テムの過去
「親方〜こんにちわ」
私は商業ギルドにやってきて親方に挨拶する。
「おう、今日はターニャが来たのか。
テムの奴は元気にやってるかい?」
「はい!毎日楽しそうに制作作業をしていますよ。
これ、テムから親方にって」
そう言って私は鉄製の片手剣を渡した。
親方は真剣な目でテムの片手剣を見ている。
「腕上がってますか?」
「鍛冶の世界ってのは1日、2日で一気に腕が上がるもんじゃねぇよ。
まぁ、新しい環境でイキイキしているのが分かる打ち方ではあるな。
ここにいた時よりはマシなもん作ってるじゃねぇか。
・・・これは俺が買い取る」
親方はそう言って奥に行くと相場より高い値段のお金を持ってきた。
「こんなに受け取れませんよ。
相場通りで結構です」
「いや、うちの数打ち物よりは余程上等だ。
ターニャが丸々受け取るのが心苦しいなら差額はテムに渡してやってくれ」
「そういうことなら分かりました」
親方にそう言われては断ることは出来ない。
私はお金を受け取ることにした。
「あの、親方とテムってどういう関係なんですか?
彼ほど若い見習いは見たこと無いですし、口では色々言いながらも気にかけているのがすごく分かるんです。
ただの弟子とはまた違う感じがして・・・」
「・・・そうだな。
あいつを預かってもらってるターニャには話しておくべきだ。
あいつの両親は父親が俺の弟子で母親が冒険者という変わった組み合わせの、しかしとても仲の良い夫婦だった。
だが、テムが産まれてから悲劇が起きた。
父親の方が病気で倒れてしまってな。
その病気に効く薬草がよりにもよってダンジョンの三階層にあるって話だったんだ。
俺たちは止めたが母親はダンジョンに行ってしまった。
ただでさえ難関と言われる三階層にテムを産んでブランクのある状態で行っちまったんだ・・・結果は分かりきっていたことだ。
程なくして後を追うように父親の方も逝ってしまってな」
親方はそこで一旦息を吐くとコップに入った水を煽るように飲み込んだ。
「そんな悲しいことが・・・」
「残されたのは赤子だったテムだ。
俺は止められなかった後悔から、あいつを育て上げることにした。
ただ、この事を幼かったテムに話す気になれなくてな。
テムはこのギルドの前に捨てられた子供ってことになっている。
そうして赤子の頃から育て上げたから俺にとってテムは息子のような存在なんだ。
まぁ、本人には口が裂けても言えねぇけどな」
親方はそう言ってがははと笑った後で私に頭を下げた。
「今更だがテムの事をよろしく頼む」
「ええ、もちろん。
立派に育て上げて親方にお返ししますよ」
「何なら旦那として貰ってくれてもいいんだがな」
「親方ったら。
テムが私のことなんて好きになるわけないじゃないですか」
私がそう言うと親方はため息をついた。
「あいつもこんな困難な道を選ばなくても良かったのにな」
「何のことです?」
「いや、これはテムが解決することだからターニャは気にしなくていい。
さて、もうそろそろ商売の話をするか」
「そうですね!
今日もお願いします」




