鉄拳教育
さりげなくなろうっぽいサブタイトルに変わっております。
「それでどうして私が師匠なんて話になっているんですか?」
ダンジョンの一階層から侵入して暫く後に聞く。
ちなみに煩いからという理由でラーベルにはまたバインドかけられている。
そんな彼を私は両手で持ち上げた状態で運んでいた。
「彼は私の幼馴染なのですが見て分かるとおりに思い込んだら一直線の直情型バカなんです」
「まぁ、それは・・・」
「見てれば分かるな」
エドさんも先頭で警戒しなくてもこの階層なら自然体で気配を察知できるので会話に加わってきました。
「それで学もなく、仕事も色々とやらかしてすぐにクビになり長続きしませんでした。
自分の適性が武道家であることを知ってダンジョンに突入しようとしたのですが・・・」
「試験で何かあったんですか?」
「あれでモンスターに負けるようなら才能は皆無だと思うが」
「いえ、最下層まで行ってボスは倒せるんです。
しかし、その後に箱を開けて中の物を持って帰還しなければいけないでしょう?」
「ああ、中に無記入の冒険者カードが入ってるんだよな。
一週間も経ってないことだからよく覚えているよ」
「ラーベルは馬鹿だからダンジョンの奥まで行ってボスを倒すということまでしか頭にインプット出来ないんです。
だからボスを倒したまではいいのですが箱を開けずにそのままウロウロしていたらしいです。
箱を開けないことには帰還の魔術は作動しないんですよ。
歩き続けるうちにモンスターを狩るだけのキリングマシーンとなり、制限時間を迎えてチャレンジ失敗を繰り返しているんです」
私はその話を聞いてうーんと唸る。
「でも、ボスは倒してるんですよね?
ダンジョンに潜る許可を与えてもいいと思うのですが」
「その話はもちろん上がったらしいです。
しかし、冒険者ギルドのマスターがこんな簡単な指示すら理解できんものはいらん。
中に入っても一人で野垂れ死ぬだけだ。
パーティを組んだとしてリーダーの命令を理解できないものに何ができる。
下手をすれば此奴一人のミスで全滅するぞ。
それでギルド試験過去最高の失敗回数と共に永久に試験を受ける資格を剥奪されたのです」
『・・・』
あまりの内容に私とエドさんは絶句する。
その間も手は動かして魔物は排除しているのだが。
「ちなみに何回失敗したんですか?」
「ちょうど100回です」
「ぶふっ・・・」
その数字を聞いてエドさんが口を押さえて肩を震わせています。
意外と笑い上戸なのかもしれないですね。
「それでその話と私にどう繋がるんですか?」
「実はこの馬鹿は度々修行だと言って私に襲いかかるんです。
今まではバインドで止めて逃げていたのですが、先日襲いかかられた時にダンジョンでのレベルアップの成果を試してみようかと思いまして。
自分でも魔が差してしまったとしか言いようがないんですがね。
魔法を使わずに圧勝してしまったんですよ。
それでどうやって修行してのかと聞かれて」
「つい私のことを話してしまったと」
「ええ、迂闊でした。
私が一瞬で強くなったこととダンジョンに許可証無しで入れる事を聞いて一目散にこの店に行こうと駆け出しましてね。
何とかバインドで止めて先に挨拶に来たというわけです」
私は両手で抱えているラーベルを見る。
恐ろしいほどのバカなのだろうが憎めない顔をしている気がした。
「仕方ないですね。
どうやっても止まりそうにないので私の方で預かりましょう。
ただ、人の話を聞かないことにはどうにもならないので父さん仕込みの修行法で鉄拳制裁を喰らわしますがいいんですか?」
「それは願っても無い事です。
今のラーベルは躾をされていない獣と変わりませんから。
いえ、しようとはしたんですよ。
しかし、ラーベルは頑丈すぎて殴っても効果はなかったんですよね。
レベルの上がった私なら効果もあるのでしょうが、それも今だけの話ですからね」
トマスさんはラーベルを見てため息を吐いた。
なるほど、本来であればしっかりと躾けられるところを武道家の適性が高かった為に全く効果がなく、そのまま大人になってしまったと言うことなのだろう。
これは教育のしがいがありそうである。
「とりあえず話も理解したので戻しますか」
私はそう言ってラーベルをその場に降ろした。
「それじゃ、魔法をときますね」
トマスさんがそう言って魔法を解いた途端にラーベルの巨体が目の前に迫ってきた。
「うおおおおおおお、ししょーーー!!」
「ふん、鎧通し!!」
「げふぅ!!」
私はその突進を紙一重で躱すと無防備な脇腹に対して一撃入れる。
そのまま吹き飛ばされて木に激突するが死んではいないだろう。
案の定、ヨロヨロと立ち上がる。
「弟子入りを許可してあげるけど私の顔に泥を塗るような行いと判断するたびに今の技を入れます。
いいですね?」
「はい!ありがとうございます師匠!!」
ラーベルはそう言って深々と頭を下げた。
根は悪い男ではないのだろう。
ただ、導く人物がいなかっただけだ。
ならば私が教えてあげるしかないのだろう。
父さんが私にしてくれたように彼もみっちり扱き上げてやろうと私は心に誓うのであった。




