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01-2 茉莉、初詣に行ってきます

 スマートフォンを取る。ちょっと控えめながら明るい声が聴こえてきた。

野々村茉莉(ののむら まり)さん、あけましておめでとうございます」

 なんなの、その言い方。すごく変だよ。

 けど不思議なの。なぜかこっち、口元がゆるみはじめるの。

「東堂太郎係長、あけましておめでとうございます」

「今年もよろしくね、茉莉ちゃん」

「うん」

 向こうの上機嫌な表情が手に取るようにわかる。

 さっきまで、そこはかとなく漂っていた控えめな雰囲気が消し飛び、いつもの『同期の会話』モードになっていく。

「ところでさ。茉莉ちゃん。元旦早々、なにしているの? 今、ヒマ?」

「やだなあ、もう」

 まるでわたしがヒマを持て余しているに違いないとでも言いたげな。ええ、実際にヒマなんですけど。

「なんで笑うのさ」

「だって。こっちのこと、ものすごーく決めつけているみたいだったんだもの」

「でも茉莉ちゃん実際にヒマでしょ、すぐに電話取ってくれたし」

「う、うん」

 声に詰まったところ、からからと笑う東堂の反応がくやしい。でも事実なので言い返せない。

「じゃあさ、初詣は行った?」

 あっちの愉しそうな声の響きに、ついつい素直になってしまう。

「まだだけど」

「あっ、そうなの。じゃあ一緒に行こうよ。お初天神」

「えー」

 なんとなく予想していたものの。

 係長、わたし。さっき顔を洗ったばかりなんですけれども。

「ちょ、ちょっと待って。東堂くんこそ、東京に帰っていたんじゃなかったの」

「それなんだけどねえ」

 スマートフォンの向こう側、骨ばった手のひらで顔半分を隠している彼の姿が目に浮かぶ。

「弟がインフルエンザに罹っちゃって。とてもじゃないけど実家で正月なんて過ごせない」

「それで、わたしに白羽の矢を立てたのね? 時間潰しのために」

 冗談めかしたつもりだったんですが。

「そんな」

 東堂から伝わる雰囲気が、かすかに変わったことを感じた。しまった、と思ったと同時。

 ふたたび言葉が投げかけられる。

「せっかくの正月休みなんだから、気の合う人と一緒にいたいよ。俺だって」

「うん」

 こめかみをぽりぽり掻きつつ、頭をぺこぺこ下げながら。わたしは会話を続ける。

「着替えたりするから、一時間半くらいあとに。梅田の改札まで迎えに来てくれたら、うれしいんだけど」

 わたしがそう言うと、東堂はとても爽やかに「オッケー」と言ってくれた。

「じゃ、待ってるねー」

 電話を切ったあと、ちょっぴりだけせつなくなった。




  




 


  



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