める。
それが無理を言って平民になった、オレの望みなのだから。
『あ、アルド様、頭を上げてください。アナタ様は使徒……この世界の救世主です。我等に頭を下げる必要などありません』
『いえ、グレートフェンリル王。私は使徒ではあってもただの平民です。であれば、恩には恩を誠意には誠意を返す事に、何の支障もありません。これは私の本心です。全ての獣人族へ最大の感謝を……』
『アルド様……アナタと言う人は……分かりました。諸侯よ、聞いたな。使徒様は我等に感謝を示された。私はこの国の王として、共に歩む道が正しい道だと、心の底から確信した次第だ』
オレ達は改めて、王の言葉へ再度 全員で頭を下げ感謝を表したのである。
そこからは宰相や諸侯の代表の挨拶が続いたが、誰からもあからさまな反対の意見は出なかった。
まぁ、式典の最中にそんな事を言うくらいなら、予め反対しておけって話なのだが。
そしていよいよ宰相がオレへ促してきた。
『では今代の使徒であるアルド様、マナスポットの解放をお願い致します」
『はい、分かりました』
オレの返事で、この場の緊張が一気に高まったのが分かる。
それはそうだろう。マナスポットの解放など伝承で伝わっているのみで、誰も見た事など無いはずなのだから。
この場には、ある種 張り詰めた空気が満ちている。
アシェラ達は従者としてグレートフェンリル側を向く中、オレだけがマナスポットへ進み出た。
うーん……マナスポットを前にしても、主不在だと やっぱり何も感じない。何か少しでも感じられれば……そう思ったのだが、どうやら無理そうだ。
『では解放します』
そう声を上げ、ゆっくりと右手の指輪をマナスポットへ触れさせた。
その瞬間、沸き上がったモヤからアオが飛び出して、マナスポットの上で丸くなる。
ふぅ……後はアオが起きる30分後に、フェンリルが来てくれれば完了か……
そう肩のチカラを抜いた所で、緑と銀が混ざったモヤが沸き出して、中からフェンリルとドライアドが飛び出してきやがった。
「来てあげたよーーー。フェンリルの子供達ーーーー」
「わんわん! わぉーーーーん!」
お、お前等! いきなり何を! しかもドライアド、お前、フェンリルの背中に乗って!
それじゃ、獣人族がエルフの下みたいじゃねぇか! ヤメロ……頼むから止めてくれ……
オレも含め、この事態に対応できる者などいるはずも無く……この場の全員が、呆然と立ち尽くすしか出来なかったのである。
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