512.難問
512.難問
グレートフェンリル王都へ帰還して2日が過ぎた。
この間は、王やドーガ、宰相や重鎮達が代わる代わる訪れ、お褒めの言葉を頂いている。
今も何処かの貴族家の当主が、お祝いの言葉を告げ帰っていった所だ。
「ハァ……いい加減 疲れてきたな。サッサと王都のマナスポットを解放してブルーリングへ帰りたい」
「そうだな。オレもそろそろカナリス領へ向かわないと……1ヶ月と少ししか経ってないが、あまり長い期間 空けてると、余計な面倒が増えるんだよな」
「オレもだよ……やらないといけない事が山積みだ。国外追放が終わったから王子へ挨拶に行かないといけないし、新しい街を作るため残り2つのマナスポットも解放しておきたい……それにアルジャナへの旅は中途半端になってる」
「お互い、ノンビリしてる暇は無いって事だな」
「ああ。ただ、ここ王都のマナスポット解放は、獣人族からすれば最重要案件だ。急かして無い腹を探られるのも面白くない」
「確かに……なんだかんだ言っても、まだ王都へ帰ってきて2日しか経って無い以上、ジックリ待つしかないだろうな」
ルイスと愚痴を吐き合っている所で、乱暴にノックの音が響きドーガが嬉しそうな顔で入ってくる。
お前なぁ……ノックの後に入室の許可をもらわないと、意味が無いだろうが!
呆れた空気を出すオレ達へ、ドーガは気にした様子も見せず、そのまま楽しそうに話し始めた。
「アルド、やっとマナスポット解放の許可が下りたぜ。これで何時でも来れるようになるんだろ? それと直ぐにでもフェンリル様は来てくれるんだよな?」
「オレが何時でも来れるようになるのは確かだが、フェンリルが何時 来るかなんて分からないぞ」
「は? マジかよ? フェンリル様が来てくれるって無理を通したんだぜ。どうするんだよ」
コイツは……何度も話しただろうが! 精霊は気まぐれで、お願いするしか出来ないって。
まぁ、フェンリル自体もここ王都に来たそうにしてたから、何処かのタイミングで来てはくれるだろうが……
しかし少しマズイな……グレートフェンリル側がこの件を当てにしてたなら、オレが嘘を吐いたと取られかねない。
「マジか……アオに頼んでみるしか無いか……」
「アオってのは、お前の精霊様だよな? 頼む! 会議の席で啖呵を切っちまって、マナスポットを解放する際、フェンリル様が来ないと少し問題になっちまう」
おま! 何やってるんだよ!
オレはこの時、何故か日本での言葉を思い出した。曰く「無能な仲間は、どんな敵より恐ろしい」と……
しかし、この件は早目に手を打っておいた方が良さそうだ。
「取り敢えず、直ぐにアオへ聞いてみる。ちょっと待ってろ」
本当にコイツは……心の中で悪態を吐き、指輪へ魔力を流したのである。
「どうしたんだい。急に呼び出して」
「少し頼み事があるんだ」
「何だい? でも面倒事は嫌だよ。アルドは甘い顔をすると、どんどん付け上がるから」
「大した事じゃない。実はここのマナスポットを解放する事になった。その際フェンリルを呼んでほしいんだ」
「お、やっと解放できるのか。長かったね。でも、こんなに何年もかかるなんて……人の考える事は本当に分からないよ」
アオは器用に肩を竦めながら、呆れた様子で小さく首を振っている。
「人には色々と事情があるんだよ。それよりフェンリルは来てくれるのか?」
「そんな事、僕に分かるわけ無いじゃないか。直接、本人に聞きなよ」
「本当はオレもそうしたいんだ。でも、ここからじゃマナスポットは遠すぎる。頼む、アオ。聞いて来てくれないか?」
アオは露骨に嫌そうな顔をしつつ、心底面倒臭そうに口を開いた。
「もぅ、僕に使いっ走りをさせるなんて……1つ貸しだからね。今度、シャーベットかケーキを作ってもらうから!」
「分かったよ、約束する。いつもありがとな、アオ」
ここでコイツの機嫌を損ねるのはマズイ。下手に出て礼を言うと、満更でもなさそうに消えていく。
チョロいぜ、精霊。
数分が過ぎた所で、機嫌の良さそうなアオが青いモヤから飛び出してくる。
「フェンリルに聞いてきたよ」
「で、どうだった?」
「解放する日を教えてくれれば、喜んでやってくるってさ。それとお願いがあるって言ってたよ」
「お願い?」
「地竜の王のチビの事だ。どうやら久しぶりの王都を、チビと2人で見たいんだってさ」
え? チビって……地竜の王チビさんの事だよな? 確かに彼は使徒ギギの従者だったから、王都に愛着があるのは分かる。
でも放置されていた以前なら兎も角、今のマナスポットは神殿が建てられ、とてもあの巨体が入るスペースなど無いんですが……
「あー、うーん……無理じゃないか? 普通の地竜でも厳しいのに、チビさんの大きさだと間違い無く入れないぞ」
「そんな事、僕に言われても知らないよ。僕だってフェンリルから頼まれただけなんだから」
これはどうすれば良いんだろう……ドーガを見ると、頭に?を浮かべている。
「ハァ……実は………………」
アオが面倒臭そうに帰った後、チビさんが地竜だと言う事は内緒にしてドーガへと説明していった。
「は? ギギ様の従者が生きてるのか? 嘘だろ……ギギ様が眠られて何百年経ってると思ってんだ……」
「あー、まぁ……一応、生きてるのは間違いないかな? 実際にフェンリルを「兄ちゃん」、使徒ギギを「父ちゃん」って呼んで、話してるのを見た事がある」
「マジか……ギギ様の従者……アルド! 是非、その方も招きたい! これはグレートフェンリル上げての祭りになるぜ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。えーっと……実は、そのチビさんは人じゃないんだ……」
「なるほど、そりゃそうだ。人が何百年も生きられるわけねぇもんな。それで、そのチビさんってのは精霊なのか?」
「あー、どう言って良いんだろ……ちょーっとだけ違うかな? 凄く良い人? なんだけど、もっと、こう何て言うか……身近と言うか……凄い存在と言うか……ハハハ……」
「お前がそこまで言うなんざ相当だな。でも精霊じゃ無いなら、何なんだ? 数百年も生きる生き物なんて、オレは知らねぇぞ。勿体ぶらずに教えてくれ」
くそっ……どう言いつくろっても、上手く説明できる自信が無い。こうなったら野となれ山となれだ! もぅオレは知らん!
