その2-2
疲れている毎日の中で、さらに頭を悩ますこと出来事があった。
それは、五月のある日の事。
教室に入ろうと廊下を歩いていると、大声が聞こえた。
「なあ、だって、作りたいよな」
大声で叫んでいたのは涼介だった。
「待ってよ、」
それを止めたのは美月だった。美月は涼介の発言にいつも真っ向から挑んでいる。クラスの女子からも信頼されていた。しかし涼介の声が聞こえた瞬間に。私は嫌な予感がした。
「いいじゃん。みんないいよな」
涼介はみんなを煽るようにさらに声を上げる。
「ちょっと待ちなさいよ」
雲行きが怪しいと思ったのか、美月は慌てて涼介を止めようとしていた。
何のことで揉めているかというと、十月に催される学校祭りについてだった。学校祭りとは分かりやすく言うと、文化祭みたいなもので、この学校では各クラスの教室で店舗を構え、来てくれた人に遊んでもらう。まだまだ先の話ではあるが、準備の都合上、今の時期から決めなければいけないようだった。昨日の学級会の話し合いではこのクラスの出し物は二つに絞られ、お化け屋敷と射撃ゲームのうちどちらかにしようという話になっていた。
涼介は射撃ゲームをやりたいと言っているのに対し、美月はお化け屋敷を希望しているので、意見が拮抗した。いくら話し合っても互いに一歩も譲らない。やがてチャイムが鳴り、もう一度話し合いの機会を設けると決まったところで学級会を終えた。
「もう決まりだろ、みんな賛成だって言ってるし」
「何言っちゃてんの?」
美月は同調してくれる仲間を求め周りを見渡した。しかし、周りの反応はは彼女の期待とは裏腹に全く逆だった。
「う、うん、射撃でいい」
「わ、私も」
おびえながら答えているクラスメイトの表情から、きっと涼介に強引に言わされているのだろうと美月は推測しているようだった。
「ちょっと卑怯なんじゃないの?」
「ほらな、じゃあ決まり」
「ねえ……」
美月は結論に納得できず、困り果てた声を出した。みんなが自分の意思で選んだならともかく、涼介の言いなりになって決めるなんてまっぴらごめんだ、と怒り出しそうな状態なのが彼女の表情からは容易に想像がついた。
「先生! 男子たちが勝手に決めてる」
美月の様子を見て、他の女子からも弱々しいながら助けを求める声が上がった。
「勝手じゃないだろ。みんないいって言ってんじゃん」
「先生!!」
美月と一緒にいた数人の女子が私に視線を集中させた。
「ちょとまって、青木君、もっと話し合ってからにしない?」
私は涼介のやり口に嫌な気持ちになりながらも口調はあくまで穏やかに問いかけた。
「いいんですよ、もう話したじゃないですか。決まり決まり!」
涼介がパンパン、と手を叩くといつも一緒にいる男子が「いえーい」と言って騒ぎ出す。
私は顔をしかめ、女子達ははっきりとした態度を取らなかった私を見てひそひそと何か話している。
最近の涼介の行動は目に余るものがある。私は思い通りにならない現状にため息を零した。