アマリス?アマテラス?
「やはりその事でしたか。
先に言っておきますが、彼女はいまこの街にはいません。
マリーさん達が知っているようにあの人はふと気がつくとフラフラと何処かに旅立ってしまうような人でしたから」
「そうですか」
トマスさんの言葉にガッカリと肩を落とす。
この街に来れば会えると思っていたのだが、ここまで会えないとは思っていなかった。
(そうだよなぁ……お姉ちゃんすぐに何処かに行っちゃうもんな。
って、あれ?)
自分の考えを頭の中でまとめていると、ある疑問が浮かんだ。
「トマスさん達は私達のこと知っているんですか?」
「ええ、もちろん。
ターニャさんからは可愛い妹分と弟分が出来たと伺っていますよ」
「もちろん俺も知ってるぞ」
トマスさんの言葉にラーベルさんも大きく頷く。
「私とラーベルはビフラーイにあるエターニャ本店の店員だったんですよ。
つまりはマリーさん達の先輩という事ですね」
「そうだったんですか!?」
「ええ、それだけでなく当時ターニャさんとはパーティを組んでダンジョン攻略をする仲間でもありました。
最も、私達はターニャさんに食らい付いていくのがやっとという状態でしたがね」
「俺にとっては仲間である前に人生全般の師匠だけどな。
あの人がいなければ俺はこんな風に胸を張って生きてはいられなかったさ」
懐かしそうに話す2人の気持ちが私にも分かる。
私達もお姉ちゃんに会わなければ、成人した時も学がなく何をしたらいいのか分からない下らない存在になっていただろう。
お姉ちゃんが孤児院を助けてくれたから仕事が出来て勉強も出来、一般的な知識を得ることが出来たのだ。
「ふーむ、アマリス殿というのは本当にすごい人物だったのでござるな。
そう言えばアマリスという名前は拙者の恩人のアマテラス様に似ていて何か良いでござるな!」
「おや、カエデさんはアマテラスという方を探しておられるのですか?」
「そうなのでござるよ。
アマテラス様は八岐という八つ首の竜から我が国を救ってくれた英雄なのでござる。
恥ずかしながら拙者の服装もその時の憧れから真似しているのでござるよ」
カエデさんはそう言って照れる素振りを見せたが、トマスさんの顔色がどんどんと変わっていく。
「おい、トマス。
あの服装、一時期東の国から帰ってきた師匠がハマってた巫女服とかいうのに似てないか?」
「ラーベルは本当にタイミングを考えずに爆弾をぶん投げてきますね。
多分間違いないので言いますが、カエデさんの探しているアマテラスという人はほぼ間違いなくマリーさん達の姉であるターニャさんの事ですよ」
「ほ、本当にござるか!?」
「ええ、彼女の話から8本頭のドラゴンと戦ったと聞いていますからね。
失礼ですが、アマテラスとは東の国でよく知られて犬言葉でないのですか?」
「そ、そうでござる!
我が国のとても偉い神様でござるよ」
「恐らくアマリスという名前が噂と共に広がった時にアマテラスという名前に置き換えられてしまったのでしょう」
「なんと!
まさかマリー殿の姉御殿が拙者の探し人であったとは。
世間とは実に狭いものでござるな」
嬉しそうに笑うマリーであったがその意見には素直に頷けない。
「多分、世間が狭いんじゃなくて、この世界がお姉ちゃんにとって狭すぎるんだよ」
「それは間違い無いでしょうね」
「うむ、師匠は規格外の人だからな」
私の言葉に姉をよく知る2人はうんうんと頷いていた。




