第七話
スリザリー王国は世情不穏の中、第三次ラトロワ征伐が始まった。新しく大将軍になったシルバー・ハート率いる総勢10万の軍が盛大な閲兵式を行い、そのままミカロス城へと向かった。シルバーは長期戦を覚悟し、屯田兵による農地開拓を推し進めた。両軍は小競合いはなく互いに睨みあったまま2ヶ月が過ぎた。ミカロス城では2ヶ月も滞在するスリザリー軍に違和感を覚え、斥候を使い調査した結果、兵士たちが畑を耕していたという情報を得た
【シメイ・エルサレム】
「敵は長期戦の構えを取っている。敵は畑を耕し、警備も一段と厳しくなっている。このまま睨み合いが続けば、我が軍の士気にも関わる。」
そこにラトロワ軍の参謀であるオータムが名乗りを上げた
【オータム・ストーン】
「畏れながら某に策がございます。」
【シメイ・エルサレム】
「オータムか、どのような策じゃ?」
【オータム・ストーン】
「はっ、失礼いたします・・・・参れ!」
オータムが呼び掛けると2人の男が入ってきた。1人は手に笛を持っており、1人は通常よりも大きいクロスボウを持っていた
【シメイ・エルサレム】
「オータム、その者たちは何者だ。」
【オータム・ストーン】
「この者たちは一芸に秀でた隠密にございます。1人は笛の名手、1人はクロスボウの名手にございます。」
【シメイ・エルサレム】
「ほぉ~、笛とな、吹いてみよ。」
【笛の隠密】
「はっ!」
隠密の1人が笛を吹き始めた。笛の音は美しく、心地よい音色で、シメイが思わず聴き惚れてしまうくらい見事な笛の腕前だった
【シメイ・エルサレム】
「うむ、見事な腕前だ、それでどうするのだ?」
【オータム・ストーン】
「はい、この笛の音をスリザリー軍の総大将であるシルバー・ハートに聴かせ、もう1人の隠密がクロスボウを使い、シルバー・ハートを射殺いたします。」
【シメイ・エルサレム】
「射殺とな。」
【オータム・ストーン】
「御意、説明いたせ!」
【クロスボウの隠密】
「はっ!私のクロスボウは改良に改良を加えており、最大飛距離400mまで放つ事が可能です。」
【シメイ・エルサレム】
「大弓(長さ2m)と同じ飛距離ではないか!」
【オータム・ストーン】
「はい、この2人を使い、膠着した戦況を変えたいと存じます。」
【シメイ・エルサレム】
「うむ、やってみよ。」
【笛&クロスボウの隠密】
「御意!」
場所は変わって、ここはスリザリー軍の陣地、睨み合いが続き、将兵たちの間では厭戦気分が漂っていた
【スリザリー軍の将軍A】
「大将軍、もう2ヶ月が経ちます、兵たちも国に帰りたがっています。」
【シルバー・ハート】
「それはならぬ!何としても雪辱を晴らすのだ!」
【スリザリー軍の将軍B】
「しかし何の進展もありません、小競り合いもなく皆の士気は下がっています。」
【シルバー・ハート】
「これは亡きゴードン大将軍の弔い合戦だ!退くことは罷りならぬ!」
軍議の場はピリピリしたムードの中、突如、笛の音がスリザリー軍の陣営に響いた。確認をするとミカロス城から笛の音がした
【シルバー・ハート】
「うむ、美しい音色だ、荒んだ私の心が和む。私は席を外す。」
【スリザリー軍の将軍C】
「護衛を!」
【シルバー・ハート】
「心配いらぬ。」
シルバーはそういうと笛の音がよく聞こえる場所へ移動した。椅子に座り、笛の音を聴き入っていた。シルバーは一時だが心が安らぎ、静かに聴いていたが・・・・ヒューーーン
【シルバー・ハート】
「ぐっ!」
シルバーの額にクロスボウ用の矢が突き刺さり、そのまま絶命するのであった
【スリザリー軍の兵士】
「大将軍!」
兵士たちが駆け付けたが、既にシルバーの命は尽きていた。将兵たちはシルバーが死んだことを悟られずに静かに撤退を開始した。追撃部隊を警戒しつつ、何とかスリザリー王国の国境を抜けることができたのである。スリザリー軍の撤退を確認した後、ラトロワ軍はスリザリー軍が作った畑を焼き払った。こうして第三次ラトロワ征伐は3度目の失敗に終わったのであった