仲間と戦うということ
5/13 誤字報告適用しました。ありがとうございます。
現在、私たちは特訓場所としてお馴染みのゴブリンのボス部屋前まで来ていた。
ここまでにエドさんの制止を無視して勝手に突撃する事3回。
連携を阻害する動きをした事で2回。
いきなり何かを思いついて叫んで動き出そうとする事4回。
計9発の鎧通しがラーベルの腹部に突き刺さっている。
痛みを伴う事で多少は我慢が出来るようになったのか、動く前に一旦考えて止まるようになってきていた。
ただ、その後に完全に止まるかは別問題であるが。
「今回も雑魚狩りでレベルアップするのか?」
「いえ、それが出来るのはラーベルの制御が出来るようになってからです。
何より、彼自身はかなりの実力があるのでここよりも下の階層に行った方が効率が良いですよ」
そう、ラーベルは実際強いのだ。
恐らく、試験用のダンジョンとはいえ魔物を制限時間まで狩っていたのが要因だろう。
ただ動きが直線的すぎるのでトマスさんのように相手を分析するレベルの上がった知能派にはすぐに見切られてしまう。
優れた身体能力を全く活かしきれない宝の持ち腐れなのだ。
その辺りは私が教え込んでいけば何とかなる。
しかし、その技を覚える前に連携の大切さを叩き込まなければ大惨事を引き起こしかねない。
その為にこの場所を用意した。
「いいですか、ラーベル。
ここはボス部屋と呼ばれて中に強い敵がいます。
それを倒すには皆が力を出し合う必要があるのです」
一瞬ボスと聞いて身体がピクリと反応したが自制は出来ているようだ。
「私とエドさんで雑魚を抑えますので、ラーベルとトマスさんでボスのゴブリンジェネラルを相手にしてください」
私がそう言うとラーベルは嬉しそうに
「必ずボスを倒して見せます!
この拳にかけて!!」
と宣言した。
「いいえ、それは違います。
貴方の役割はジェネラルの攻撃からトマスさんを守る事です。
ラーベルの屈強な身体は守りに非常に特化しています。
攻撃はトマスさんの魔法、ラーベルは守りに徹してください。
これが守れないなら記念すべき10発目は更にキツイ技を入れた上で破門です。
一人の勝手な行動でパーティが壊滅することもあるのですから」
「う・・・分かりました。
ターニャ師匠の言うとおりにします」
「よろしい。
それでは、エドさんとトマスさんもよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」
「緊張しますが何とかやってみますよ」
ボス部屋に到着した私達は作戦とおりに二つのチームに分かれる。
正直、雑魚は瞬殺できるのだがそれではラーベルとトマスさんの立つ瀬がないので程々に相手の攻撃に付き合ってやる事にする。
ホブゴブリンの攻撃を受け流し、時には腕を取り関節を極める。
力を抜いて相手の力の方向を変えることで投げ飛ばすなど技の研鑽に励んだ。
エドさんも暗殺な技を使わずに真正面から攻撃を捌き続けていた。
そうしながらもラーベル達の様子を見ると驚くほどに順調であった。
ジェネラルの攻撃を身体で止めるラーベル。
その間に詠唱を完成させたトマスさんの魔法がジェネラルに突き刺さる。
ラーベルの怪我が酷くなればトマスさんから回復魔法が飛んできた。
ジェネラルは煩そうにトマスさんを睨むが、その視線の先に割り込んだラーベルにより動きを妨害されている。
遂にジェネラルはその場に膝をついた。
その姿を見たラーベルは喜んでこちらの方に向かってきた。
「師匠!俺もやればできましたよ!」
そう言って駆けてくるラーベルに私は怒声をあげる。
「バカ!最後に油断する奴がいるか!!」
私の言葉に驚いたラーベルがジェネラルの方を見ると一旦は膝をついたジェネラルだが、そのまま前傾姿勢からトマスさんの方に突っ込んでいった。
「瞬歩・・・からの鎧通し!!」
私は一瞬でジェネラルまでの距離を詰めると真正面からその突撃を受け止めつつ、頭突きの形になっていた頭に鎧通しを入れた。
ジェネラルの身体はぐらりと揺れて倒れた。
よく見るとその足には投げナイフが突き刺さっていた。
私はそのナイフを拾いエドさんの所に向かう。
「援護ありがとうございます。
助かりました」
「君だけで問題ないとは思ったが一応な」
「いえ、本当にありがたいです」
次にトマスさんの所に向かいます。
彼はいざという時のために防護魔法を自分にかけています。
「トマスさんも問題は無いですか?」
「ああ、助かったよ」
「いえ、無事で何よりです」
私がそう言いつつラーベルを見ると彼は土下座をしていた。
「申し訳ありません、師匠。
罰は何でも受けるので破門だけはご勘弁を」
「いいですか、ラーベル。
私が動き出すのを見越してエドさんは何も言わなくてもジェネラルの勢いを殺す為に足にナイフを投げてくれました。
これが仲間と戦う強さです。
一方で貴方はトマスさんを守ると言う仕事を放棄して彼を危険な目に遭わせました。
前衛が傷付いても後衛が回復させてくれたりして立て直しがききます。
しかし、後衛が攻撃を喰らい倒れるとそれだけパーティが維持できる戦闘時間が減少するのです。
その事を肝に命じておいてください」
私の言葉にラーベルはガバッと顔を上げた。
「そ、それでは破門は」
「最低限の事は守れていたので破門はしません。
但し・・・」
私はニコリと笑うとラーベルの両肩をガッツリと掴む。
「今回の失敗を忘れないためにキツイのは一発入れます。
手加減はしますが死なないでくださいね」
「は、はは。お手柔らかにお願いします」
この日、第一階層全体に野太い男の悲鳴が響いた。
これ以降、ラーベルの暴走癖はかなり抑えられることになる。




