研究科と戦闘科の確執
私は武具が積まれた台車を引きながらアルケさんの店に戻ってきた。
しかし、店内には誰もいない。
「アルケさーん?トマスさーん?」
私が大声を出すと店の奥から2人が出てきた。
「おお、済まない済まない。
遂に講義に熱が入ってしまった」
「講義って・・・何やってたんですか?」
「錬金術の基礎を教わっていたんですよ。
これからは私も初歩の調合なら出来ます」.
トマスさんが調合用の機材を箱に詰めながら話す。
「調合って・・・いいんですか?」
「ああ、問題ない。
いま教えていた程度のことならウチの商売としてはかなり小さいからな。
それよりも後進の指導に当たる方が重要だ。
それが研究科の後輩で戦闘科の鼻を折った人物とあらばこれほど痛快なことはない」
「さっきから聞こえてはいたんですが戦闘科と研究科って何なんです?」
「それは帰りがてら教えますよ。
アルケさん、本日はありがとうございました」
「うむ、またいつでも来てくれたまえ。
トマス君なら大歓迎だよ」
こうして調合した薬類を受け取った私達は帰路につく。
「それでさっきの話って何なんですか?」
私は台車を引きながら尋ねる。
「簡単に話すと魔法学園は二つの学科に分かれているんですよ。
私が所属する研究科は魔法の研究、新たな魔法を生み出すだけでなく、既存のものでも違った使い方はないか?
もっと効率の良い構築は出来ないか?
そう言ったことを研究します」
トマスさんの声が後ろから聞こえる。
1人でも大丈夫だと言ったのだが手伝わせてほしいということで後ろから押してもらっている。
何でも少女に重そうな台車を引かせて大人の自分が横で何もしていないのは、周囲の視線が突き刺さってきそうで耐えられないと言っていた。
「私の魔法学園のイメージって正にそれだったんですよね。
じゃあ、戦闘科って言うのはその名の通りですか?」
「ええ、正に。
魔法を使った戦闘を教える学科ですね。
冒険者を雇ってダンジョンに潜ることもあるようです。
そう言った理由から基本的に研究科よりも魔力量が強くなり、実戦を経て態度が大きくなって研究科の人間を下に見る傾向があります。
いま自分達が使っている魔法は殆どが研究科が作ったか改良したものなんですけどね」
「ああ、なるほど。
アルケさんも元は研究科と話していたから鬱憤が溜まっていたと。
それで戦闘科の人間を倒してしまったトマスさんを気に入った訳ですね。
しかし、話を聞くと本当に良く勝てましたね?」
「ターニャさん、彼らは一階層の入り口付近をぐるぐる回るだけなんですよ。
ボス部屋までは行かないですし、二階層など以ての外です。
更に前衛を雇った冒険者に任せて後ろから魔法を唱えるだけ。
数日間とはいえ貴女に鍛えられた私が負ける道理はありませんよ」
私はその話を聞いて思いっきりため息をついた。
「なんだか下らない話ですね。
井の中の蛙がイキって周りに迷惑かけてるだけというか・・・これは冒険者ギルドもストレス溜まってそうだ」
「ははは、手厳しいですね。
しかし、こうして余裕を持っていられるのはターニャさんのお陰ですよ。
以前の私では黙っているしか出来ませんでしたからね」
「それなら良かったです。
うーん、でも研究科の人達って全員が鬱憤溜まってるんですかね?」
「溜まっているでしょうね。
何せ戦闘科の人間は先程見た通りに横暴な者ばかりですから」
「なるほど、何とかするなら戦闘科の人間の態度を改めさせた方が早いのかな?
ちょっと冒険者ギルドに話を聞いてみようかな?」




