ダンジョンが産まれた理由
「全てが・・・繋がっている?」
「そうだね、順を追って説明していこう。
ただ、細かく話すと長くなるので簡潔にさせてもらうが・・・先ず魔王と戦う時にはソフィアは既に妊娠していた。
そして、魔王は死の間際に全魔族の生命力と魔力を吸い上げてソフィアのお腹の中にいた子供にそれを押し付けたのだ。
次代の魔王にするために」
「そんなことが・・・しかし、ターニャは魔力が一切なく魔法が使えないと言っていましたが?」
エドは疑問に感じたことを口にする。
今の話が本当なら身体能力の高さは理解ができるが魔力が全くないのはおかしな話である。
「話の続きでその疑問も解消されるだろう。
ソフィアはこのまま産んでしまって大丈夫か悩んでいたようだが、産まれてくる子供に罪はないとブレッドが常に側に寄り添って励まし生活は順調に見えた。
だが、胎児の頃から魔王の力は胎児の頃から馴染ませていたターニャ君と違いソフィアに、そして共に暮らすブレッドの命を少しずつ削っていった。
自身の運命を悟ったソフィアは一か八かの賭けに出た。
それは魔王の力を自身を媒介にして外に放出することだった」
「・・・まさか、それがダンジョンの始まり・・・」
ルイスから与えられた情報によりエドは結論を導き出した。
「そう、彼女が力を放出し終えた時、そこには巨大なダンジョンが出来上がっていた。
入り口に大きな声で泣き叫ぶ赤ん坊を残して・・・。
その時にはソフィアの姿は影も形もなかった。
敢えて言うならばあのダンジョンが今のソフィアの姿なのだろう」
「そんな事が・・・」
想像を超えた話にエドは言葉が出なかった。
「この時に誤算だったのか狙ったのかは分からないが、ターニャ君が本来持つはずだった魔力すらも吸い上げてしまったのだ。
だから彼女は全く魔力を持たない子供として産まれたのだよ。
ブレッドはその事をとても喜んでいた。
彼の中では魔王も魔族も、そして妻を失ったことも全て魔力が原因だと思っていた節があったからね」
「暴論だと思います・・・しかし、自分が同じ立場に置かれていたなら、その考えに至ってもおかしくはないかもしれません」
「そうだな・・・私もそう思ったよ。
それから私達はダンジョンに潜ってソフィアが何処かにいないか探した。
そしてすぐに気付いたよ・・・これは私達が魔王を倒すために旅した場所が再現されているとね。
私達は森を通り抜けて山を登り、その山の洞窟を抜けた先にある毒沼を越えて魔王の城にたどり着いた。
彼女の思い出で構成されているダンジョンを見て何となく気付いてしまったんだな・・・彼女は死んでしまって、その魂の名残でこの場所が出来ているんだと」
そう語るルイスの顔は本当に辛そうで悲しそうで、今にも泣いてしまいそうな表情であった。
「ブレッドはそれに耐えられなかった。
彼は産まれたばかりの娘を連れて逃げるように旅に出てしまったのだ。
私はこの場に残り守る事を選んだ。
他の場所のダンジョンがどのようにして出来たかは分からない。
しかし、この場所にあるダンジョンは私にとって彼女の墓なのだ。
今後、その墓を荒らしにくる者が多数現れるだろうし、それを止める事が出来ないことも分かっていた。
だからこそ、ここに街を作り街長という名の墓守として守ろうと思ったのだ。
いつか戻ってくるであろうブレッドの為にダンジョン前という一等地を空けつづけながら」
そこまで話したところでルイスは大きく息を吐く。
悲しげな雰囲気はそのままに。
しかし、今まで誰にも話せていなかった真実を語れた清々しさも感じる。
「一つ聞いていいですか?」
「なんだね?」
「街長はソフィアさんに惚れてたんですか?」
「はっはっはっ、私はあの2人が仲良くしているのを見るのが好きだった。
子供が出来たと聞いた時には自分のことのように喜んだんだぞ!
その私が!ソフィアに惚れていたかって?」
ルイスは散々馬鹿笑いした挙句に大きく息を吐く。
「その通りだよ、エドワード君。
彼女が死体も残さずに消えた時、私は本当に後悔した。
振られると分かっていても自分の気持ちを隠すべきではなかったとね。
人生の先輩からのアドバイスだが自分の気持ちには正直になりたまえ。
失ってからでは何もかもが遅いからな」
「肝に命じておきます」
「さて、長いこと話して喉が乾いてしまった。
あそこでお茶にでもしようではないかね」
ルイスはそう言ってエターニャを指す。
「ウチはカフェじゃないんですけどね。
まぁ、話のお礼に出しますけど」
こうして2人はエターニャの中に入っていった。




