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ホイールオブフォーチュンー1  作者: 充 龍斗
11/19

その2

話しかけてきた先輩の名前は住野恭平。年齢は三十代半ばと聞いたが、年齢の割には若く見える。二十代前半と言われたら信じてしまいそうだ。どこか不思議な感じが多く、掴みどころがない。

その印象と本人が何も語らないせいか、彼の噂は絶えない。多くの学校を転々としているらしい、いろいろと問題を起こしていたとか、ある高校では生徒と飲み会を開いてベロベロに酔っぱらっては大騒ぎになっていたとか…等々。

よくもまあここまで変な噂がついてくるとは……と、私も噂を聞いただけなので真相はわからないが、ここまで言わしめてしまうくらいだから、きっと何かはあるのだろうと思ってしまう。

顔はかなり整っていてモテそうなのだが、教師とは思えない奇抜な色のシャツとジーンズにサンダル、長く伸ばした髪など、見た目はかなり怪しい。話しかけても上の空でいつも返事は的を得ていない。

そんな人なので、嫌悪よりも面白く、変わった人という印象の方が強かった。同じ学年を担当していることもあって、一緒にいることも多く、話をすることも多いので変わっている人であることはつくづく感じる。

 まあ、仕事は当たり障りなくこなすし、教わることも多いので嫌な感じはなかった。



始業式から三週間が経った。それだけ日が経つと慣れからか、学校に通うことや周りから先生と呼ばれることに違和感はなくなっていた。そんなことを気にしている余裕がなかったと言った方が適切なのかもしれない。

いつもの朝、六時半の出勤。私は段々とこの時間に登校することが習慣になってきた。早く来て授業の準備をする。プリントの印刷、教科書を引用しての教材作成。教材づくりは地味に手間がかかる。

古い印刷機は動くのにとても時間がかかるため印刷が遅く焦る。パネル操作をすると、大きな音ともに印刷が開始し次々とプリントが出てくる。

最初はこの規則的な音が眠気を誘い、困ったのだが、慣れてくると印刷を横目に別の作業ができるほどになっていた。教師になって子供と接する中で心を動かされるような出来事もあったが、そういったことも、忙しさが増すたびにどうでもよくなっていく。

教材を作る作業はとにかく量が多く、生徒が帰った放課後にすぐ取り掛かりたいところだが、そんな時間はない。放課後は保護者への電話、連絡帳に長々と質問や要求を書いてくることが多々ある。その場合電話すると大概は長電話になる。学年作業、それ以外の部会の打ち合わせ。仕事が毎日山のように降ってくる。

特に大変なのが会議……長々話して、大して進まない。小さな報告から、こまごました日々の業務の流れまで全て会議で延々と説明する。長い時は二時間以上も会議室で机を囲んで三十人以上の先生たちが座り、書類とにらめっこしながら話をする。

 住野先生は横で寝ていて、毎度大崎先生に足を蹴られて起き上がる。

「こんなもの書いてあることなんだからわざわざ読む必要ないだろう」

 蹴られた足をさすりながら、そんな愚痴をいつも住野先生は言っている。

 

 ようやく全てが終わる頃には大体十九時をまわっている。その後は生徒たちの書いた作文や日記の添削があり、おまけに初任者(会社だと入社一年目)は研修の課題レポートも作って提出する。休みなく働いても気が付けば二十一時、遅い時は二十三時近くに退勤することがあった。

そんな多忙の毎日を送っていく中で、様々な感覚が麻痺していっている自分に気付いた。時間、日にち、さらには空腹の感覚もわからなくなり、残った感覚は眠気だけになった。どこにいても眠くなるので、ずっと寝ていたいと考えながら日々を過ごしていた。


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