ギルドの報告と鍛冶士テム
地上に戻りギルドマスターに三階層のボスを突破したこととその危険性を報告する。
「分かっちゃいたが今のウチの面子では太刀打ちできるやつはいないな・・・分かった!
この情報は公開してボスには近づかないように警告を出しておこう」
「お願いします。
こちらでもあの再生能力を無効化する研究を進めたいと思っているので、それが確立するまでは近づかせないようにしてください」
「分かった。
ところでヒドラを倒した報酬はどうだった?」
そう言われた私は箱に入っていたものをドサドサと机の上に置いた。
「武器や防具は出てないので外れですね。
お決まりのヒドラ素材が入っているくらいなので運が無かったですよ」
「そりゃ残念だったな。
何にしても3階層の突破おめでとうってところだな」
「ありがとうございます。
それでは店に戻りますね」
私は机の上の素材を回収してエターニャに戻る。
「ターニャさん、お帰りなさい!」
「3階層突破おめでとうございます!
本当にすごいですよ!!」
店に戻るとクレスト姉妹が笑顔で出迎えてくれる。
彼女たちの普段着は露出が激しいため、黒のメイド服に白いエプロンを付けてもらっているのだが実に良い。
そんな美少女2人に出迎えてもらえるとダンジョンでの疲れも吹っ飛ぶというものです。
とはいえ・・・
「分かってはいたけど・・・この報告が一番憂うつですね」
私の視線の先にあるのは先ほど使っていた戦斧である。
いや・・・戦斧だったものだ。
実のところ一本釣りをした時点で鎖のギミックは故障した。
本来は柄にあるボタン一つで戻ってくる仕組みになっているのだが全く反応しなくなっていた。
これでは斧を振るうのに邪魔になるので実は戦闘中に切り離していたのだ。
そのせいで脆くなっていた所にヒドラにトドメを刺した直後に刃部分が粉々に砕けた。
つまり今私が持っているのは反応しない謎のボタンが付いた棒である。
「テム〜いる〜?」
私が恐る恐る鍛冶場を覗くとテムは一心不乱に金槌を振るっているところであった。
私の声に気付いたが今は手を止められないらしく
「ちょっと待っててくれ。
この仕上げだけ済ませてしまうから」
と真剣な顔で仕事をしている。
私は適当な場所に腰掛けるとその仕事ぶりをジッと見つめていた。
數十分が経った頃にテムは手を止めてこちらを向く。
「お待たせ・・・ってずっとそこで見てたのか?」
「うん、見てたよ」
私がそう返事をするとテムは困ったような顔で頬をかいた。
「そんな面白いもんでもなかっただろうに」
「そんな事ないよ。
真面目に働いてる姿は普段と違って格好良く見えた」
「おいおい、それじゃ普段が格好悪いみたいじゃないか」
「ふふ、どうだろうね?」
私が意地悪く笑うと照れくさいような困ったような、そんな表情を浮かべた。
「それでどうしたんだ?
何か用があって来たんだろ?」
「あ、うん。
これ・・・」
私は申し訳なさそうにしながら元斧、現棒を取り出した。
テムが一生懸命作ってくれたものなので怒ったり悲しんだりするかと思ったが彼は意外にも冷静であった。
「ああ、やっぱり壊れっちまったか。
最後までは持ったのか?」
「え、あ、うん。
トドメを刺した一撃で全部壊れちゃったかな?
あと鎖のギミックはヒドラを一本釣りした時に」
「ああ、そこまでの大物は想定してなかったからな。
次に作るときはそこも想定しないとな・・・って、どうしたんだ?」
「意外と冷静なんだなって。
せっかく作った武器をその日のうちに壊してくるから怒られると思ってた」
「そりゃ、最初から耐えられないとは聞いていたから想定内だからな。
それにしっかりとした使い方をして壊れたんなら俺の腕がまだまだだって話だ」
「ふーん・・・やっぱり鍛冶士やってるテムは格好いいね」
「それならこの仕事をやっている俺が格好悪いって思われないようにもっと頑張らないとな」
「ふふ、私に出来ることは協力するから頑張ってね」
お互いの顔を見ながら笑い合う。
その後は改良の為の使い心地などを聞かれたりして、この日の時間を使っていったのだった。