「………………地竜」
「は? 聞こえねぇぞ。何だって?」
「だから……地竜」
「何でそこだけ声が小せぇんだ。聞こえねぇんだよ! ハッキリしゃべれ。男だろうが!」
おま、ワテクシが女々しくて女の腐ったようなヤツとおっしゃるか?
分かった。良いだろう。耳の穴かっぽじって良く聞きやがれ!
「地竜だよ! しかもただの地竜じゃない。地竜の王と呼ばれる存在だ。オレは未だかつて、あの人より強い存在を見た事が無い!」
オレの言葉が信じられないのだろう。ドーガは眉を寄せて、アホを見るような目で首を傾げている。
「オレは正気だよ! チビさんは地竜の身でありながら、過去には使徒ギギの従者として世界を旅したそうだ。フェンリルもこの事は認めてる。そのチビさんが、使徒ギギの子孫と懐かしい王都を見たいって言ってるんだとよ!」
ここにきて、オレの言っている事が本当だと悟ったのだろう。
ドーガは目に見えて、動揺しながら口を開く
「ちょ、ちょっと待て! ち、地竜がギギ様の従者だと……しかもフェンリル様の弟……」
ドーガの反応から、恐らくチビさんの事は獣人族で伝わっていなかったのだろう。
確かに以前、チビさんは言っていた。「ギギの子供達にも、我を恐れる者が現れ始めた」と。
それに本来、使徒は魔物を屠って世界を救う存在である。その使徒 本人が、魔物である地竜を従者としていたなど、そんな事実を後世に知られたく無かったのかもしれない。
「ドーガ、これはチビさんから直接聞いた話に、オレの推測を混ぜた物だ。聞いてくれ。遠い昔………………」
チビさんにまつわる諸々を説明した後、ドーガは合点がいったように小さく頷いた。
「ギギ様が自分で温めて卵を孵したのか……それで父ちゃん……そんでギギ様の隣にいたフェンリル様は兄ちゃん……なるほどな……」
「ああ。その頃のチビさんはまだ幼かったらしいが、使徒ギギが自分の死期を悟った頃には成竜になってたそうだ。チビさんの話では、使徒ギギの子孫にも恐れる者が現れていたらしい」
「そりゃそうだろ。いくらギギ様の従者だたとしても、地竜は魔物……魔物の王と言って良い。恐れる者が出るのは当たり前だ」
「しかも肝心の使徒ギギの寿命は残り少ない……後世でチビさんと子孫が争う事を懸念して、辺境の地でマナスポットの番人を頼んだんだと思う」
「家族と子孫の争いか……そりゃ確かに、誰だって見たく無いわな」
「ああ、そうだな。で、今回の件になる。たぶんフェンリルは、今回を逃せばチビさんがこの地を踏む事は無いと思ってるんだろうな。フェンリル自身も、無理矢理アオの配下になる事で地上へ出られている以上、本来はこんな事はあり得ないんだろう」
「お前の精霊様……確かマナの精霊様って言ってたよな? オレ達には、マナってのはこの世界の根源って伝わってる……そのチカラのお陰か……」
「ああ。本人曰くマナの扱いは精霊王の次に上手いそうだ」
「せ、精霊王様の次……ちょ、ちょっと話のスケールがデカ過ぎて、オレには理解できそうにねぇな」
「オレも一緒だ。正直、アイツの話す意味が良く分からん」
「使徒でもかよ……それじゃ、オレなんかが分かるわけねぇよな」
話がだいぶ脱線してしまったが、チビさんの説明はこれぐらいで十分だろう。
そろそろ今回の最大の難問である、チビさんの大きさについて話さねば……
「ドーガ、実はもう1つ特大の問題があるんだ……」
「は? これ以上、何があるんっつぅんだ? もう十分だろ!」
「いや……実はチビさんの大きさなんだが………………」
チビの大きさについて細かく説明していくと、ドーガは徐々に口を開き、終いには遠い目で呆けてしまった……おーい、帰ってこーい。
少しの時間が過ぎた後、ようやくドーガの目に理性の光が灯り始める。
「ハァ……これ、どうすりゃ良いんだよ……しかも神殿を壊すって……アレ、出来たばっかり……まだ細かい部分が未完成なんだぜ……」
「うわ……まだ完成してない建物を壊すとか……オレがドーガの立場なら、絶対に飲めない案件だ」
最悪はこの王都にも広場がある事から、魔瘴石を使えば問題は解決できるのだが……こんな事で魔瘴石使うの? えー、勿体ない。
でもチビさんには世話になってるしなぁ……皮を貰って、命も救ってもらったんだよなぁ……
オレは、解けない難問を前にした学生のように固まっていたのであった。




