メアリー転機の日
私は冒険者ギルドの職員として働いているメアリー・スーと言います。
私の主な仕事はエターニャに立ち寄る冒険者達の確認です。
ダンジョンの中にある街、エターニャはこの街の長が認めたもの、もしくは自力でたどり着いたものしか訪れることは出来ません。
そのために街に訪れる者がいる場合は、地上にある冒険者ギルドから連絡が入る仕様になっています。
私は連絡を受けてから入り口の門の前で待機し、連絡のあった人物達を迎え入れるのです。
今日は外に護衛の仕事をしに行った冒険者さん達が戻ってくるという連絡を受けて待機していました。
もちろん、門の管理以外にも書類仕事は沢山あるのでそれらを持ち込み、処理をしながら待機しております。
人の足音が4つ聞こえてきました。
今日戻ってくる紅蓮の翼の皆さんが4人のパーティなので間違いないでしょう。
しかし、現在手が離せない所なのでキリがいい所まで……声をかけられてしまいましたね。
はて?女性の声に聞こえましたが、紅蓮の翼は4人のおじ……おほん!
4人の屈強な男性パーティだったはず。
私が顔を上げると可愛らしい女性がこちらを不思議そうに見つめていました。
その直後に彼女達の後ろから如何にも悪人ヅラの………いえ、長年の冒険者活動から野性味あふれる男性4人組が私に挨拶をしてサッサと街の中に入ってしまいました。
どうやら信じがたい事ですが彼女達は自力でここに到達したパーティのようです。
この街のダンジョンは道中は比較的安全なのですがボスが極端に強いと言われています。
一階層のボス、玄武は防御力特化型であり、並みの冒険者は玄武にかすり傷一つ負わせる事が出来ずに心が折れます。
二階層のボス、白虎は素早さ特化型であり、玄武の守りを突破した重戦士達は全く当たらない自分の攻撃に絶望して心が折れます。
そうした挫折を何度も繰り返して数年越しで二階層を突破するというパーティが多いのです。
彼女達のように10代半ばのパーティがここに到達したのは恐らく初めての出来事では無いでしょうか?
本来、ここまで辿り着いても門が開かずに一度地上に戻ってから連絡が入ってから案内するという手順になっています。
しかし、今回は私がこの場にいるのでこのまま案内してしまって問題ないでしょう。
彼らをエターニャに案内して話を聞くと、驚くべき事に一ヶ月でここまで到達したと言っています。
しかも、今まで冒険者としての経験がなく資格試験を経てのダンジョン攻略と言うことです。
カエデさんというこの町で知り合ったという東の国から旅をしてきた女性だけは経験者らしいですが、それにしても異常です。
途中でガイ君とニーナさんはベテラン冒険者に囲まれてしまったので、マリーさんとカエデさんの2人をギルド長の所に案内する事になりました。
その案内をしている途中に気が付いたのですが……この2人、とても仲が良いのでしょう。
とても距離が近いのです。
ええ、ええ……物理的な話です。
密着する程に距離で私の後をついてきて、偶にお互いの耳元に口を持っていってヒソヒソと話をしています。
その様子なのですが、カエデさんの方が頭一つ分程に高いため、カエデさんが話しかける時は屈みます。
一方でマリーさんが話しかけるときには少し背伸びをして、カエデさんも少しだけ頭を落とします。
その光景が何とも微笑ましい事か。
何故か彼女達を見ていると頬が緩んでくるのですが、この気持ち分かりますか?
実際に見てないから分からない?
分かりました、このメアリー・スー。
絵に関しては多少の自信があります。
2人の仲睦まじい様子を再現して見せましょう!!
♢ ♢ ♢
後に人物画の第一人者としての名声を得るメアリー・スー。
彼女が描く絵には必ず、仲睦まじげにしている身長差のある2人の女性が描かれていたという。




