おやすみ
「ここがお二人の部屋ですね……確認なのですが1人一部屋与えられるのですが、本当に同じ部屋で良いのですか?」
「ええ、私たち離れると不便なので」
「一緒の部屋の方が都合が良いのでござるよ」
そう言ってカエデと笑いあうとメアリーさんは自分の顔に手を当てて天を仰ぎ始めた。
メアリーさんは度々こういう仕草を行い、そのたびに心配していたのだが、本人が問題ありませんと言うので私たちも慣れてしまった。
ちなみにここはダンジョンの中なのだが空もあるし昼と夜の時間の概念もあるようだ。
考えてみれば一階層の森林エリアにも空はあるので、そういうものなのだろう。
雨が降ることは無いうえに気温も変わらないので快適に過ごすには良い場所のようだ。
「もうそろそろ宴もひと段落していることでしょう。
お二人も自室に案内しますね」
「あ、それなら私たちも……」
「マリーさん達は今日一日で様々な事があってお疲れでしょう。
ゆっくり休んでいてください」
メアリーさんは一礼してから部屋を出て行く。
扉が閉まったのを確認すると私は深く息を吐いてベッドに飛び込んだ。
「疲れた?」
カエデが私の後頭部を撫でながら語りかけてきた。
「メアリーさんも言ってたけど今日一日で色んな事があったからね。
カエデは疲れてない?」
「私は頑丈だから平気……って言いたいけど流石に疲れたわね。
マリーのお姉さんと私の探し人が同じ人だったってのも驚きだったし」
カエデの言葉を聞きながら私はうつ伏せから横向きへと姿勢を変える。
「そうだね、確かにビックリだった。
……疲れてるなら楓もこっちに来ようよ」
私はベッドの空いている反対側をポンポンと叩く。
「じゃあ、お言葉に甘えて……よいしょっと」
そう言って私が叩いていた場所に横たわり、私たちは向かい合う形でベッドに体を預けた。
「キュるるるるる」
その私たちの間に今日のMVPであるコマちゃんがやってくる。
「よしよし、今日は本当に頑張ったね。
いつもありがとう」
「私からもいつもありがとう。
上手くいったのもコマのおかげよ」
「キュるるるるる♪」
私たちが左右から手を伸ばして褒めながら撫でると、とても嬉しそうな鳴き声をあげた。
しかし、それも少しの時間だけですぐに寝息を立てて寝てしまった。
「あらら、寝ちゃった」
「頑張ったから疲れちゃったのね。
私達も少し休みましょうか」
「そうだね、おやすみなさい」
「おやすみ」
コマちゃんが寝たのを確認して撫でるのをやめた手は互いを求めるように固く握りあう。
そうしながら就寝の挨拶をすると不思議な程に安心した私はすぐに眠りについた。
カエデも同じ気持ちなのだろうか?
薄れゆく意識の中でカエデの寝息を聞いた気がした。




