悪夢(弱体)降臨
扉を潜った瞬間に妙な違和感を感じる。
真っ直ぐに進んだはずなのにどこかに転送されたような気がする。
その予想は当たりだったようで私達は見慣れた円形のフィールドに転送されていた。
ここが目的の第六階層であり、その地形はボス部屋しか無かったという事だろう。
「な、なんじゃ!?」
中央付近にいたフードを被った男が突然の来襲に驚く。
「貴方がこのダンジョンの一部の機能を奪った犯人ですね。
大人しく投降してください。
抵抗するなら無理矢理にでも来ていただきます」
私がレイピアを構えて宣言すると男は唐突に笑い出した。
「クックック……獲物が向こうから飛び込んでくるとわ。
出よ、魔族の王よ」
男が手に持っていた杖の先端で地面を軽く叩く。
すると接触面から魔法陣が広がり、カエデや私を襲った男が目の前に現れた……それも3人も。
「ここまで急に仕掛けてくるとは思わなんだが、それでも最低限の仕込みはしておるよ。
いけ……魔王達よ」
男に言われて魔王と呼ばれた3人が動く。
「おいおい、あんなのが3体も出てくるのかよ?」
「怖気付いた?」
「バカ言うなよ、リベンジできてワクワクしてくるね」
「じゃあ、そっちの一体はガイに任せた。
ニーナ、カエデも一体ずつ任せていい?」
「もちろん!
こっちはガツンとやっておくからマリーもしっかりね」
「終わり次第すぐに駆けつけるでござる」
ガイ、ニーナ、カエデの3人はそう答えると各々が敵と見定めた相手に向かっていく。
「お主一人でどうにか出来るつもりか。
舐められたものじゃ……これが何か分かるか?」
男が突き出した手の中に黒い塊が浮かんでいた。
「これはお主から奪った魔力とこの迷宮に染み付いた思い出を合わせたものじゃ。
この力を持って今、この世に最強の魔王女を産み出してくれよう!」
男が掌の魔力を握りつぶすと地面に一際大きな魔法陣が生み出されて輝き一人の人物が現れた。
それは5年前に初めて会った時の姿……そこに角と翼と尻尾が生えた少女。
そして先ほどの男と同じように髪は白く肌は青白い。
更に見るもの全員を和ませるような人懐こい笑顔は一切無機質な表情。
私が姉と慕う人物に姿形しか似ていない別の生き物がそこにいた。
「くくく……これだけの魔力を捧げても一割の力も引き出せぬとは流石魔王女。
だが、そこ一割であっても貴様を捕らえるには十分であろう。
さぁ、その女を捕らえるのだ魔王女よ!!」
声高らかに命令する男に対して魔王女と呼ばれた女性は首を傾げる。
「何故我がそんなことをせねばならぬのじゃ?
何よりお主……誰に向かって命令しておる」
魔王女がそう言って殺気を込めて睨むと男はビクッと身体を震わせた。
何か地面が濡れてきているような気がするがマリーは気にしないことにする。
「そ、そ、そ……それは貴方様の力を取り戻すのにその女が必要だからでございます!」
その答えを聞いた魔王女は体の感触を確かめるように手をグーパーと握る。
「確かに本調子からは程遠い気がするが……此奴を捕らえればそれが治るというのか。
良かろう……女よ、大人しくしておれば痛みは感じさせぬぞ」
そう言って構える魔王女に対してマリーもレイピアを構えた。
「おあいにく様。
私、大人しく捕まるような安い女じゃないの。
捕まえたければ力尽くで来なさい!」




