死の神の歓迎
「これで最後ですね!」
私がそう言ってハンマーを振り下ろした事で最後の一体の無力化に成功する。
「見事じゃ。
約束通りに此奴らは解放しよう」
そう言ったイザナミ様の足元では怯えて震える彦三郎さんと道明さんがいた。
「なんかものすごく怯えてませんか?
もう命の危険は無くなったから安心していいですよ」
『ひいいいいいい』
私がそう言って近づくと、叫びながら同じ距離だけ後退りする。
「これ、どういう事です?」
「お主の戦う様は人間からかけ離れておったからのう……加えて黄泉の空気を浴びて恐怖に押し潰されておるのでは無いか?」
「はぁ……自力で帰るのも無理そうですけど何とかなりませんか?」
「そう言うだろうと思って準備はしておる」
イザナミ様が指を鳴らすと怯える2人の意識が失われた。
「死んだ訳じゃ無いですよね?」
「約束だから意識を刈り取っただけよ。
後は黄泉戦に運んでもらいましょう」
腰骨を砕かれた黄泉戦が地面に沈んでいき、新しい黄泉戦が生まれる。
彼らはイザナミ様に敬礼をすると彦三郎さんと道明さんを抱えて何処かに走っていった。
「黄泉比良坂の入り口に置いてくるように頼んだから安心しなさい。
それじゃ、さっきの流れで有耶無耶になっていたけどお話をしましょう」
「そうですね。
私も少し疲れたのでゆっくりしたいです」
「では、こちらに来てちょうだい」
そう言うイザナミ様の後をついていくと、少し進んだところに大きな宮殿が見えた。
「ここが私の住んでいるところなの。
さぁ、入って入って」
「お邪魔します。
ところでイザナミ様の口調変わりました」
「神様らしく表向きはあんな堅苦しい喋り方してるのよ。
でも、こっちの方が性に合ってるわ。
アマテラスはあっちの喋り方の方が良かった?」
「どちらでも楽な方で。
どのような喋り方でもイザナミ様の中身が変わることはありませんので」
「うふふ、貴女のそう言うところ好きよ」
いつの間にか私は神様の好感度を上げていたらしい。
「貴女は気付いていないかもしれないけど私と対等に話せるって信じられない事なのよ」
「そうなんですか?」
「ええ……先程見せた通りに私は死を司る神なの。
だから、私と対峙した人間というのは死の気配を敏感に感じ取って恐怖に震えてマトモに会話できないわ」
「私は平気ですけど?」
「それが普通じゃないって事よ。
貴女は私と対峙しても死ぬなんて微塵も考えていない……それ程に実力のある人間なんてこの目で見るまで信じられなかったわ」
「そうだったんですね……ああ!
だから、こんな洞窟の地下に住んでるんですか?」
私が尋ねるとイザナミ様は少し悲しそうな顔をした。
「ここはこの世とあの世をつなぐ場所だから、死の神である私が管理しなくちゃダメなのよ。
確かに外に出たら大混乱になるって言う事もあるんだけどね」
「うーん……ちょっと待ってくださいね。
気になる事があるので」
私はそう言うと宮殿の外に出て辺りを見回す。
魔力の濃度は十分……むしろ濃ゆすぎるほど。
それなのに魔物の自然発生はなく、イザナミ様が管理する黄泉戦のみしか出ない洞窟。
やはりここは不完全なのだと再認識する。
「何かあったの?」
同じように宮殿を出て尋ねるイザナミ様の顔を見て思った事を口にする。
「この黄泉比良坂をダンジョンに改築しましょう」




