4.ママンの憂鬱
4.ママンの憂鬱
魔力操作を教える少し前の夜の事。ラフィーナは最近、不安が膨らんでくるのを感じていた。
最初は不安なんて欠片も感じず、ただ誇らしく、単純に嬉しかったのだ。
いつ頃からだろう、その気持ちが徐々に不安に変わっていったのは……双子の兄アルドの成長が早すぎる気がする。
言葉も弟のエルファスとの差は比べるまでもないほどだ。双子でこんなに差があるものだろうか?
子供達が眠りに付き少し静かすぎる居間で、私はヨシュアに今の自分が感じている不安をさらけ出した。
「アルの成長が早すぎる気がするの……」
前触れも無くいきなり話し出した私を見つめながら、ヨシュアはやさしげに話し出す。
「確かに……エルぐらいが普通なんだろうねぇ」
ヨシュアの言葉に私は、胸の中の不安が膨らむのを感じた。
「やっぱり……どうすればいいのかしら……」
膨らむ不安と思いつかない解決法、私はただ狼狽えるしかできない。
「ラフィは何を悩んでるんだい?成長が早いのは喜ばしい事じゃないか」
ヨシュアの言葉が一瞬、理解できなかった。喜ばしい?え?意味が分からない。
「え?だって……人と違うのは……」
最初の不安とは違いヨシュアの言葉に狼狽えている私を見つめながら、小さな子供に諭すように話をはじめる。
「僕のラフィ、聞いて欲しい。僕は人と違いがあるのは問題じゃないと思う。むしろ違いがあって当たり前だ。そんな事より大事なのは“その者がどうあるか”だ。アルはとてもやさしい子だ。僕は彼を誇りに思うよ」
私は頭の中が真っ白になった。
ヨシュアは私を安心させようと、わざと軽く言っている、それは分かる。
成長が早いのは大きな事だ、それだけで気持ち悪がられて排斥されるかもしれない。
ただ、ヨシュアが言うようにアルは優しい子に育っている。それは“成長が早い”事よりも大事な事に思えた。
成長の仕方についても文句のつけ処がない。もしも今のアルの年齢が10歳だとしたら、私は小躍りして喜ぶだろう。
「どうあるか……そう、そうよね……アルはちょっと人より成長が早いだけの優しい子ね」
アルはとても優しい子。今はそれだけで良い……心からそう思えた。
「そうさ、きっと賢いのは君に似たんだ。君と結婚して良かった理由がまた1つ増えたよ」
「何も心配する事なんて無かったのね。良かった……ありがとう。本当にありがとう……愛してるわヨシュア」
「僕も愛してるよ……ラフィ」
ヨシュアの言葉に頬が赤くなる。また少しこの人が好きになった、心の中でそう呟いた。
何を悩んでいたのか、コロリと誤魔化されて……げほげほ 2人の影が重なって寝室へと消えていく。
閑話休題--------------------
深夜の子供部屋、音を出さない様にゆっくりと扉が開いていく。部屋に入ってきたのはヨシュアだった。
ベッドの横に移動すると特に何をするでも無く、子供達の寝顔を見つめている。
(これはヤバイですねぇ。かわいすぎます。お揃いの寝巻ですか!イイ!これはイイものだ!)
何をしに来たのかと思えば……ただ2人の寝顔を見て微笑んでいるだけだ。
(お、エルの爪が伸びてますねぇ、明日メイドに言って切ってもらわねば……これは……)
ひとしきり、たわいない事を考えた後、安らかに眠るアルドの顔を見つめる。
(アル……あまり心配かけさせないでくださいね。ラフィには、ああ言いましたが、君の成長は少しばかり早過ぎる)
違うモノは排除される……おかしな話だ。果実だって肉だって味は微妙に違う。そこらに転がる石だって同じ物は一つとて無い。果ては空の景色すら日によって違う。
しかし実際には種族、習慣、性別、あらゆる“違い”で争いが起こる。宗教なんてその代表だ。同じ神を信じ、その神が争いを禁じていても“違い”を探し出して争いだす。
(いつか“違い”によって苦しむ日が来るかもしれない……そして傷つけられる時が……だけど、その優しさだけは失わないで欲しい……君が巣立つ日までは僕が守るよ、約束する……)
アルとエルの寝顔から視線を外し、音を立てない様に扉まで移動する。部屋を出る前に、もう一度2人を見つめ
(じゃあ父さんは母さんの所に戻るよ。2人共おやすみ……)
そっと扉をしめるのだった。




